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二人の姫君(3)

「動けるとは驚いたわね」

 仮面の女剣士が感心したように言った。

「――でも、そうとう無理してるわね。その肩当ての力かしら? 無茶しないで休むことをお勧めするわ」

「そう思うなら、リファを置いて消えてくれ」

 マークルフはゆっくりと女剣士に詰め寄る。

 彼女の言う通り、マークルフが動けるのは肩当てのおかげだ。療養する間にジェネレータを搭載した肩当ても魔力の蓄積を行っており、その魔力を使った肉体強化で強引に身体を動かしているのだ。

 だが“聖域”内では魔力の蓄積は進まず、逆に消費は早い。

 時間は限られていた。魔力が切れた段階で身動きできなくなる。それまでにリファを助けなければならない。

 マークルフは間合いに入ると一気に踏み込み、左足で蹴りつける。

 強化された蹴りは重傷の身とは思えない動きだったが、やはり負傷の身では動きが格段に落ちていた。

 仮面の女剣士は慌てることなく、それを避ける。

「《アルゴ=アバス》の装着者は鎧を纏うと、肉体が強化されるそうね。さすがに当たったら痛そう」

「……ほう、詳しいな」

 マークルフは続けて右拳で殴りかかるが、女剣士は動きを見切っているのか、易々と避けた。

「左腕は使えないようね!」

 女剣士はそう言うと逆に左足を振り上げ、マークルフを蹴り飛ばした。

「強化されたと言っても、その身体では勝ち目はな――ッ!?」

 地面を転がるマークルフは魔力の閃光と共に跳ね起き、女剣士の目前まで一気に迫った。

 肩当てに取り付けられたスラスターを起動して跳んだのだ。

 瞬時に加速を増したマークルフの体当たりが女剣士を捉える。

「――クッ!?」

 だが女剣士は体勢を崩す前に身体を捻り、体当たりを受け流す。

 勢い余ったマークルフはその背後にあった木に衝突した。

 大きく枝が揺れ、マークルフは地面に投げ出される。

 肩当ても備蓄の魔力を使い果たし、肩からこぼれ落ちた。

「少し驚いたわね。あのまま木に挟まれたら危なかったかもね」

 近づいた女剣士は肩当てを蹴り飛ばした。

「男爵さん!? 大丈夫!?」

 リファが駆け寄って動けなくなったマークルフの上体を支える。

「さすがにネタ切れのようね。さあ、大人しくこちらへ来なさい」

 仮面の女剣士がリファに詰め寄る。

「……リファ、逃げろ」

 マークルフは言うがリファはかぶりを振った。

「ダメだよ。男爵さんを置いて逃げられないよ」

「その身体でまだ何かできると思っているの?」

 仮面の女剣士は冷ややかに言い放つ。

 その時、空気を斬り裂く音がした。女剣士が咄嗟に剣で振り払う。

 叩き落とされたのは矢だ。

 さらに続けざまに放たれた矢が襲うが、女剣士はそれを軽々と躱す。

 だが、それでマークルフたちとの距離が離れた。

「無事か!? 血統書付き!?」

 矢が放たれた方角から聞こえたのは男の声だ。

 男は傭兵たちを引き連れており、彼らは岩や木に隠れながら弓で女剣士を狙っていた。

「“蛇剣士”! ようやく来てくれたか! 待っていたぜ!」

 マークルフは聞き慣れた声に叫び返す。

「なぜ、ここが?」

 女剣士は苛立つように剣を構え直す。

「リファ、逃げろ!」

「でも――」

「大丈夫だ。俺を信じろ!」

 マークルフは自信ありげに笑みを浮かべる。

 リファもそれを見ると意を決してその場から走り出した。

 女剣士もそれに気づくと、リファを追って走り出す。

「今だ! 血統書付きを保護しろ!」

 “蛇剣士”の号令で部下の傭兵たちが飛び出す。

 女剣士が足を止めた。

 そしてリファではなく、マークルフを保護しようとする傭兵たちに先回りする。

 女剣士が剣を突き出す。それは傭兵たちをかき分け、彼らの中にいた一人を足止めした。

 剣を向けられたのは革帽子と革鎧で傭兵に身をやつしていた少女だ。

 女剣士を傭兵たちが包囲して武器を構えるが、彼女は意を介さず、目の前の少女に剣を突きつける。

「なるほどね。男爵が肩当てを装着していたのは、わたしと戦うためじゃなくて戦乙女を呼ぶためだったのね」

「……てめえ、見抜いてたのか」

 マークルフは少女を人質にとられ、険しい顔で女剣士を睨む。

「甘く見ない事ね。合流しようとしたみたいだけど、そうはさせられないわ」

 だが、マークルフは声を上げて笑い出した。

「なるほどな。俺が装着信号でリーナを呼べることまでは分かっているのか。それに、呼びかけに応じたあいつの存在も感知できる力があるようだな」

 確かにマークルフが肩当てを装着した真の目的は装着信号を常に発信し続けるためだ。“蛇剣士”の部隊が近くに来ていると知り、リーナが一緒にいると賭けて彼女を呼んだのだ。

「わたしが戦乙女の力を感じられるから気づけたと思ってるの?」

「とぼけることはないさ。本当に自分の目で見抜いていたなら――人違いはしねえ」

 女剣士がすぐに足止めした少女の革帽子を剥ぎ取る。

 その下から現れた顔はテトアだった。

 同時にマークルフの近くの木陰から同じような姿の少女が現れ、マークルフの前に駆けつける。

「しまッ――!?」

 囲んでいた傭兵たちも女剣士の隙を突いてテトアを連れて脱兎のごとく退散する。

「……そういうこと。こいつらを囮に一人でそちらに回っていたのね」

 女剣士はやられたとでも言うように肩をすくめる。

 その視線の先にいるのは黄金の髪をなびかせてマークルフを守るように立ちはだかるリーナの姿だった。

「リーナ、無事だったんだな」

 マークルフは微笑む。

「はい。マークルフ様もよくご無事で――」

 リーナも女剣士と対峙したまま答えた。背中を向けたままだが、その声からは感極まった安堵が伝わってくる。

「このなりで無事かは分からんが――死ぬに死ねなくてな」

「泣いたり、喜んだりはしませんからね。人をさんざん騙して心配させまくった罰です」

 そう言いながらもリーナは左足を後ろに下げ、マークルフの身体に触れた。

 これでいつでも“鎧”が装着可能になる。

「……感動の再会というところね」

 仮面の女剣士は油断なく身構えた。二人が揃った意味が分かっているのだろう。

「だけど、その状態で“鎧”の使用に耐えられるのかしら?」

「少しの間なら持ち堪えられる。どんな剣客も剣が通らない鎧には勝てんだろ」

 マークルフは言った。

「わたしの剣が、ただの剣と思っているわけ?」

 仮面の女剣士が一歩、踏み出す。しかし、すぐに剣を下ろした。

「――と、言いたいところだけど鎧もただの鎧ではなかったわね……いいわ。今、ここで無理に貴方と戦う理由もない。引き下がるとしましょう」

 女剣士は剣を鞘に納めた。そして、近くの木に隠れて成り行きを見守っていたリファの方に向く。

「男爵は良いことを教えてくれてるわ。お兄さんを支えるつもりなら、あなたも覚悟を決めなければならない――そのことは忘れずにおきなさい」

 仮面の女剣士はそれだけ言うと、踵を返して闇の中へと消えていった。

「男爵さん、大丈夫!?」

 女剣士が消えるとリファが慌てて駆け寄る。

「マークルフ様、この子は?」

「倒れていた俺を助けてくれたんだ……リファだ」

 リーナは慌てて地面に正座すると、手をついた。

「お礼が遅れました。リーナと申します。うちのマークルフ様を助けていただいたそうで、本当にありがとうございます!」

 深々と頭を下がられたリファは戸惑い、同じように地面に正座する。

「いえ、あの、たまたま見つけただけなので……」

「マークルフ様の介抱は大変だったと思います。何とお礼をすれば良いか――」

「あの、お礼なんて! 男爵さんも力になってくれてるし、別に――」

「いいえ! 今までにかかった費用だけでもお支払いします。後で請求書をこちらにお渡しください。必ずお支払いいたします」

「せ、請求書? え、えーと、どう書けば……いいのかな……」

「……あの、リーナさん? 俺はこのまま――かな?」

 地面に投げっぱなしのマークルフが遠慮がちに声を挟むが、リーナは叱咤するように厳しい顔を向けた。

「ダメです! 命を助けていただいた方にちゃんとお礼を申し上げるのが先です! こちらが一方的にご迷惑をおかけしたのですから、少しぐらいお待ちください!」

「そ、そういうことみたいだから、ちょっと待っててね、男爵さん――」



「血統書付きめ。やはりと言うべきか、完全に尻に敷かれておるな」

 カートラッズが呟く。

「正妻感、ハンパないですね」

 頭を下げあうリーナと赤毛の少女。その傍らで放置されるマークルフの姿をカートラッズとテトアは眺めていた。

「惜しいな。日が照っていたら、おまえの日光写真機で面白い映像が撮れたのにな。いまなら血統書付きも動けんし、格好の被写体だったぞ」

「……もっとカッコいい画が撮りたいです」

 その二人のやり取りも背後からの気配に中断される。

 振り向いた彼らの前に現れたのは高貴な出と思しき娘だった。お供の騎士たちを引き連れて“狼犬”たちのやり取りを眺める。

「確かに面白い光景ですね。記録できないのは残念なことです」

「失礼ながら、貴女は?」

 警戒するテトアを後ろに下がらせ、カートラッズが尋ねる。

「エレナ=フィルディングです。詳しくはそこの男爵に聞いてください」

「フィルディング――」

 思わぬ大物の名にカートラッズも思わず眉を動かす。

 エレナたちはカートラッズらを横切り、男爵たちの前に立った。

 リーナも相手がフィルディングの娘と気づくと、マークルフを庇うようにその胸元に手を添える。

「娘、その手を離せ」

 エレナが告げる。

 だが、リーナもすぐには手を離さなかった。

「やはり、接触することが“鎧”の発動条件らしいな」

「リーナ、大丈夫だ」

 マークルフはそう言って安心させるように笑いかける。

「――リファ!」

 さらに後ろから声が聞こえた。

「無事か!?」

「兄ちゃん!?」

 エレナたちの後ろからルフィンが現れる。それに気づいたリファは兄に飛びつく。

「マークルフ様、あの子はリファちゃんの――」

「双子の兄貴さ。俺を助けてくれた一人だ」

 リーナは慌てて双子たちの前に駆け寄ると、地面に手をついて頭を下げる。

「妹さんとご一緒にマークルフ様を助けていただいたそうで、あらためてお礼を申し上げます!」

 突然、頭を下げられて戸惑うルフィンにリファが耳打ちする。

「男爵の!? いえ、あの、たまたま見つけただけなので――」

「兄ちゃん、それさっき、あたしが言った!」

 ルフィンも慌てて地面に手をつき、リファもそれに倣う。

 リーナと双子たちが互いに頭を下げあう様子を見ながら、マークルフはエレナに苦笑する。

「お礼を言うのが先らしいから、少し待ってくれ。後でそっちにもお礼に行かせようか?」

「……結構だ」



 村に戻ったマークルフはマリアの家に居た。

 カートラッズの部隊も近くに駐屯している。エレナも見張りはつけるが同行することを許可していた。

 マークルフも元の寝台に戻され、リーナも傍らの椅子に座って付き添う。

「――大変だったのですね」

 マークルフからいままでの経緯を聞いたリーナが労うように彼の額に手を触れた。

「俺が動けない分、あいつらには迷惑をかけちまったな」

「そういえば、あの双子くんたちの姿が見えませんね」

「俺たちに気を遣ってんだろ」

 マークルフが言うと、リーナは思い出したかのようにマークルフの額を叩いた。

「いてッ!? 何するんだ?」

「もう忘れたのですか!? 大事な戦いの前っていうのに、強引に口づけなんかしておいて――」

「ああ……覚えてたのか。いやぁ、悪いな。あの時は後がないと思ってな、つい――」

「つい、で片づけないでください」

「分かったよ。強引でなければいいんだな」

「そ、そういうことでは――」

 リーナが思わず顔を紅くするが、マークルフは笑顔のまま部屋の扉を目で示す。

(ほら、兄ちゃん。やっぱりあの人が男爵さんの“大事な人”なんだよ)

(みたいだな。男爵、頭が上がらなそうだけど――)

 扉の向こうからひそひそ話が聞こえていた。

「てめえら! 盗み聞きなら黙ってしろ!」

 マークルフが言うと駆け足と床に転ぶ音がした。多分、リファが転んだのだろう。

「そういえば砂をまいていたからな。気をつけろよ!」

 マークルフは愉快そうに笑った。

 双子たちが退散したのを感じ、リーナが困ったような顔をする。

「また人の足をすくう悪い癖が出ましたね」

「人聞きの悪いことを言うな。誰が来るか分からんからな。気配が分かりやすいように戻る途中でこっそり砂をまいただけさ。足を滑らせそうな場所は選んだがな」

「リファちゃん、かわいそうに――」

「盗み聞きの罰さ。だが、これで話しておくことができる」

 マークルフはリーナの方をあらためて見た。

「身体を元に戻すためにも、エルマやマリエルたちとの合流を急ぐ。あいつらなら何か方法を見つけてくれるかもしれん……だが、もし“竜墜ち”までに間に合わなかったら、その時は――」

 リーナは微笑む。

「承知しています。ログ副長の力になって“機竜”を止めてくれ、ってことですね?」

「頼む。できれば、その時は――おまえが俺に止めを刺してくれるか?」

 リーナが驚いて目を見開く。

「唐突ですまんな……俺も、戦乙女の手で裁かれないといけない約束をしてしまっていてな」

 リーナは目を細めると、マークルフの頬に手を添えた。

「また何か安請け合いしたんですね。分かりました。止めを刺せばよろしいのですね?」

「おいおい、あっさり納得したな」

「いちいち気にしていたら貴方様には付き合いきれませんわ。嫌ならお身体をちゃんと治してくださいね」

 マークルフは参ったような顔をすると、天井を見つめる。

「そうしないとな……ログもここに来れば自分の戦いが待っているかもしれん。できれば“機竜”は俺たちで決着をつけたいな」

 廊下の向こうから砂を踏みしめる音がした。

 マークルフたちが会話を止めると、向こうで派手に誰かが転ぶ音がする。

 騎士たちがエレナの名を呼ぶ声がした。

「マークルフ様――」

「……寝たと言ってくれ」

 しばらくして扉が開いた。

 そこに立っていたのは冷ややかな目でマークルフを凝視するエレナだった。

「……そなたの仕業か。確かに油断のできん男だ。いろいろな意味でな」

 その表情と同様の冷ややかな声でエレナは言った。

「そこの狸寝入りの“狼犬”に告げておく。我らにも大事な用があるので明日、出発する。そなたらの身柄はあの傭兵隊長に依頼して引き取ってもらうことにした。双子の身柄も一緒にな。無論、追加料金はそなたの懐から出してもらうぞ」

 エレナはリーナの方を見た。

「そういう事だ。この男の手綱はきちんと握っておけ。それと余計な事をしないようにもう少し躾けておくことだな」

 エレナはそれだけ告げると立ち去ろうとする。

「……あんたはこれからどうするんだ? 何が起こっているか、知っているのか?」

 マークルフの声にエレナは立ち止まった。

「それを確かめるためにここに来た」

「“機竜”の件と関係があるのか?」

「どうであろうと“機竜”は破壊されねばならん。そなたに求めるのはそれだけだ」

 エレナは扉を開けて出て行こうとして、振り向く。

「一つだけ忠告しておく。あの部隊はあっさり引き上げたが、裏を返せばいつでも襲撃できるということだ。あの双子を預かるなら気をつけておけ」

「そうか……分かった。忠告、受け取っておくぜ」

「後は掃除を忘れないようにな」

 エレナは静かに部屋を去っていく。

「すみません! 後で私が掃除しておきますので!」

 リーナがエレナを見送ると、椅子に戻った。

「マークルフ様、余計なことをするから、こうなるのですよ」

「そうかもな。向こうも意外と親切らしい。少し悪いことをしたかもな」

 マークルフは忠告を思い出す。

「……リーナ、今回の件はフィルディング一族も危機感を持っているのかもしれん」

「最長老の孫娘が直接、動くほどだからですか?」

「ああ。だが、それだけじゃない。あの姫が自分ではなく俺に双子を預けると言った。それは自分の手元に置く方が危険と判断したということだ。つまり、彼女がこれから赴く先が黒幕かもしれない。そして、最長老の威光を背負う姫が危険を考えるぐらい、一族の力でも黒幕を抑えられる保証がないということだ」

 リーナがエレナの去った廊下の方を見る。

「あの方はそれを教えてくれたのでしょうか?」

「多分な。俺がそう考えるのを予想できない姫じゃないだろう。将来、手強い相手になるかもしれないな」

 マークルフはリーナの目を見据えた。

「頼むぞ。どうやら、これからが本当に正念場のようだ」

「はい」



 ログはブランダルクに近い、とある森の奥地にいた。

 どうしても確認することがあったため、部隊だけはブランダルクに先行させて一人でここまでやって来たのだ。

 彼の前に大きな岩があった。見た目は何の変哲もない大岩だ。

 だが、ログだけは知っている。

 この岩こそが〈白き楯の騎士団〉が代々護ってきた秘密――伝説の神女の封印なのだ。

 ログはかつて、ここに赴いた時のことを思い出す。

 自分がログを名乗る前の話だが、岩は当時のまま全く姿を変えていない。

 ログは左手の革手袋を外すと〈白き楯の騎士〉の紋章が刻まれた手で岩に触れた。

 ログの双眸に険しさが宿る。

(予想通りだった――)

 岩の封印内には、すでに何も残っていなかった。

 かつて力を借りた“神馬”の霊だけでなく、神女自体の封印も解かれている。

(やはり、あの仮面の女剣士は自らに神女の霊を宿している)

 ログも神女の力がどういうものかは正確には知らなかった。

 だが女剣士は神族の持つ“光”の力を使った。

 そして、ログの剣技は騎士団から受け継いだ神女の流れを汲むものだが、彼女の剣技もそれに非常に近い。

 どちらも相手が神女の力を使うなら説明できることだった。

 分からないのは、どうやって女剣士がこの力を手に入れたかだ。

 封印の場所と解封の手段を知っていたとしか考えられないが、それを知っていたのは騎士団でも団長とごく一部の者だけだった。彼らも全滅し、残っているのは団長から託されたログだけのはずなのだ。

(リーデンアーズ団長――)

 ログは在りし日の団長を思い出す。

 伝説を受け継ぐ騎士団の長として強く、実直であり、厳しくも穏やかな人物であった。

 最も若かったログはいつも目をかけてもらい、ログもその期待に応えようと騎士の修行に励んだものだった。

 そんな日々の中、いつか彼の家に食事に招かれたことがあった。

 思い浮かぶのは団長の傍らで微笑む少女の姿だ。

 団長は早くに妻を亡くし、一人娘である彼女をとても可愛がっていた。ログから見ても仲睦まじい父娘だった。

(どうか、わたしの間違いであることを願います)

 ログの知る限り、封印の秘密を知る者の関係者で女剣士と同年代の女性は、その団長の一人娘しかいないのだ。

(わたしは――)

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