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帰還と奪還(1)

ルフィンを乗せた馬車が護衛の騎士を引き連れて城を出た。

 東門へと続く大通りもすでに人々の姿で埋もれていたが、先頭の騎士たちが彼らを追い払っていく。

 王子がこの都市にいるのは公表されていなかったが、物物しい警備体制の一隊を前に人々は大人しく道を譲り、馬車が通り過ぎると口々に噂し合う。

(太守に邪魔される前に男爵たちと合流しないと──)

 ルフィンは馬車の中で一人、腕を組んでいた。

 人々の壁に遮られることは予想していたが急がなければならない。

 男爵たちがここまで強引な手段をとる以上、何か重大な事態が迫っているのだろう。

 それに太守や背後にいる司祭長に対抗するためにも、男爵や“最後の騎士”との合流が必要だった。

 不意に外が騒がしくなった。

「ルフィン様!」

 フィルアネスではなく、ルフィンの名で誰かが叫ぶのを聞き、慌てて窓の隙間から外を覗く。

 外では観衆の中から飛び出した年輩の女が騎士たちに行く手を遮られていた。

「その人を通せ! 彼女がマリアだ」

 ルフィンが近くの騎士に命じると、すぐに騎士たちはマリアを解放して馬車の前に通す。

 ルフィンは自ら扉を開けると、マリアを招き入れた。

「待ってたよ、急かしてごめん」

 ルフィンが言うと、急いでいたのかマリアはしばらく息を整えるとようやく顔を上げた。

「ああ、王子……これはどういうことなんですか?」

「それはこれから分かると思う。それより、北門に“最後の騎士”はいた?」

「……ええ。北門にいるうちの一人が本物の最後の騎士に間違いないです。彼が亭主の同僚だったアウレウスです」

「北門にいる人が本物か」

 ルフィンは考える。

 ならば東門にいるのは偽者だ。

 マリアに面通しさせて、どう対応するか迷う。偽者として門を閉ざすのか、それとも本物として門を開けさせるのか。

「ともかく、一緒に来てくれないか。マリアさんの協力が必要なんだ」

「ええ、いいですとも。あたしで役に立つのならね」

 マリアも合流し、東門へと馬車は急ぐ。

 だが、またしても外が騒がしくなる。

「魔物だ!」

 護衛騎士たちの声に、ルフィンは慌てて窓から上空を覗き見る。

 確かに一匹の翼の生えた魔物が空を飛んでいた。

 烏のようだが、明らかに武器となる鋭い爪と嘴を生やし、ルフィンたちを狙っているかのように頭上を旋回している。

「殿下! 外に出られませんように! 馬車を守れ!」

 馬車の周りを騎士たちが固める。

 周囲にいた民衆たちも慌ててその場から避難していった。

「王子! あれはいったい──」

「分からない……でも、誰かに使役された魔物かもしれない」

「そんな! 王子を狙って!?」

 野生の魔物がこの都市に現れ、たまたまルフィンらに狙いを定めるなどありえない。司祭長かガルフィルスか、あるいは太守の可能性もあった。

 護衛はルフィンを護ることを優先しており、馬車は立ち往生した格好だ。

「時間稼ぎかもしれない。僕たちをここで止めるためなのかも──」

 ルフィンは歯噛みする。

 予想外の出来事にどうするべきか迷う。

(──どうすればいい)



 城壁の上にいる民衆たちが騒ぎ始めた。中にも上を見上げて指差す者もいる。

「あれは──」

 エレナが上空にいる烏のような魔物に気づく。街の上空で何かを狙うように旋回を続けているようだ。

「おそらく、太守の仕業だ」

 マークルフはその姿を睨め付けながら言った。

 望楼の兵も弓を構えているようだが、魔物がいる高さまでは狙えずに警戒するしかできないようだ。

「ルフィンたちは期待通り、動いてくれたようだが、太守もその妨害に入ったようだ。あの魔物がいればルフィンは思う通りに動けねえ」

「太守に手を打たれたか。これでは来るのは太守たちだ。王子に門を開けさせるのは無理だな」

 エレナが険しい顔をする。

「いや、まだ予想から外れてはいねえ」

 マークルフが人だかりの動きを見ながら言った。

「向こうの都合はどうあれ、マリアさんを使った顔合わせは残っている。それをして民衆を納得させなければ、この場は収まらねえからな」

「しかし、こちらが偽者とばれるぞ。仮にそのマリアが本物と証言したとしても太守が素直に門を開けさせるとは思えん」

 マークルフもうなずく。

「俺が太守なら、ルフィンとマリアさんを一緒には行動させねえ。二人が揃わなければ“最後の騎士”の証明ができない。おそらく太守はマリアさんに判別させるが、その結果がどうあれその証言を握りつぶして門は開けさせんだろう。最悪、マリアさんを口封じしてもな」

 太守はトリスを“竜墜ち”の場所にするため、リファやルフィンたちを引き留めておくのが目的のはずだ。そして、その時も近い。向こうにすれば強引な手段をとっても邪魔者を遠ざける時間が稼げればよいのだ。

「ならば、まだ手はあるのか?」

「言っただろ。成り行き次第だ」

 マークルフは城壁の向こうの街並を睨み続ける。

「悠長だな。これだけの大芝居を打っておいて成り行き次第か」

「俺らの芝居は常に即興劇なんでな」

 マークルフは落ち着き払ったまま答える。

「中にも俺の仲間もいるし、仮面の女剣士もいる。そいつらが筋書きを変えるかもしれねえし、また俺が直すかもしれねえ。俺が描くのはあくまで修正可能な大まかな流れだ」

 マークルフの目には城壁や建物に群がる観衆が映っていた。

 彼らは先の読めない騒動を互いに噂し合っている。

「次の手は観客が教えてくれる。この劇は観衆も参加してもらってるのさ」



 魔物がその場から飛び去った。

 外の様子を確かめていたルフィンは、入れ替わるように応援の部隊が到着するのを目にする。

 馬に乗った太守の率いる部隊だ。

(やっぱり足止めされたのか)

 ルフィンは拳を壁に叩き付ける。

 太守が馬から降り、馬車に近づいてきた。

 ルフィンも仕方なく馬車から出る。

「ご無事でしたか。まったく肝を冷やしましたぞ」

 太守が恭しく告げるが、ルフィンには皮肉しか聞こえなかった。

「殿下。逸る気持ちはお察し致しますが、独断での行動はお控えいただきます」

 そう言うと馬車にいたマリアを見た。

「その者がバルト卿の未亡人でしたか。リーデ司祭に付く下働きの女性がまさか騎士の妻だったとは気づきませんでした」

 太守の言葉はどこか勝ち誇っているように見えた。

「彼女に“騎士”の真贋を確かめてもらう。余も同行するところだ」

 ルフィンは内心で怒りに震えつつも毅然と告げる。

 だが、太守は冷ややかな目でルフィンを見た。

「王として“最後の騎士”を自らお迎えしようとする姿勢は感服いたします。ですが、その役目はこのローエンにお任せいただきたい」

「余が行くのは駄目だと言うのか!」

「先ほどの魔物の件も含め、危険がございます。それに殿下がこのトリスにおられることはまだ世間に公表する段階ではないのです」

 ルフィンにも太守がマリアを自分たちの側に捕まえておきたいのが、ありありと伝わってくる。

「いや、ぜひとも同行する! 彼女の答えを余も直々に確かめたい」

「何をもってそう仰るのか?」

 太守の声が下がる。

「このローエンでは信用に価せぬと申されるか」

 ルフィンは返答に窮した。

 確かに信用していないし、向こうも承知の上だろう。しかし、リファに対する非道も証明できなくてはこちらの言い分に説得力はないのだ。

「……分かった」

 ルフィンは押し殺した声で答えた。

「ただし、余も近くでそれは見届ける。もし、本物の“騎士”ならば余も証人となって出迎える。それは構わないな」

 ローエンは一瞬、冷ややかな視線を向けたがすぐに頭を垂れる。

 太守の自由にさせれば太守が何をするか分からない。せめて自分が監視することで、マリアを危険から守るつもりだった。

「承知しました。ではマリア殿、同行をお願いしますぞ」

 ローエンの連れた騎士が馬車から降りたマリアを連れていく。

 マリアが振り返り、何もできずに見送るしかないルフィンに向けてうなずいた。

 自分のことは心配するなと言いたいのだろう。

 ルフィンはうなずき返した。それを見たマリアが少し意外そうな顔をする。

 いままでのルフィンなら途方に暮れていただろう。だが、もうそんな弱気でいることは許せなかった。

「王子、あたしも騎士の妻でしたからね。この程度で動じませんよ」

 ルフィンの意気が伝わったのか、マリアも力強い笑みで応える。

 太守たちの部隊が先行する。城壁の向こうを確認できる場所に行くつもりだ。

(男爵は窮地になっても乗り越えてきた。好機はあるはずだ。きっと──)



「……来たみたいだぜ」

 マークルフは告げた。

 城壁の向こう。背の高い建物同士をつなぎ、神話の彫刻が描かれた通路の一つに兵士たちが姿を見せた。彼らはそこにいた観衆を追い払っていく。

 やがて、そこに何人かの姿が現れた。

 それは太守ローエンとマリア、それに護衛の騎士たちだ。

「確かに民衆が教えてくれたな」

 エレナも太守たちの姿を確認したようだ。

 すでに周囲は民衆たちに埋め尽くされている。“騎士”の真偽を確かめる場を確保するため、に 民衆をどかして占拠することは予想していた。

「太守がマリアさんを連れてきたか。やはりルフィンは妨害されたようだな」

「王子も近くに来てはいるのか」

「おそらくな。ルフィンもマリアさんから目を離すのは危険だと分かっているさ」

 エレナがマークルフの表情を窺う。

「そのマリアとやらはどう答えると思う?」

「どう答えるかはマリアさん次第さ。だが、どう答えようと次の動きはこう読んでいる。太守は証人であるマリアさんを消しにかかる」

「この時でか?」

「この時だからさ。太守はルフィンにマリアの答えを聞かせたくないはずだ。マリアさんを孤立させたこの時が実行の機会だ」

「筋は通るな。しかし、さすがに王子たちも監視しているぞ」

「さっきの魔物が使えるならそうしてくるだろう。自分が使役している証拠さえせなければ追及できないだろうからな」

 エレナは厳しい顔を見せ、外に目を向ける。

「あの太守も手段を選ばないわけか」

「トリスを“竜墜ち”の生贄にする代わりに、将来の地位などは約束されているだろうからな。それまでは意地でも阻止に向かってくるさ」

「忌々しい限りだな」

 エレナも憤りを覚えるように唇を噛みしめる。

 それを見ていたマークルフが苦笑した。

「あんたもそういう顔を見せるんだな」

「当然だ。“竜墜ち”を阻止するために私はこの地に来たのだ。そなたもこのままマリアを見殺しにする気はないのだろう?」

「もちろん。それは俺の描いた筋書きじゃねえ」

 マークルフは腕を伸ばした。

「表にいる“最後の騎士”さんに伝えてくれ。顔を隠して、もう少し時間を稼いでくれってな」

「どうする──」

 訊ねようとしたエレナだが、それ以上は口を開かなかった。

 マークルフの腕が魔力の紋章に包まれていた。



 人の多い道を避け、裏通りを進んでいたエルマたちだが、アードが足を止めた。

「姐さん! 肩当てが──」

 アードの持つ古代鎧の肩当てが震えていた。

「男爵が必要としているんだわ。休止状態を解除してあげて」

 エルマはすぐに答えた。

「いいんですか? これを使って何かするつもりだったんじゃ──」

「男爵の方が優先よ。急いで」

 アードが肩当ての機能制御を解除した。

 その途端、肩当ては男爵の放つ制御信号を辿って飛び去っていく。

「ワシらも追いかけるか?」

 足許の地面からダロムが顔を出すが、エルマは首を横に振った。

「いいえ。うちらは様子見よ。男爵の狙いがはっきりとするまではね」



 城壁の向こうを一望できる通路の上に太守とマリアの姿があった。

 そこは古い歴史を持つ教会を改築した会館の最上部だ。通路の両端は塔につながっており、そこは警護の騎士たちが立っている。

「さあ、答えてもらおう。ここからなら“騎士”の顔を確認できるはずだ」

 太守がマリアに告げる。

 太守とルフィンの間に何があったのかは、マリアもリーデから聞いていた。

 マリアもルフィンの立場がなければきっと太守に殴りかかりたい怒りで一杯だった。

 彼女は渋々ながら傭兵部隊の先頭に立つ“騎士”の姿を見つめる。

 答えはすでに分かっていた。北門に本物がいるのだから当然、偽者だ。

 しかし、“最後の騎士”が誰かをわざわざ教えることはしたくない。

 とはいえ、偽者と答えれば北門に本物がいると疑われるし、本物と答えればそれこそ北門にいる本物が偽者として追撃されるかもしれない。

「まだか?」

 腕を組んだ太守が苛立ち交じりに訊ねる。

「ま、待ってくださいな。遠いうえに顔が見えにくいんですよ」

 マリアは時間稼ぎのつもりで答える。確かに向こうの“騎士”は外套姿で俯いており、顔を確認しずらかった。

「ええい。伝令を出せ! 外にいる“騎士”に顔を上げるように伝えろ!」

 痺れを切らした太守が控えていた部下に命じる。

 しばらくして城壁に立つ兵士が何かを叫ぶ。

 傭兵部隊の“騎士”に顔を見せるように伝えているようだ。しかし、“騎士”側も事情があるのかそれに難色を示しているように見えた。

「……意地でもこちらには教えないつもりか」

 太守がやがて押し殺した声で告げた。

「王子が出させようとする気か。ならば仕方あるまい」

 太守が左手の革手袋を外した。そこには何かの文字が描かれ、その手で周りに目立たないようにマリアを指さす。

「それはいったい──」

 マリアが不吉な予感を覚えて訊ねるが、太守は芝居がかったようにその場から飛び退く。

「魔物だ!」

 太守が叫ぶと同時に死角となる通路の真下から黒い羽根を広げた巨大な烏が姿を表した。

 振り返ってその姿に気づいたマリアの眼前にすでに魔物が迫っていた。



 太守たちがいる建物の側で、ルフィンは護衛部隊に守られながら待機していた。

 マリアの身が気がかりなルフィンも馬車から降り、太守たちの姿を監視している。

「あれは!? いかん! 殿下をお守りしろ!」

 護衛の騎士が叫ぶとルフィンの周りに展開する。

 建物の間をすり抜けるようにして、先ほどの魔物が再び接近していたのだ。

「逃げてなかったのか!」

 ルフィンが叫ぶが、その前に魔物は通路の真下から急上昇して太守たちの前に飛来する。

 太守は寸前で気づいて飛び退いたようだが、マリアは不意を突かれて魔物の前に立ち尽くしていた。

「マリアさんッ!!」

 ルフィンは叫んだ。



 完全に不意を突かれたマリアに魔物が襲いかかった。

 この空中の通路の上では逃げ場はなく、護衛の騎士たちも間に合わない。

 マリアは思わず身を伏せる。

 その瞬間、魔物と彼女の間に何かが割り込み、魔物が悲鳴をあげた。怯んだ魔物はその場から離れる。

「あれは!?」

 魔物の攻撃を妨害したのは、紅い光を放つ肩当てだった。

 それはまぎれもなくユールヴィング男爵が使用していた古代鎧の一部だ。

 飛来した肩当ては城壁を越えて傭兵部隊の方へと飛んでいく。

「おのれ! “狼犬”の仕業か!」

 太守が起き上がると再び左手でマリアを指差した。

 魔物が身を翻し、再びマリアを狙って飛来する。

「マリアさん、無事か!」

 塔から護衛の騎士を引き連れたルフィンが現れた。ルフィンは魔物の姿に気づくと躊躇うことなくマリアの許に駆け出す。慌てて護衛の騎士たちも後を追った。

 魔物が狙うよりも先にルフィンはマリアを庇い、その二人を護衛の騎士たちが盾となって立ちはだかる。

 魔物はマリアを狙うことができずにその場から離れた。

「王子!? 無茶な事はしないでくださいな!」

 マリアは思わず叫んだ。命が助かったことよりもルフィンが身を呈したことに寿命が縮まった思いだった。

「だって、このまま好き勝手させるわけにはいかないだろ。そう思うだろ、ローエン卿?」

 ルフィンが太守の姿を睨め付ける。

「……そうでございますな」

 太守も苦い顔をするが、やがてそう答えた。

 ルフィンが立ち上がると城壁の向こうに展開する傭兵部隊を見下ろす。

「王子、あれは男爵様の……」

「ああ、戻って来たんだ!」



「ルフィン、来てくれたか……これで舞台の主役が揃ってくれたぜ」

 魔物とのやり取りを眺めていたマークルフが笑みを浮かべる。

 エレナもその視線を辿ろうとしたが、やがて驚いてその場から退く。

 入れ違いに肩当てが飛んでくると、マークルフに衝突した。

 後ろに弾き飛ばされたマークルフはやがて空中で宙返りすると地面に着地する。

 その右肩に肩当てが装着され、マークルフの身体も動くようになっていた。

 マークルフは懐から布を取り出すと、それを顔に巻いた。

「ちょっと行ってくる。出迎えの準備を頼むぜ」

 マークルフは肩当ての魔力噴射を最大にして飛び立ち、エレナは再びその場から退く。

 傭兵部隊の間から飛び立ったマークルフは一気に城壁まで飛んだ。

 肩当ての魔力残量だけが不安要素だったがこの場に必要な魔力は充填されていたようだ。

 観衆たちが慌てて迫るマークルフから逃れようとする。

 城壁を守る弓兵は突如現れた魔物を狙っていたため、マークルフへの狙いが遅れた。

 城壁の上まで飛んだマークルフはそれを足場にさらに跳躍した。逃げ遅れた観衆の頭上を飛び越えながら、ルフィンたちのいる空中通路目がけて飛んでいく。

 それを阻止するように魔物が迫った。

 魔物は体当たりを狙うが、マークルフの手刀がそれよりも早く魔物を打ちつける。元々戦闘用ではなかった魔物は身体強化された手刀の一撃であっさりと墜落する。避難する民衆たちの間に落下した魔物は起き上がる前に弓兵たちの矢を次々に浴びて絶命する。

 魔物との接触で軌道を崩したマークルフはルフィンたちのいる通路の壁へと衝突した。身体に響いて顔をしかめるが、すぐに欄干に手をかけるとその上に飛び乗る。

「おのれ!」

 太守が剣を抜いたが、それを妨害するようにルフィンが前に立つ。

「まて! 敵じゃない!」

「驚かせたことはどうかご容赦を! フィルアネス殿下! これより“最後の騎士”殿のところまでご案内いたします! どうか、ご同行願います!」

 芝居がかった台詞を吐きながらマークルフは腕を伸ばす。

 護衛の騎士たちが前に出ようとするが、それよりも先にルフィンが手を伸ばしてマークルフの手を掴んだ。

 マークルフはルフィンを持ち上げると脇に抱え、建物の屋根の上へと跳んだ。

 マリアがこちらを見るが、マークルフは視線を合わせる。

「殿下! 最後の騎士の所までしばらくご辛抱を!」

 そう声をあげながらマリアに目で合図を送る。

 その間にも騎士たちが通路に集まり、建物からも騎士たちが慌てて駆け上がってくるのが聞こえた。

「潮時だな。ルフィン、一気に跳ぶからな。舌を噛むなよ」

 注目を集めている間に目的を達したマークルフは、肩当ての魔力を噴射させて一気に城壁の向こうまで飛ぶのだった。



「──マークルフ様!?」

 城の地下。どことも知れない地下室に幽閉されていたリーナは椅子から立ち上がった。

 地下室の天井はただの石壁だったが、その先にある地上から確かにマークルフが放つ制御信号の反応を感じたのだ。

 妖精たちから生きていることは聞いていたが、こうして直接、その反応を確かめることができたことでようやくそれを実感する。

 だが、制御信号が放たれる以上、差し迫った状況なのも間違いない。

 きっと地上で大きな動きが始まったのだ。

 もしかしたら“竜墜ち”が近いのかもしれない。

 リーナは壁に額を押し当てるようにして祈る。

 “機竜”の咆哮に焼き尽くされることは恐れていない。それよりもここで何もできずに果てることの方が怖ろしかった。

「どうか、ご無事で……」

 幽閉された現在の彼女にできることはそれしかなかったのだった。



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