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司祭長と若き賢者の追撃

「リーナ!」

 司祭長が動くと同時にマークルフは叫んだ。

 部屋の隅に飾られた彫像と棚が砕けた。そこから白い球体が出現し、細身の人型の機械へと展開する。

 古代エンシアの機械兵だ。折りたたんで球体へと変形させることで狭い空間にも配備できる対人制圧用の特殊兵器だ。

 機械兵が素早い動きで飛びかかってきた。

「マークルフ様!」

「やるぞ!」

 リーナに腕を掴まれたマークルフの全身に紅い光の紋章が浮かぶ。

 機械人形の腕がリーナを掴もうとするが、彼女の身体は光の粒子となってそれをすり抜けた。マークルフにも機械人形が掴みかかるが、その寸前に彼を包んだ光の粒子がその腕を阻む。

「これが──」

 司祭長が目を細めた。

 マークルフの全身に光の装甲が出現する。その過程で彼に触れようとしていた機械人形の腕が砕け散った。

 マークルフは腕の砕けた機械人形を蹴り飛ばすと、もう一体の頭を鷲づかみにして司祭長へと投げつける。

 機械人形は球体へと変化し、司祭長の脇を掠めて背後の壁にめり込んだ。

「なるほどな。それが噂に聞く“黄金の鎧の勇士”か」

 光の“鎧”を纏ったマークルフを前にしても、司祭長は冷静な態度を崩さずに言った。

「しかも“鎧”に変化する際、異物となる物を破壊するか。これは厄介だ」

『余裕だな。俺があんたを殺さないと思っているのか』

「それは分からんよ。君が彼女の変化したその手で人の命を奪えるのかどうかはね」

 挑発ともとれる司祭長の言葉だが、その目は油断なくこちらを見据えていた。

 司祭長の背後で球体が再び人型に変化し、彼の盾となるように立つ。

 背後でも腕の砕けた機械人形が立ち上がる。

『マークルフ様、私のことは構わずに──』

 リーナの声がする。

 マークルフは司祭長と睨み合うが、やがて飛び上がると天井と屋根を突き破り、外へと飛び出た。

 マークルフは近くの尖塔に着地する。

 城下は闇夜の下で静寂に包まれていた。

 “鎧”の装甲がぼやけ、光に変わる。

『この身体では深追いはできねえ』

 身体はまだ戦いには厳しい状態だ。それを知っている司祭長がまだ手札を隠しているとすれば、いま戦うのは危険と判断した。

『これからどうされるのですか』

『……リファを連れて脱出する。せめてここに“機竜”を誘導できないようにしねえとな』

 装着信号の安定が戻り、装甲が輪郭を取り戻す。

 その時、別の尖塔の上に誰かが立っているのに気づいた。

 それは一人の青年だった。その服装から兵士ではない。普通なら登ることのできない場所に、青年はマークルフの出現を予想していたように静かに立っている。

『──それは!?』

 青年が手にしていたのは、“機竜”との戦いで失った《戦乙女の槍》だった。

「お初にお目にかかります。マークルフ=ユールヴィング男爵殿」

 青年が口を開いた。

『何者だ──なぜ、その槍を持っている?』

 マークルフは屋根を踏み締める。返事がどうであれ、あの槍は“機竜”との決戦に備えてどうしても取り戻さねばならない物だった。

「オレフと申します。貴方の下にいるエルマからお聞きかも知れませんが、お見知り置きを──」

 オレフと名乗った青年は静かに頭を下げる。

『そうか。やはりおまえも司祭長と繋がっているわけか』

 オレフが答える前に、マークルフは問答無用に飛びかかろうとする。

 だが、踏み込もうとした瞬間、急激に全身が重くなり、その隙を突くようにオレフが手を翳した。

『クッ──!?』

 目に見えない巨大な衝撃がマークルフに叩きつけられる。

 尖塔から吹き飛ばされたマークルフは城壁を越え、城下の街へと叩きつけられるのだった。



「姐さん!? 針が──」

 アードが脇に脇に置いていた魔力測定器を指した。

 装置の組み立てに着手していたエルマも急いで針の動きを見る。

「“鎧”が発動した──なぜ、ここで!?」

 エルマはさらに別のことに気づく。

 計器は“鎧”だけでなく、別の何かにも反応しているようだった。さらに“鎧”の反応を記録していた針が大きく乱れた。

「姐さん、どうします!」

 ウンロクが訊ねるが、エルマは測定器の調整を続け、答えない。

「どうかしたんです、姐さん?」

 エルマは調整して、“鎧”の陰で反応している何かの動きをじっと見つめる。

 どうやら魔力のようだ。微弱だが広範囲に渡って継続的に発せられていた。おそらく信号の類と思われた。

「まさか“鎧”の弱点を狙って──いえ、ありえるわ」

「弱点?」

 エルマは立ち上がった。

「グノムスを急いで男爵の援護に向かわせるわ! この反応の発信先も計算して!」

 このような策を考えてくる相手は、エルマには一人しか思い浮かばなかった。



『──大丈夫ですか、マークルフ様!』

 リーナの声にマークルフは起き上がった。

 周囲は崩壊した民家の中らしい。

 天井が崩壊し、そこの住人とおぼしき家族が落下してきた黄金の鎧姿を遠巻きにしている。

『すまねえ……家を壊しちまってよ』

 マークルフが立ち上がると、家族は慌てて逃げ出す。

『そっちは大丈夫か』

『は、はい。いまのところは──』

 マークルフは手足を動かして調子を確かめると、外に出た。

 外には野次馬たちが集まっていたが、すぐにそれも悲鳴に変わった。

 さきほどの機械人形が五体、どこからか姿を現し、マークルフの行く手を塞いだのだ。

 機械人形たちは逃げる野次馬たちには目もくれず、包囲網を形成しながら少しずつその範囲を縮めていく。

『また出たか。だが、これぐらいならいまの俺でも──』

 マークルフは身構える。

 再び装甲がぼやけて光になるが、不安定な状態でも機械人形相手なら戦える力はあった。

 だが、予想を超えてマークルフの全身が重くなり、思わず片膝をついた。

『どうした、リーナ!?』

『わかり──でも──このままでは──』

 リーナの苦しむ声がしたが、その声も途切れがちになる。

 マークルフは気づく。

 “鎧”が不安定になり、肉体強化もままならなくなっているようだが、魔物と戦った時と比べても不安定になるのがあまりに早すぎた。

「何の対策もせずに君を相手にすると思ったかね」

 屋根の上から表れたのは司祭長だった。

『……ずいぶんと足が早いもんだな』

 あの短い時間で息も乱さずにここまで来ること自体、彼自身もただの人間ではないということを示唆していた。

「諦めたまえ。その手負いの身体で戦おうとしたこと自体が君の敗因だ」

 マークルフの全身から光の粒子が漏れ出していく。リーナが“鎧”の姿となれる限界が近いようだ。

『何をしやがった?』

 司祭長が軽い身のこなしで地面に降り立った。

「君の“鎧”については同志がいろいろと分析していてね。戦乙女が“鎧”の姿になるためには、どうやら君が発信する制御信号が必要らしい」

 マークルフは答えなかったが、司祭長の台詞はそのままエルマから説明されたことだ。

 リーナは制御信号から《アルゴ=アバス》の情報を取得することで、それを基に光の“鎧”へと自身を再構成していると──

 だが、それはエルマが伝えるまで、リーナ本人も知らなかったことだ。

「逆に言えば信号の情報が正確でなければ、君の守護乙女も“鎧”の姿でいることができない。だから、その信号を乱す別の信号をいま流しているところだ」

 マークルフは別の気配を感じて見上げた。

 離れた別の屋根の上にオレフが立ち、こちらの様子を眺めている。

「そう、考案したのは彼だ。君は手負いの身で信号の出力が不安定だ。“鎧”に綻びが生じた時に信号が妨害されれば、“鎧”の維持はできなくなるとね」

 マークルフは内心で舌打ちする。

 エルマに預けている肩当てをこちらに呼び寄せようにも、それにも制御信号が必要だ。それも封じられた形だ。

 エルマからオレフについて聞いていたが、ここまでやってくるとは正直、甘く見ていたと言うしかない。

 マークルフは不意に立ち上がると先ほど飛び出した民家に再び飛び込んだ。

「オオッ!?」

 住人の驚きの声を横切りながら、反対側の壁を突き破ると隣の民家に突入し、そこも駆け抜ける。

『どうするつもりですか──!?』

『近所迷惑だが隠れ蓑にさせてもらう!』

 マークルフは司祭長たちから姿を隠すために並ぶ民家の中を強引に駆け抜けていく。

「なんだッ!?」

「うぁあッ!?」

「キャアアッ!? 」

 驚愕する住人たちの悲鳴のなか、壁を突き破って路地裏に出ると、マークルフは目の前の壁を蹴破った。

 だが、その中には入らずに路地裏をそのまま駆ける。

 そして、その途中で自ら“鎧”を解除した。

 肉体強化が解け、マークルフはその場に倒れる。

「マークルフ様!?」

 元に戻ったリーナが慌てて彼の身体を抱き起こそうとした。

「掴まっていろ、リーナ!」

 マークルフは“心臓”に貯蓄していた魔力を使い、肉体を強引に活性化させた。そのままリーナを抱き上げると、路地裏をひたすら逃げるのだった。



「隠れるつもりか」

 教会の屋根に立ったウルシュガルが、マークルフが最後に壊した民家を睨みながら言った。

 この区画は民家が密集し、狭い路が張り巡らされている。身を隠すには適した場所だろう。

「“鎧”を自ら解除したようです」

 その背後に控えていたオレフは告げた。

「おそらく、そこからは自力で逃げたと思われます。ただ、あの身体では遠くまでは行けないはずです」

「太守に兵を出させよう。あれだけ騒ぎが起こっているのだ。当然、警備を厳重にせねばなるまい」

「では、私が残ります。何かあればすぐに連絡します」

「頼むぞ」

 ウルシュガルがその場から舞い降りるように姿を消した。

 残ったオレフは民家の並ぶ区画を一望する。

(さあ、どう出てくるか──)



 そのまま複雑な路地裏をとにかく行き交い、できるだけ遠くまで離れると行き止まりとなった先に隠すように倒れ込んだ。

「マークルフ様、大丈夫ですか!?」

 心配するリーナがマークルフの頭を自分の膝の上に置いた。

「……少し無理をしたか」

 マークルフは全身の悲鳴に顔をしかめる。

 “鎧”はおそらく反応をたどられる。逃げるには途中で解除するしかなかったが、“心臓”に残った魔力の使用はいままで以上に全身に堪えていた。

「もう一度、“鎧”を纏えれば何とかなるんだがな」

「でも、お身体の方が──」

「身体よりもこの危機を脱する方が先だ」

 向こうの手札は読めた。もう一度、“鎧”を纏う機会があれば何とかなるかもしれない。

 だが、“鎧”を妨害する信号は魔力の波だ。この“聖域”で魔力をどこで得ているかは不明だが、逃げる間も“鎧”が妨害されていたことから、少なくとも街全体に届いていると考えるべきだろう。

 物理的な障害では信号は止められない。信号を一時的にでも遮断できる場所が必要だが、魔力を遮断できる施設はこの街にはない。

「……グーの字がいれば──」

「グーちゃんはいま、リファちゃんの護衛をしているはずです。エルマさんが気づいてくれればよいのですが──」

 こちらからは打って出る手段がない。見つかる前に《グノムス》がここに来てくれることを祈るしかないが、それも賭けだ。

「……リーナ、少し離れていろ」

「いったい何を──」

「賭けるなら運よりも仲間の方が格好いいだろ」

 マークルフは不適に笑う。それを見たリーナは言われた通り、マークルフを静かに地面に置いて離れる。

 マークルフの右腕に制御信号の紋章が展開するが、すぐに消えた。そして再び出現するがまた消える。

「何をされているのですか?」

「信号というのは波だ。だから別の信号があれば干渉して乱れる。それは妨害信号側も変わらねえはずだ……エルマが妨害信号に気づいていればここを伝えられるかもしれねえ」

 マークルフは信号を明滅させながら、リーナにそう答えた。



「これは──」

 オレフは妨害信号が微かに乱れているのに気づいた。

 おそらく、男爵の放つ制御信号だ。だが出力自体は小さすぎて発信位置は特定できない。

 そして乱れる時差が何かの法則を持つことにも気づく。

 制御信号自体は弱いが、それに干渉された妨害信号は広範囲に伝わっている。妨害信号を測定していれば干渉の時差も記録できるはずだ。

(なるほど、暗号か)

 傭兵たちは遠距離の仲間と暗号でやり取りをする。男爵は常時流れ続ける妨害信号を逆に利用し、暗号を伝えようとしているのだ。

(“狼犬”の最大の武器は洞察力とあらゆるものを利用する機転──確かに噂通りだ)

 オレフは動かなかった。

 妨害信号を止めれば、その隙に男爵は“鎧”を発動するだろう。

 それに、成り行きを見届けるつもりでもあった。

(この目で見させていただく。賭けるに値する人物かどうかを──)



 通路に出たエルマを待ち構えていたのはカートラッズだ。

「“蛇剣士”さん、来てくれたの?」

「血統書付きに何かあったようだ。そちらもとりあえず身を隠した方がいい」

 カートラッズとその部下に手引きされ、エルマたちは人目もつかない城の裏庭に出る。

「城の上階で何かあったようだ。街にも警備の兵が出ている。そちらでは何か分からんか?」

「とりあえず、男爵はまだ敵の手には落ちていないはずよ」

 測定器はいまも信号を捉えていた。おそらく、それは制御信号を妨害するものだ。“鎧”の反応は途絶えていたが、それが流れ続けているのなら男爵はまだどこかに逃げているはずだ。

 カートラッズが告げる。

「城の兵も事情は分からんようだが、男爵の名がどこからも上がってこない。少なくとも指揮する上層部は何かを知っていると考えるべきだ」

「危険は承知で王子に同行していたけど、最悪の形で的中したわけね」

 渋い顔をするエルマ。

「姐さん、ちょっと見てください?」

 エルマの後ろで測定器を見ていたアードが声をかける。

「どうしたの?」

「姐さんの言ってた信号の記録にさっきから何かノイズが入ってるんですわ」

 ウンロクが測定器の吐き出す記録用紙を見つめながら言った。

 エルマも記録に目を這わせる。

 妨害信号が時々、一瞬だが乱れていた。誤差ともとれるが、それにしては続いている。それに魔力の信号に雑音が入るとすれば同じ信号の混線ぐらいしかない。

「“蛇剣士”さん、これがもし暗号だとしたら、気づくことはない?」

 傭兵の暗号と予想したエルマがカートラッズに記録を見せる。

 カートラッズはじっとそれを見ていたが、しばらくして口を開く。

「ウ・デ・ノ・ワ・レ・タ・イ・ノ・ル・シ・ン・ジョ──」

「どういう意味?」

「傭兵同士の連絡には取り決めがあってな。自分のいる場所がうまく説明できない場合はとりあえず、そこから見える一番高い何かの特徴を伝えることになっている」

 カートラッズは城壁の向こうの街並を見上げた。

「この街には建物をつなぐ渡り廊下が目立つ。おそらく血統書付きからは、その特徴にある彫刻の通路が見えているはずだ。建物が密集しているなら見上げなければ高い位置は見えん。その彫刻のある通路のすぐ近くに血統書付きはいるはずだ。俺ならそう捜す」

「十分よ。ありがとう」

 エルマは足で地面を叩き続ける。

「グノムス! 妖精さんたちでもいいわ! 早く出てきて!」

 城内の兵士が外に出て行くのが見えた。

 街に捜索に向かわれては男爵の発見は時間の問題だ。

 やがて、ダロムが地面から頭を出した。

「遅くなってすまん。何かあったようじゃな。勇士か?」

「おそらく。グノムスは?」

「あのリファという娘の監視をしとるよ。プリムも一緒じゃ」

「急いでグノムスを男爵と合流させて欲しいの。建物をつなぐ通路のどれかに祈る神女の彫刻があるわ。特徴は腕の部分が割れたか欠けていると思う。そのすぐ近くに男爵たちはいるはずよ」

「分かった。そちらも気をつけよ」

 ダロムは地面の下へと消えた。

「うちらは妨害信号の発信源を追跡するわ。“蛇剣士”さんはどうするつもり?」

「俺はここにいる。王子らの護衛の契約は終わっていない」

 どうやら自分から逃げるつもりはないらしい。これも傭兵の自負なのだろう。

「分かったわ。できれば王女のことをお願い。あの娘が今後の戦いを決める鍵なの」

「安請け合いはできんが覚えておこう。そちらも気をつけろよ」



 建物の間から見える別の建物同士をつなぐ通路の彫刻。それを見つめながら、マークルフとリーナは応援を待っていた。

 通路の壁に刻まれた天に祈る神女──整備が行き届かず腕の部分に亀裂が入っているが、いまの彼らに代わりに天に祈ってくれているようだった。

 周囲に雑踏が聞こえる。

 マークルフたちは警戒するが、すぐに雑踏は通りすぎた。

 兵が動いているのだろう。まだ混乱しているようだが、捜索に入られればすぐに見つかってしまう。

「男しゃくさん、姫さま! やっと見つけた!」

 二人の間の地面からプリムが顔を出した。

 思わず驚いた二人だが、すぐにリーナは安堵する。

「プリムちゃんまで来てくれたのね。待ってたわ」

 リーナがプリムを手に乗せると、マークルフの前に差し出す。

「……グーの字はどこだ?」

「じいじと手分けしてさがしていたところだよ。まってて! すぐに呼んでくるからね」

「いや、待て」

 地面に飛び込もうとしたプリムをマークルフは呼び止めた。

「おそらく敵も警戒している……グーの字に伝えてほしいことがある。重要だからよく聞いてくれ」



 オレフは気づいた。

 微弱だが地中に霊力の反応があることに──

 注意しなければ気づかないほどだが、その反応を予想していたオレフはすぐに行動を開始。その反応を追った。

 やがてオレフの前で民家の一つが崩れた。

 オレフは屋根伝いに飛びながら、すぐにそこに急行する。

 民家の梁を壊し、家そのものを崩しながら鉄機兵が地面から上半身を出していた。

 その前には身動きできない男爵と戦乙女がいた。

「グーちゃん、急いで!」

 戦乙女の声に鉄機兵が腕を伸ばそうとする。

 オレフは屋根から飛び降りると、その腕の上に着地した。

「クソッ、もう来やがったか!」

 舌打ちする男爵にオレフは告げる。

「“鎧”を纏うために鉄機兵を必要としたのでしょうがここまでにしましょう、男爵──」

 オレフが手を翳す。

 だが、その瞬間、マークルフとオレフの間に土の壁が出現した。

 土の壁はさらにマークルフらを取り囲むように出現し、完全にその姿を隠す。

「隠れ──いや!?」

 男爵の狙いに気づき、オレフは常人を超えた脚力でその場から跳び上がる。

 同時に彼の前で土壁が崩壊し、そこから“黄金の鎧の勇士”が飛び出していた。

「巨人ではなく、土壁を利用して──」



『逃がすか!』

 飛び退こうとするオレフの前に、光の装甲を形成しながらマークルフは追いすがる。

 マークルフは最初、《グノムス》の内部に隠れて“鎧”を纏おうとしていた。“大地の霊力”で動く《グノムス》自体が魔力を阻み、その内部なら妨害信号も侵入できないからだ。

 だが、オレフがそこまで読んでいることは十分に考えられた。

 そのためにプリムを通して《グノムス》と打ち合わせをしていた。司祭長かオレフをおびき寄せた段階で自分を土壁で囲むように命じていたのだ。

 《グノムス》の地形操作は“大地”の霊力を用いるため、出現した土壁にも霊力が働いている。取り囲む土壁自体が霊力の壁として魔力の信号を遮断したのだ。

 屋根に飛び降りたオレフの前に、黄金の“鎧”を纏ったマークルフが迫る。

『その槍、返してもらうぞ!』

 絶好の好機を逃すことはできない。

 マークルフの右手甲から湾曲の刃を展開すると、隙のできたオレフへ向けたのだった。

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