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背負いし使命

(――ここは?)

 目を覚ましたマークルフは辺りを確かめる。

 ここはどこかの川のほとりらしい。

 させられていたはずの枷が外され、毛布に包まれて寝かされていた。

 暗い空には月が浮かんでおり、傍らで焚き火が爆ぜる音がする。

 周囲は崖に囲まれ、近くに馬車と馬の群れ、そして天幕が一つ設置されていた。

「――お分かりですか、閣下?」

 マークルフの傍らに腰を下ろしていた男が声をかける。

 まぎれもないログの姿だった。

「おまえか!?」

 マークルフは首を巡らせる。

「俺だけか? リーナはいるのか!?」

「残念ながらリーナ姫の姿は見ていません。到着が遅れ、申し訳ありませんでした」

 ログは跪き、深々と頭を下げる。

「いや、俺が謝らねえとな。おまえもここには来にくかっただろう?」

「それはこちらの事情です。もっとも、わたしも逃げられない立場となりましたが――」

「そっちの事情はだいたい察しているつもりだ。こっちの事情についてはどこまで分かっている?」

「トリスで司祭長らに捕まったという所までは――やはり、双子の殿下らと共に行動されていたのですね」

「そこまで知っているなら話は早いな」

 地下牢に司祭長がやって来て、そこで妙な薬を嗅がされたのまでは覚えている。そこから先の記憶はなかった。暴れないように薬で眠らされたのだろう。

「……この身体なのに用心深い奴だぜ、あの司祭長はよ。おまえが助けてくれたのか?」

「わたしだけではありません」

 ログが天幕の方を振り向く。

 天幕には警護の騎士が数人いたが、ログの動きに気づいて何かに呼びかける。

 やがて天幕の中から一人の少女が現れた。

 彼女は騎士に何か告げると一人でこちらへと赴き、横たわったままのマークルフの前に立つ。

 エレナ=フィルディングだった。

「最長老の孫娘殿か……また会ったな」

「前に会った時よりも傷が酷くなっているようだが、本当に大丈夫か?」

 相変わらず愛想のない表情ではあるが、一応は心配してくれているようだ。

「ちょっとしくじった……だが治療の手段はある。それさえできれば“竜墜ち”までには間に合う。それよりもログ、今がどのような状況かを教えてくれないか?」

 尋ねられたログがエレナの方を窺う。

 助けてくれたらしいが、彼女もフィルディング一族の人間である。

「構わねえ、ログ……ともかく、このブランダルクで起きている流れをできるだけ把握するのが先決だ。これ以上、司祭長らの後手に回るわけにはいかねえんだ……すまんが起こしてくれ」

 ログに抱え起こされたマークルフはエレナを見る。

「こっちの情報は渡す。その代わり、そっちも必要な情報は教えてくれ。ログに“心臓”を移植するのは時間的に間に合いそうにない。こうなれば何としても身体を治して“機竜”を破壊するしかねえ――あんたも最初からそうさせるつもりなんだろ?」

「確かにな。だが、そなたは私を信用するのか?」

「フィルディング一族の名に誓ってくれればいい。嫌いな名だが、あんたがそのために背負っている使命は信用しようじゃないか」

 エレナが起きているのも辛いマークルフを見ていたが、やがて近くの岩に自ら腰を下ろした。

「……そうだな。お互いに警戒したあげく、“竜墜ち”阻止に失敗したでは末代までの恥だ。そなたの“竜墜ち”阻止に懸ける使命ぐらいは私も信用しよう」

 エレナがうなずくのを見て、マークルフとログはブランダルクに来てからの経緯を互いに伝え合った。



「……遅い! いったい何をしてるのよ!」

 自分の部屋に籠もっていたリファが一人で叫ぶ。

 あれからまた日が過ぎて夜になったが、いつまで経っても妖精たちが来る気配はなかった。

「まさか、妖精さんたちにも何かあったのかな?」

 寝台に座っていたリファは立ち上がると、居ても立ってもいられずその場を往復する。

「どうしよう……このままだとリーナお姉ちゃんも男爵さんも助け出せないよ。もし、手遅れになったら――」

 リファなりに悩んだ結果、彼女は思い立つ。

「こうなったら! お姉ちゃんが捕まっている証拠を集めて、兄ちゃんに直談判するしかないわ。動かぬ証拠があればきっと――」

『――やめておけ』

 リファはハッとして後ろを振り返る。

 だが、誰もいない。

「……気のせい?」

『いや、違う』

「だ、だれ!?」

 どこからともなく聞こえる声に、リファは部屋の隅に逃れて周囲を見渡す。

『ここにはいない。直接、君の脳裏に伝えている』

 リファはその声を無視して寝台の下や衣装棚の中を確かめるが、何も見つからず徒労に終わった。

『気は済んだか?』

「あ、あんた、いったい誰よ!? 何で人の頭に勝手に喋ってくるのよ!?」

『実験を兼ねた忠告だ』

「……ハイッ?」

 予期せぬ返事にリファは間の抜けた顔をする。

『魔力で動く自律知能型への支配能力が、君にどこまで影響を及ぼせるか試したのもある』

 さらに意味が分からないが、ともかく頭が痛くなりそうな相手と判断した。

「つべこべ言わずに、名前ぐらい言いなさいよ!」

『名乗るつもりはない。敢えて言うなら、神の真似事をしているとだけ言っておこう』

 リファは確信した。相手はリファの苦手な“頭のデキが違う小難しい”系だと――

「う、うるさい! 女の子を支配しようとか、ようするに変態なんでしょうが! あんた、あたしの着替えとかお風呂とか覗いてたんじゃないでしょうね!?」

『そんな興味はない。それにこちらにできるのは居場所の探知と声を拾うこと、そして、こちらの声を届けることぐらいだ。どうやら君は“人”として長く生きたせいで、こちらの支配が及ばないらしい』

「こっちに分かるように話しなさいよ! ちんぷんかんぷんなのよ!」

『それでいい。いずれ、嫌でも知ることになる』

(うぅ……やっぱり、話が通じそうにないなぁ)

 リファは内心、途方に暮れる。

 だが、この愚痴については向こうからの反応がないので、本当に頭の中は覗けないようだ。

「じゃあ、質問を変える! 何の用?」

『忠告をするためだ。まず君が考える行動は無駄だ』

「うるさい! やらなきゃ分からないじゃん! こっちの勝手でしょうが!」

『リーナ姫は太守に監視されている。そして君もな』

「あたしも? あの太守が?」

『そうだ。だから、下手なことをしても阻止されるだけだ。それにリーナ姫はユールヴィング男爵に極めて近い人物だ。他国の侵入者を捕らえているだけなら、いまの王子では彼女の解放もできまい』

 リファは反感を覚えるが、謎の声が言うことも一理あり反論することはできない。

「だ、だったら……例えば、ぼや騒ぎを起こしてその隙にとか――」

『王女が反政府勢力の拠点に火付けか。君が抹殺され、王子が路頭に迷うのでよければやるがいい。こちらは君の思いつきの相談相手ではない』

 リファはむくれた顔をして黙る。

「……だったら、どうしろって言うのよ」

『ここから逃げろ』

 リファはまたすっとんきょうな顔をする。

「な、何でよ!? 何であたしが逃げなきゃいけないのよ!?」

『理由はいずれ分かるが、兄とこの国を守ることにはなる。それに君は王女で、太守が優先して監視しなければいけないのも君だ。だから君が逃げれば太守は嫌でも君を追いかけることになる。そうすればリーナ姫も助けやすくなるだろう』

「あんたが助けるの?」

『いや。だが助けようとする者はいる。彼らに任せればいい。何とかなるだろう』

 いろいろと事情を知っているような口ぶりだが、まだまだ信用はできない相手だ。

「簡単に逃げろっていうけどさ、あたしが城を抜け出せると思うの!?」

『それを手伝う人物がすでに準備に動いている。城を抜け出すのなら難しくはないだろう。どうする? こちらは信用できずともリーナ姫も同じ忠告をしているはずだ』

 リファはリーナの囚われた部屋に行った時を思い出す。確かにリーナは鉄巨人に乗って自分に逃げるように言っていた。

「どうして、あんたもリーナお姉ちゃんもあたしに逃げろって言うのよ?」

『ここから逃げたら分かることだ』

 リファはしばらく迷うが、やがて決意を固めて顔を上げた。

「逃げる準備をしているのなら、リーナお姉ちゃんも一緒に連れて逃げて。その条件ならここから逃げる!」

『そう考えるか。しかし、リーナ姫を助けようとしても君が捕まる危険も高い。承諾はできかねる』

「そっちの事情は知らないわよ! そっちが頼みを聞かないなら、こっちもあんたの頼みは聞かないだけよ」

 相手がどこにいるか知らないが、リファはそっぽを向く。

『……こうしていても埒が明かないな。仕方ない、君に手を貸そう。だが安全は保証しない』

「声だけの奴に保証されたって嬉しくないし! ともかく、力を貸せばいいのよ」

『それで、どうやって助けるつもりだ?』

「あんた、いろいろと事情通なんでしょう? 何か考えてよ」

『丸投げか。相談相手でもなかったな』

 むかつく言い方だが、ともかく謎の声から協力をとりつけることはできた。

 思わぬ協力者を得たリファはリーナ救出のために動き出すのだった。



 マークルフはここまでの経緯を語った。

 ブランダルク辺境付近に落下した後、双子たちに助けられて避難先の村に運ばれたこと。

 その双子が亡き先代王の遺児であり、現王ガルフィルスに命を狙われていること。

 トリスまで同行したが、そこで司祭長の待ち伏せにあい、不覚をとってリーナと共に捕まったこと。

 そして、双子の傍には若き女司祭と亡き騎士の未亡人もいたことを――

 女司祭たちの話を聞いたログの表情が陰る。

「そうです。間違いありません。二人ともわたしの知っている者たちです。その司祭の本当の名はアデル――亡き団長の忘れ形見で、仮面の女剣士の正体です」

「やはり、そうだったか。しかし、おまえの恩師の娘とはな……戦えるのか?」

「……これも運命でしょう。ともかく、トリスに戻らねばなりません。彼女もトリスで待っているはずです」

「全ての役者はトリスに揃っているということか。俺も舞台に出遅れるわけにいかんな」

「無論、リーナ姫の救出と閣下の治療を優先します。ですが、向こうもいつまで待つかは分かりません。その時は副官の座を返上し、お暇をいただきたいと思います」

 ログが願い出るように静かに頭を下げた。

「“最後の騎士”に戻り、決着をつけるおつもりですか?」

 背後で話を聞いていたエレナが口を開く。

「神女の力を受け継ぐ者と、その技と遺志を最後に受け継ぐ者――ブランダルクの窮地に手を結ぶことはできないのですか?」

「……できないでしょう。目的はまだ不明ですが、何かを企んでいるのは間違いありません。これ以上、あの人が何かをする前に止めねばなりません」

「それが貴殿が背負った使命というわけですか」

 ログは何も答えなかったが、主君に頭を下げる姿がその覚悟の全てを示していた。

 マークルフはログに微笑みかける。

「あらたまって言うことはねえ。来る者拒まず、去る者は追わず。それが傭兵の流儀だ。自分の意地を通せ。そして戻る気があったらまた戻ればいい。給金を貰い損なうのも嫌だろう?」

「ありがとうございます」

 マークルフはエレナに視線を向ける。

「今度はそっちの番だぜ」

「……我々は司祭長の暴走を止めるため、ここに来た」

 エレナの口から、マークルフたちと分かれた後の話が語られた。

 司祭長と謁見してその野心を確かめた後、彼の動きをずっと探っていたこと。

 そしてマークルフしか持たない“鎧”の反応をトリスで確認し、事態の急変を確かめるために赴く途中だった。

 その途中でログと司祭長の戦いに遭遇したらしい。

「奴は現在、“機神”に対する最上位の命令権を有している。“機神”への命令が届かない辺境にこそいるが、この地に“機竜”が誘導されているのも奴の企みによるものだ。お祖父様は奴の力を危険と判断され、私を遣わしたのだ」

 そして、エレナから先ほどの司祭長との一件も伝えられた。

「……なるほどな。俺が寝ている間にいろいろあったもんだ。あんたは奴が“機神”を利用していると思うか?」

「それが分からないのだ」

 エレナも考えるように目を閉じる。

「司祭長の力は確かに“機神”のそれだ。制御装置を凍結した段階で無力化したことからも間違いない。だがクレドガルにある“機神”を利用してはいない。それも間違いない」

 マークルフは先日の司祭長やオレフとの戦いを思い出していた。

「とりあえず司祭長の力は封印したんだろ? あんたはこれからどうする?」

「まだ“複製”が残っている。そなたも戦った司祭長に従うオレフという男だ。あの者が司祭長が持つ制御装置の複製を所持しているはずだ」

「複製ってのは厄介だな。それが一つとは限らないぞ」

「司祭長が制御装置を研究していた期間。それに“機神”を最終的に無力化するという目的に従うなら複製は一つしかないはずだ。いずれにしろ、オレフという男も放置することはできない」

「そうだな……全ての謎の鍵を握るのはあの男かもしれん」

 マークルフはその表情を険しくする。

「これはただの憶測だが、奴は自らを“機神”の複製にしている可能性もある」

「それは、どういうことだ?」

 エレナもさすがにそれは検討していなかったのか、その声に戸惑いが混じる。

「そのままさ。奴は機械を操り、かつて“機神”が利用した対生成機関をそのまま再現までしている。司祭長らが魔力を惜しまず使えるのは、その機関で魔力を常に貯めているからだろう。“機神”の能力を手に入れ、司祭長たちがそれを利用しているのならそれらの説明はつく」

「しかし! あれは世界すら滅ぼした古代技術の集大成だ! 制御装置ですら困難を極めるものというのに、“機神”そのものを複製など訳が違う! オレフは優れた科学者らしいが、さすがにそこまでできるとは――」

 いつになく取り乱す彼女の前でマークルフは冷静に努める。

「ありえんとは思っている。だが、俺も科学には素人だ。だから技術的に可能かどうかは考えねえ。だが可能だったら――」

 エレナが口を固く閉じる。あまりに信じ難い話だが、それが一番、説明のつく仮説であるのも確かだ。

「幸い、こっちにも優れた科学者たちが来ている。トリスにいるはずだ。そいつに聞けば何か説明してくれるかもしれねえ」

「ともかく、トリスに行かねばならないか」

「そうだな。俺はリーナを取り戻し、身体を戻す。あんたはオレフの力を封じる。ログは神女の力の悪用を止める――そのための協力関係だ」

「承知した」

 エレナがマークルフにそう答えるとログの方を見た。

「では副官殿、そなたの魔法剣の魔力を補充しましょう。柄の水晶を預かってもよいですか?」

「できるのか?」

 マークルフが尋ねると彼女は頷く。

「その規格は古代文明で一般的なものです、副官殿。こちらの機材でも対応できます。先ほどの戦いでかなり魔力を消費していはず。こちらも助けてもらったまま借りにはできません」

「そうしてもらえ、ログ。仮面の女剣士と戦うなら少しでも魔力は残しておいた方がいいぜ」

 ログはうなずくと、剣の柄にはめられた水晶を外した。この水晶に魔法剣発動時の魔力を蓄積しているのだ。

「預かりましょう。後でお返しします。それでどうする、狼犬? 寝る場所も用意しようか?」

「ご厚意だけ受け取っておくよ」

 ログがマークルフを背負って立ち上がった。

「司祭長からかっぱらった馬車があるし、その中で寝させてもらう。夜風ぐらいはしのげるだろ」

 そう言うとマークルフはログに背負われて立ち去ろうとするが、マークルフが振り返り、ログも足を止めた。

「エレナ=フィルディング。あんた、少し気負いすぎだな」

「何だと!?」

 エレナが一瞬、感情を剥き出しにするように怒るが、すぐにそれに気づいて冷静を装う。

「……すまない。気が立ってしまった」

「司祭長に言われたことがまだ気になっているようだな」

 マークルフに見透かされてばつが悪そうにエレナは目を逸らす。

「……私はしくじった。司祭長に遭遇し、その力を止められたことは幸運だった。しかし捕らえることはできず、逆にこちらの手の内を明かしてしまった」

「仕方ねえさ。どんな切り札でも対応できるように“複製”を用意していたんだろ。司祭長が用心深かっただけのことさ」

「仕方ないで片づく問題ではない」

 エレナが厳しい表情を向ける。自分を叱責するような姿だ。

「何とかなるさ。ここから先は俺も協力するしな」

「頼もしい言葉だが、副官殿に背負われながら言われてもな」

 エレナが皮肉を返す。

「そう言うな。この身体でもいままで何とかなってきたんだぜ」

「満身創痍の役者が、次の舞台に立つ気満々だな」

「なに、芝居ってのは怪我人でもできるもんさ」

「まるで芝居で戦っているようだな?」

「その通りさ」

 あっさりと返すマークルフにエレナも少し面食らった様子を見せる。

「戦いなんて芝居で十分。真面目にやったところで損するだけだ」

「損得の問題ではない! こちらは一族の命運が賭かっている!」

「戦う理由なんてたいがい損得さ。付き合ってたら身がもたねえ。真面目な奴は長生きできねえぜ」

 ログが向き直り、マークルフはエレナと正面から向かい合う。

「司祭長を逃がしたぐらいで後悔していたら俺はどうなる? 自分の槍に刺されて捕まってるんだぜ。土下座して自ら首を落として詫びなきゃいけなくなるじゃねえか」

「そうは思わんのか」

「思わねえな。詫びるなら全部やり終えてからだ。どんな大根役者でも舞台に立ったら、最後まで演じきる。それが傭兵上がりのユールヴィング家の生業でな」

 エレナはしばらくマークルフの顔を見ていたが、やがて薄く笑った。感心したのか、呆れたのかは分からなかったが――

「言ってくれるな。あいにくと私には傭兵の血は流れていない。それに、そなたには凄腕の剣士がいる。優れた科学者たちがいる。そして何よりもそなたの身を案じ、自らその盾となる戦乙女がいる……だが、こちらはそうはいかないのだ」

「だったら俺のところに亡命するといいさ。一族の人質として丁重にもてなすぜ」

「思ってもいないことを口にするな。それに私に人質の価値はない。必要になれば切り捨てられるのが私の立場であり、価値でもある」

「真面目だな、あんた。そんな損な役回りなんて俺なら尻尾まいて逃げるね。まあ、無茶だけはするなよ」

 マークルフをおぶったログが再び背を向ける。

「――おまえにだけは言われたくないな」

 エレナがマークルフの背中に向けて言った。

「お祖父様はおまえの事を一族の“天敵”と認めていた。ルーヴェン=ユールヴィングの名と偉業は血筋だけで継げるものではない。そなたは良くやっていると思う。我ら一族と戦うなんていう損だけしかない役を、まったく腹が立つほどにな!」

「最長老の孫娘公認か。そいつは光栄だな」

 エレナに見送られてマークルフたちは去っていくが、またもログの足が止まり、マークルフは振り向く。

「あんた、まだ隠している切り札があるだろ」

 マークルフがしたり顔で言った。

「なッ!?」

 エレナが不意を突かれて戸惑いを隠せない。

「司祭長に対抗するための策とは別のもの――多分、“機竜”に対抗するための策だな」

「な、何を根拠に――」

「何もなければ魔力を補充する機材なんて持っている理由がないしな」

 エレナが返答に窮し、渋面を浮かべる。

「エレナ姫、あんたのご厚意には感謝するぜ」

 ログが動かないマークルフの右手を持ち上げ、左右に振る。

「じゃあな、あんまり気負うなよ」

 わざわざ挨拶の仕草までしたマークルフは笑いながら、ログに連れられていく。

 エレナは唇を噛みしめるとその背に言い放った。

「貴様! この件が片付いたら承知しないからな! 覚えておけ!」

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