〈ガラテア〉
リファは夜空を眺めていた。
彼女が居るのは目的地トリスに近い、ある街の教会だ。
この教区の司祭は反政府派の協力者であり、一行はそこの教会に停泊していた。
ここで都市トリス側の状況を確認した後、準備が整えばトリスへと出発することになっている。
「ここにいたのか」
振り向くと、そこにはルフィンが立っていた。
「兄ちゃん、何でここが分かったの? 抜け出して大丈夫なの?」
リファが居たのは教会の庭の外れだ。教会の敷地は以外と広く、ここなら人目につきにくいと思ったからだ。
「おまえがどこに行きそうか、だいたい分かるさ。久しぶりに広々とした場所に泊まれるけど何があるか分からないんだ。目のつく所にいろ」
ルフィンが困ったように腕を組む。
「ごめん、兄ちゃん」
リファは謝り、苦笑いで答えた。
「……いや、謝るのは俺だな」
ルフィンが言った。
「なに、兄ちゃん?」
「俺も気づいてるんだ。反政府の人たちの中におまえを疎ましく思っている人がいる。それにおまえが傷ついているのも――ごめんよ。いまの俺じゃ何もできないんだ」
「兄ちゃんが謝ることなんてないよ! 兄ちゃんは悪くないよ!」
リファはそう言ってルフィンの背中を押した。
「戻ろ! 兄ちゃんは王様になることだけ考えればいいよ。そうしたら、あたしも王様の妹だもん! 嫌いな奴らは全部、辺境送りにしてやるのよ!」
「おいおい、いきなり圧政はやめてくれよ」
双子たちは苦笑しながら、教会へと戻ろうとする。
その時だった。
敷地の隅の地面が微かに輝き、夜の闇に浮かび上がる。その輝きは次第に強くなっていた。
「兄ちゃん!? あれ!」
「あ、ああ! そこに隠れろ」
二人は慌てて近くの茂みに身を隠した。
やがて輝く地面から何かが現れる。
それは巨大な鉄兜のような頭だった。
(兄ちゃん!? 何か出たよ!)
(とりあえず、動くな!)
身を隠す二人の前で、地面から覗くように鉄兜の頭が周囲を見渡す。そして、さらに浮上し、鋼の装甲に包まれた人型の機体が現れた。
(巨人さんが出てきたよ、兄ちゃん!?)
(多分、古代エンシアの鉄機兵だ。でも、普通の鉄機兵は“聖域”内では活動してないはずなのに――)
(男爵さんの知り合いかな?)
(俺たちを狙ってる可能性もある。すぐに逃げられるようにしておけよ)
二人が警戒していると、今度は巨人の足元から小人たちが姿を現した。一人は老人で、もう一人は女の子のようだ。
(兄ちゃん!? 今度は小人さんが出たよ! 初めて見た!)
(あ、ああ……どういう組み合わせだ?)
(あの小人さんたちも兄ちゃんを狙ってきたの?)
(いや……どうなんだろう……な)
二人が途惑っていると、今度は巨人の胸の装甲が開いた。
そこから一人の女性が地面へと降り立つ。
何となくだが学者風の出で立ちに思えた。
(兄ちゃん、今度は普通の女の人だね)
(ああ、そう……いや、待て。最初から普通じゃないだろ)
二人がどうするべきか迷っていたが、やがて向こうで会話が始まる。
「ここなのか、姐さんや?」
「ええ。この近辺で部隊が身を隠せそうな所と言えばここね。男爵たちがここに居るか、調べてくれないかしら?」
リファが頭を上げた。
「男爵さんを捜しているの!? もしかして、男爵さんが待ってる部下の人!?」
女性たちが気づくが、ルフィンがリファの手を引っ張る。
「バカッ、逃げろ!」
「な、なんで!?」
「男爵を狙ってる敵かもしれないだろ!」
ルフィンがリファを連れて慌てて逃げ出した。
だが、不意に足元が消え、二人は地面に出来た穴に落ちる。
「うぁあ!?」
「あいたぁ……ちょっと兄ちゃん、何で落とし穴があるのぉ?」
「知るかよぉ」
「――ごめんなさい。二人とも。騒がれたくなかったの」
穴の縁に女性が立っていた。
「貴方たち、双子さんかしら? もしかして、男爵と一緒にいるんじゃないの?」
「あんたたち、誰だ?」
落とし穴にはまった姿でルフィンが警戒しつつ尋ねる。
女性が指を鳴らした。
途端に地面が元に戻る。
「じ、地面が勝手に動いたよ、兄ちゃん!?」
「いいから、とりあえず落ち着け」
ルフィンが立ち上がった。
「あんたは男爵の部下の人か?」
「エルマよ。疑うなら、ここで待つから男爵にも確認してくれていいわ。男爵は無事でいるのかしら?」
ルフィンと立ち上がったリファは互いに顔を見る。
「――ルフィン殿下。その者たちなら問題ない」
現れたのはカートラッズだった。
「あら、お久しぶり。“蛇剣士”さん」
エルマが手を挙げる。
「どうやら俺がいることも承知していたようだな。相変わらず、抜け目のない姐さんだ」
カートラッズが双子たちの後ろに立つ。
「男爵側の科学者だ。敵ではない」
「兄ちゃん……やっぱり部下の人じゃんか」
「分からなかったんだから仕方ないだろ」
双子たちが互いに愚痴る。
「“蛇剣士”さんも人が悪いわね。最初から見ていたんでしょう?」
「俺の仕事は護衛だ。問題ない相手ならしゃしゃり出る気はない」
「それで男爵もここにいるの? 容体はどう?」
エルマが尋ねるが、双子もカートラッズも口が重くなる。
「……どうやら、思わしくないようね」
そう言うとエルマが何かに気づいたようにリファに顔を近づけた。
「ちょっと失礼――」
エルマがリファの右目を指で開くと、懐から取り出した携帯用の照明器具でその目を照らす。
「な、なに? 何か変?」
「ああ、ごめんなさい。目が赤いように見えたから、砂埃でも入ったかと思ったの」
エルマが笑ってごまかすが、すぐに真顔になる。
「案内してくださるかしら? ともかく、男爵の状態を確認したいわ」
マークルフとリーナは教会の二階にある部屋にいた。
マークルフは寝台に横たわり、その傍らでリーナが椅子に座って付き添う。
そのリーナが振り向く。
「……何かあったのでしょうか?」
外がにわかに騒がしくなっていた。
やがて扉が開き、双子たちが入って来る。
その後ろにエルマが立っていた。
「エルマさん!? 来てくれたのですね」
リーナが立ち上がる。
「男爵、お待たせしました」
「エルマ、待ってたぜ。他の連中はどうしている?」
マークルフは尋ねた。
一目で彼の惨状を見て取ったエルマだが、動じることなく答える。
「グノムスと妖精さんたちは下にいます。姫様のこと、ずっと心配してたみたいですよ」
リーナが窓を開けて外を眺める。どうやら地上にいるのを見つけたらしく、嬉しそうに手を振った。
「マリエルたちは?」
「……それは後で話します。それよりも身体の具合はいかがですか?」
マークルフは苦笑する。
「かろうじて動かせる。だが、負傷が酷い左肩から先はまだ動かせねえ。鎧の力を借りて、少しの時間だけ戦えるってところだ」
「失礼」
エルマが毛布をめくり、その身体や左腕の状態をつぶさに確かめていく。そして懐から何かの装置を取り出し、マークルフの胸に当てた。装置が何かを表示し、エルマの目がそれを睨んでいた。
「……どうですか、エルマさん?」
リーナが尋ねる。
「エルマ、はっきりと答えてくれ」
マークルフは言った。
「“機竜”と戦えないなら“心臓”を渡す準備を急がねばならん」
その言葉を聞き、この場にいる者たちの顔が沈痛なものに変わる。
重苦しい沈黙の中、エルマは装置を引っ込め、しばらく考えていた。
「……治療できないのか?」
ルフィンが口を開いた。
「もし何か必要なら俺たちも協力する。だから何とか男爵を――」
「治せる見込みはあります」
エルマが答えた。
「確かに状態は酷いですが、まだ予想の範囲内。何とかなると思います」
その言葉にリーナとリファが満面の笑みを浮かべた。
「良かったね、お姉ちゃん! 男爵さん、治せるって!」
リーナもマークルフに向けて静かにうなずく。
「いろいろ確認したいこともあるので、うちらだけで話をしたいのですが――」
エルマがマークルフに言う。
「――リファ、行こう。男爵、俺たちは戻るから何かあったら呼んでよ」
気を利かせたルフィンが気になる素振りのリファを連れて退室した。
部屋にはマークルフとリーナ、そしてエルマの三人だけとなった。
「あらたまって深刻な話か」
マークルフはエルマの表情から難しい問題があることを悟る。
「治療に何か問題があるのか?」
「それも含めて、少し込み入った話になります」
そう前置きして、エルマが話し始めた。
「男爵の身体の治療は可能です。男爵の肉体の再生は“心臓”が担っており、すでにそれは始まっています。“竜墜ち”までに間に合わせるには、その“心臓”をさらに活性化させればいいのです」
「魔力の希薄な“聖域”では“心臓”の機能が不十分なのは知っている。魔力を集めて“心臓”を限界まで稼働させれば間に合うということか」
「その通りです」
「だが、その魔力をどうやって用意する? ここにそれだけの魔力はかき集められん。“聖域”外に移動するとしても時間がかかり過ぎる」
「はい。ですが、その膨大な魔力を賄える存在を見つけました」
「それはいま、どこにあるのですか? 急ぐなら、グノムスを使ってすぐにでも私が――」
リーナが言った。
「その必要はありませんわ。すでにここに居ます」
「居ます?」
リーナもその言葉の違和感に気づいた。
「リファちゃんと言いましたか。あの双子の妹君です」
「それは……どういうことですか? リファちゃんが必要とは――」
「単刀直入に言いましょう。あの子は人間ではありません。古代エンシアの技術で生まれた人造生命体です」
リーナが驚きのあまり、息を呑む。
だが、マークルフは表情を変えず、エルマもそれを見ていた。
「お気づきだったのですか、男爵?」
「いや、知らなかった……だが、普通じゃないとは思っていた。あいつが傍にいると、いつも“心臓”が騒ぎ出してな。それにあいつが肩当てを持つと、ジェネレータも反応しているように感じた。間違いないんだな?」
エルマが懐から携帯用の照明器具を取り出す。
「彼女の網膜に隠された識別ナンバーを確認しました。特殊な光を当てると浮かび上がる構造そのものからも、彼女は〈ガラテア〉シリーズに間違いありません」
「あの子が〈ガラテア〉――」
リーナが戸惑いを隠せないように椅子に腰を下ろす。
「リーナ、知っているのか?」
「……人間に最も近い生命を目的に、エンシアで開発された人造生命体です。確かに特殊な方法でなければ見分けられないほど、人間と変わりません。でも、あの子が――」
リーナは古代エンシア王族の生き残りだ。その彼女が戸惑うということは、それだけ〈ガラテア〉が人間に近いと言うことの裏返しでもある。
だが、マークルフにはリファが兄思いの少女にしか見えなかった。
「正直、実感がわかねえな。ブランダルクの先代王妃は確かに双子を出産した記録が残っている。それにあいつは兄貴のルフィンとそっくりだ」
「だからこそ、〈ガラテア〉だと確信しました」
エルマが答える。
「〈ガラテア〉は元となる人物の遺伝情報を組み入れることで、その人物の特徴を反映しながら成長できます。理由は分かりませんが、あの子は本物の妹王女の血を使って、彼女の身代わりとして生み出されたんだと思います」
「エルマさん、本物の王女は別にいると――」
「いや、リーナ……もう生きてはいないと考えたほうがいいな」
マークルフは答えた。
「王族の身代わりなんて争いの元だ。それに敵の目をごまかすためなら、ルフィンの方が先だろう。おそらく本物の王女が何か不都合な理由で死に、それを隠すための身代わりだと思う」
リーナが深く息を吐く。
「ルフィン君はこの事を知っているのでしょうか?」
「知ってるようには見えなかったな。俺の目をごまかすほどの役者にも思えねえしよ。しかし、その事によく気づいたな、エルマ?」
「それも後でお話しますが、いまは男爵復活のための話を進めます」
エルマが答える。普段の軽口が鳴りをひそめていた。
「結論から言えば、あのリファという子が内包している膨大な魔力を取り出せれば“竜墜ち”までに男爵の回復も可能です」
「しかし、私が知る限り〈ガラテア〉にはそのような力はないはずです。なぜ、リファちゃんが――?」
リーナが疑問を口にする。
「確かに、本来はそのような魔力を蓄積する能力はありません。ですが、人間と変わらない〈ガラテア〉の特性そのものと、“聖域”という特殊な環境があの子を膨大な魔力の器にしているのです」
エルマの説明は確信に満ちていた。
「生命体というのは本来、その活動自体が魔力の素となるのです。男爵の“心臓”が“聖域”内でも機能を続けるのは、男爵の生命活動から魔力を生成して取り入れているからです。そして、その肉体自体も最も効率よく“力”を蓄積できる器でもあります。“鎧”を装着した時に男爵の身体能力が飛躍的に強化できるのも、肉体が魔力を蓄積できるからです」
「つまり、人間に近い〈ガラテア〉には魔力を生みだし、それを貯めこむ能力があるというわけか?」
マークルフが言うと、エルマはうなずく。
「そうです。その点については人間以上の特性を持っています。もっとも、それはエンシアの科学者たちも分かっていました。ですので〈ガラテア〉には二重の安全装置が備わっています。魔力を自然放出する機能と、もう一つは外部から遮断して取り出せないようにするものです。リファちゃんの場合、前者の機能が働いていなかったのでしょう」
「リファは不完全だったというのか?」
「いいえ。逆に機能は正常というべきでしょう。〈ガラテア〉も人と同じように食事で生体を維持できますが、やはり、内部の魔力が低下すると生命活動に悪影響が出ます。なので、魔力が取り入れられない場所では魔力の解放を停止するようになっているのですが、この“聖域”は魔力が希薄です。だから魔力の解放が止まったままの状態だったのでしょう。エンシアの科学者も“聖域”の存在までは考えていなかったでしょうしね」
「魔力の解放が止まったまま、リファちゃん自身の生命活動で魔力の生成だけが進んでいたわけですか?」
リーナが言った。さすがに古代エンシア生まれだけに理解は早いようだ。
「はい。あの子は生きてきた十数年の間に、自分も自覚しないまま、魔力を蓄積し続けているはずです。自然の生命体では不可能なほどの魔力量をです」
「確かに説明はつくな。だが、その証拠は?」
マークルフは尋ねた。
「証拠はこの上空に漂っています」
エルマが見上げた。マークルフたちもつられて上を見る。
「“機竜”です。“聖域”に囚われた“機竜”は魔力に飢えた状態です。その“機竜”がここにいるのも、あの子の秘めた膨大な魔力の存在に気づいているからでしょう。普通の測定器ではあの子の魔力は感知できませんが、出力の高い魔力ジェネレータが欠乏状態になると、それを補おうとして引きつけられる反応をするのです。“心臓”や肩当ての反応もそれです。“機竜”までが引き寄せられているという事実だけでも、秘められた魔力量が膨大なのは間違いありません」
「“機竜”がブランダルクに来たのはリファの存在があったからか――」
マークルフは黙り、自分なりに話を整理する。
「リファの協力があれば身体を治せる……だが、そのためにはリファにこの事実を突きつけることになるのか」
「リファちゃんに――ルフィン君にも伝えなければいけないのですか」
リーナも厳しい表情を浮かべる。仲の良い双子だけに、とても残酷な話となるだろう。
「……伝えるならば急いだ方が良いかもしれません」
思い悩む二人の前でエルマが冷静に告げる。
「“機竜”は最終的にあの子を目指して墜ちてくるでしょう。そう、あの子のいる場所が“竜墜ち”の中心地となります」
ブランダルク王城――
「失敗しただと!? どういうことだ!?」
私室で密偵の報告を受けたガルフィルスは激昂する。
「敵方に予想外の相手がいました。陛下より賜った魔物もその相手によって倒されました」
「言い訳は聞かん! それでその相手とは何者だ!?」
「わ、分かりませぬ。見た目は若い男ですが、不可思議な光の鎧を纏い、その力で魔物を倒しております」
「分からぬで済むか! 何の為の密偵だ!」
ガルフィルスは立ち上がる。
「貴重な兵器を無駄にし、何の情報も持って帰れぬとは役立たずが! もう、いい! 下がれ!」
密偵は黙ってその場を退いた。
「……おのれ。ようやく見つけ出したというのに、頼りにならん連中だ」
ガルフィルスは座り、頬杖をつきながら顔をしかめる。
「――そう苛立つな。さすがにあれは相手が悪かろう」
奥の部屋の扉が開き、現れたのは司祭長ウルシュガルだった。
「知っているのか?」
「“黄金の鎧の勇士”だ。あるいは“戦乙女の狼犬”と言った方がよいか」
「“機竜”と戦ったあいつか!? まだ、生きていたのか!?」
「消息を確かめるように助言していたはずだが?」
ガルフィルスはそれを無視し、苛立つように指で肘掛けを叩く。
「なるほど。生きているか分からない奴より、先王の遺児たちを捜すほうが先だったわけか。まあ、結果として両方とも同じ場所に居ることは分かったわけだ」
ガルフィルスがまた立ち上がった。
「障害となる相手が一緒に居るなら話は早い。さらに部隊を増強して――」
「相手は最強の兵器“機竜”とも戦える相手だぞ? 魔物を一・二体増やしたぐらいで勝てるかな? 先の襲撃で警戒を強めてしまっただろうし、不意討ちも効かぬだろう」
「ならば、どうするのだ。司祭長も“狼犬”の存在は邪魔なはずだ」
「確かに厄介な相手とは言った。だが、排除するとは言っていない」
司祭長が答えた。
「相手の出方によるが、向こうが我が計画の障害とならないなら、無理に戦う相手ではないと思っている」
「甘いな! “狼犬”といえば反フィルディングの先鋒ではないか! 司祭長の障害となるのは目に見えている!」
「確かに目に見える。だが、回避できる余地があるなら、今は対決を急ぐつもりもない」
「悠長過ぎないか、司祭長!?」
ウルシュガルが肩で笑った。
「焦るな、王よ。相手はフィルディングに挑んだ英雄の後継者だ。フィルディング中央と戦うために利用できる相手と思わぬか」
「向こうが手を組むと思っているのか」
「味方にはならぬだろう。だが、向こうが動くのは“竜墜ち”の阻止のためだ。話の進め方によっては戦う必要はなくなるかもしれん。こちらもフィルディング一族と戦うというのだ。“狼犬”も無理に介入する理由はないはずだ」
「しかし! 危険な存在は排除できる時に排除するべきだ」
不審がるガルフィルスにウルシュガルは不敵な笑みを浮かべた。
「無論だ。だが、まだその時ではない。“天敵”にも存在価値はあるのだよ。中央の老もきっとそう考えているはずだ」
司祭長が去った後、ガルフィルスは一人、苛立ちを露わにしていた。
それは司祭長への不信感だ。
“機竜”を使って一度、地上を攻撃したためにブランダルクの情勢はさらに不安定になっている。全ては計画のためと説明を受けているが、それによって諸国の干渉が強まっている。それは同時に諸国と手を組む司祭長がさらに実権を握ることでもあった。
(それにフィルアネスに目を付けている)
フィルアネスはまだ若く、傀儡としては相応しい。それに新たなブランダルクの演出には、直系である新たな王の方が喧伝できるはずだ。
現在のまま、司祭長がガルフィルスを使い続ける保証はどこにもない。
(フィルアネスだけは葬らねば余が危うい)
先王を退かせ、忠誠を誓う騎士団の力で反発する貴族たちから力も奪った。残った騎士団も滅びている。だが、次は自分の番になる訳にはいかなかった。
(ウルシュガルもフィルアネスの抹殺を止めることは言っていない。こちらで始末してしまえば唯一、残る余をどうこうはできないはずだ)
幸い、フィルアネスたち一行の動きはこちらの手中にある。問題はどうやって司祭長の隙を突き、“狼犬”に邪魔されないかだ。
(余は決して操り人形にはならぬぞ)
(貴様は糸を結び直した操り人形に過ぎんよ)
ウルシュガルは迎えの馬車に乗り込む。
馬車の中ではオレフが待っていた。
「どうだね、首尾は?」
「はい。城下に眠る跡地の他、ブランダルク内の遺跡は概ね、把握しました」
「これで遺跡内の戦力をこちらが掌握できるということか。怖ろしきものよな。機械の神の力も――」
ウルシュガルはほくそ笑むが、オレフの静かな表情を見て苦笑いをする。
「分かっておる。あくまで計画遂行の為の利用手段だ。“機神”の力に頼って自滅した者らの二の舞になるつもりはない。そのために監視役も任せているのだ。わたしが“機神”の力に取り憑かれたと思ったら、そなたが好きに止めるがいい」
ウルシュガルはそう言って覗き窓から外を眺める。
「全てを制する力とて、その力を巡る争いを止めることはできぬ。いずれは“機神”を誰にも利用させぬ枷が必要だ。そのためにも時間はかかるが力を蓄え、中央との争いに勝たねばならぬ。計画はそのためにも絶対に成功させねばならぬものだ。頼むぞ」
オレフは恭しく頭を下げるのだった。




