表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/112

落ちてきた男

 サルディンの部隊と共に、エルマは“機竜”が現れた遺跡へ向かっていた。

 途中、休憩を入れていると、サルディンが彼女の許にやって来る。

「向こうについたら、どうするんだい?」

「とにかく、男爵と姫様を探すためにも、マリエルたちと合流するわ」

 サルディンが曇りがかった空を見上げた。

「あの雲の上で戦ったんだろ……あんたは生きていると思うのか」

「姫様は特別な方だから、望みはあると思う。最悪の場合、姫様だけは生還させると男爵も言っていたわ」

「へえ、あの若様がそんなことをね。随分と男前になってたんだな」

 彼が《オニキス=ブラッド》に在籍していた頃は、マークルフもまだ幼さの抜けない少年だった。

「……それで、男爵の方は見込みはあるのか」

「正直、厳しいわ」

 エルマは淡々と答えた。

「それでも、男爵も探しに行くのか」

「ええ。男爵の胸の“心臓”を回収しないと──姫様と“心臓”。この二つだけは他に渡すわけにはいかないの。それが“機竜”を止められなかった時の男爵の伝言よ」

「遺言とは言わねえんだな」

「はっきりと確認するまではね」

「……そうだな」



 一昼夜をかけ、エルマたちはようやく遺跡へ到着した。

 だが、遺跡周辺にはマリエルや他の人の姿はなかった。

「入れ違いになっちまったか。どうする、前所長さんよ?」

 サルディンが頭をかく。

「……そこに立て看板があるわ」

 エルマが指で示した先には、適当な板で作ったらしい即席の看板があった。

「『ご用の方はこのままお入りください』──だって。入りましょう」

「おいおい。あからさまに胡散臭いぜ」

「うちらでは胡散臭さなんて臭いのうちに入らないわ」

 エルマは力説をすると、遠慮なく遺跡の奥へと入っていった。

「……まあ、否定はできないけどよ」

 サルディンも部下を連れて、エルマを追った。

 遺跡の奥に進む一行。

 “機竜”襲撃時に籠城をしていた痕跡が、所々に見受けられた。

 その時、前方から気配を感じ、一行は足を止める。

 身構えた一行の前に、通路の影から小柄の男が飛び出してきた。

「おお、丁度いいところに! 助けてくれッ!!」

 デカ鼻でぼさぼさ髪の小男はエルマたちに気づくと慌てて駆け寄ってくる。

 通路の奥からまた何かが現れた。

 それは金属の骨を持つ骸骨だった。

「おい、あれって確か、あんたが言っていた──」

「〈竜牙兵〉よ!」

 小男がエルマたちの横を通り過ぎた。

「すまん! 頼むぜ、同業!」

 小男がサルディンの腕を叩いた。

 サルディンは舌打ちするが、すぐに剣を抜いてエルマの前に立った。

 〈竜牙兵〉が迫ってくるが、サルディンの剣撃で〈竜牙兵〉の頭を横殴りにされ、横転した。そこを部下たちが取り囲み、棍棒で袋だたきにする。

 やがて、〈竜牙兵〉は金属の欠片に変化した。

「やるわね、隊長さん」

 エルマが言うと、サルディンは肩をすくめた。

「元《オニキス=ブラッド》部隊長で売ってるからな。これぐらいはできねえと、やってけないのさ」

「いやあ、助かったぜ。あんた、ガチで強え方なんだな」

 後ろで様子を見ていた小男が一息つくと、エルマたちに近づく。

「余計な仕事させんじゃねえよ」

 サルディンがぼやく。

「何があったの? “機竜”はもういないみたいなのに、〈竜牙兵〉がうろついているなんて」

 エルマが訊ねた。

「いやあ、“後片付け”をしてたら、ちょっと面倒なことになってのお」

「“後片づけ”? おっさんが?」

 サルディンが胡散臭げに見るが、小男はきっぱりと告げた。

「無論だ。後片づけして帰るまでが籠城戦だからな」

 小男は胸を張りながら、〈竜牙兵〉の欠片を拾って腰の革袋の中に入れた。

 その中には同じような欠片が幾つか入っていた。

「骸骨どもの欠片があちこちに散らばってな。片付けてたんだが、うっかりその一つが古代の道具に当たってしまって。そしたら、その魔力を吸って骸骨に戻りやがったんだ」

 エルマが首を傾げる。

「おかしいわね。〈竜牙兵〉の襲撃に備えて、魔力を持つ物は撤収してるはずなのに。あの子がそんな見逃しするとは思えないしねぇ」

 その時、通路の奥から傭兵の一人がやって来る。

「親分! 悲鳴が聞こえましたが、大丈夫ですかい」

「馬鹿野郎! 助けにくるなら早くこい! もう終わった」

「いや、すまねえ。それより親分のにらんだ通り、あそこにも隠し部屋がありましたぜ。中からいろいろ出てきましたぜ」

 傭兵の一人は古代の道具を持っていた。宝石に装填された魔力で駆動する自動工具のようだ。

「……“後片づけ”ねえ」

 サルディンが呆れたように呟く。どうやら、遺跡で宝探しをしていたらしい。

「“後片づけ”さ。建物の構造を調べたときに、何かありそうとは思ってたんだ。見つけられずに放置されてるもんはゴミも一緒だろ」

「いいのかよ、前所長さん。遺跡荒らしじゃねえか?」

「別に。見つけたのこの人だし、ぶっ壊される訳じゃないしね。ようするに、親分さんは古代のお宝を探してたら、うっかり欠片に当ててしまって、一体蘇ったってことね」

「おお、話が早いな。ひょっとして、あんた、マリエルさんの姉さんか?」

「そうよ。あの子を探しに来たんだけど、知ってるの?」

「丁度よかった。いろいろと伝言を頼まれてる。まず伝えねばならんのが、もしかしたら“戦乙女の狼犬”がまだ望みがあるかもしれんことだ」

「どういうこと!? 詳しく話を聞かせて──」

 マリエルは憶測や希望で可能性は語らない。その彼女が望みがあると言うことは、何か特別な算段があったということになる。

 だが、話は通路の奥からの悲鳴に遮られた。

「おい、おっさん! 今度は何をやらかした!」

「分からん! だが、あっちには遺跡に封印してあった巨大鉄機がある方だ!」

 エルマが駆け出した。

 サルディンと親分もそちらに続く。

 エルマたちが広い広間に出た。

 そこにいたのは親分の部下たちと、彼らが遠巻きにしている一体の〈竜牙兵〉だ。しかもいままでと違って、全身が紅く輝き、オーラすら漂わせるほどの存在感を示していた。

「……おい。何か目覚めてねえか、こいつ」

 サルディンが剣を抜くが、さすがに及び腰だ。

「てめえら! いったい、どうなってる!?」

「すまねえ、親分。例の欠片を集めてた袋から骸骨が現れて、奥の機械の方に逃げやがった」

 傭兵が答える。足許には破れた袋と散らばった欠片の山が転がっていた。

「……集めすぎたわね。欠片を密集するから残留魔力が集まって、一体分だけ再生できたみたい。それで奥の鉄機に取り憑いて、しこたま魔力を吸収したようよ」

「おいおい。そんな物騒なのかよ」

 親分が肝を冷やしたように腰の革袋を投げ捨てた。

 〈竜牙兵〉がエルマたちに襲いかかる。その動きはいままでに見たことがないほどに俊敏だ。

 エルマたちは四方に散ってそれから逃げるが、〈竜牙兵〉は物色するように頭を巡らせる。

「おい、前所長! ありゃ、まともには手が出せねえ」

「魔力の消耗を待つしかないわね!」

「簡単に言うが、へたばるまで待ってられんぞ!」

 〈竜牙兵〉がその頭を親分へと向けた。

「こりゃ、いかん! 退くぞ!」

 撤退という名の逃亡で背を向ける親分に、骸骨は一気に跳躍した──はずだったが、跳躍できずに顔から床に突っ伏した。

 床をすり抜けた鋼の手が骸骨の片足を掴んでいたのだ。

 床を通り抜けて現れたのは《グノムス》だ。鉄機兵は足を掴んだまま〈竜牙兵〉を持ち上げる。

「いいところに来てくれたわ、グノムス。そいつをたたんでちょうだい!」

 エルマの命令に従い、《グノムス》は腕を振り回した。〈竜牙兵〉は床や壁に叩き付けられ、再生が追いつかずに全身がひしゃげていく。

「やれやれ、いつもいい時に現れやが──うぉぁッ!?」

 慌てて飛び退く親分のいた場所に〈竜牙兵〉が飛んできた。足が折れてすっぽ抜けたのだ。

 倒れた〈竜牙兵〉はまだ全身が魔力で輝いていた。だが、再生すると思われた〈竜牙兵〉は腕で少し這いずっただけで動かなくなり、なぜか輝きも消えていく。

「……終わったのか、前所長?」

「いいえ。まだよ。どうやら、あれを狙ってわざと足を外したみたいね」

 エルマの視線の先には〈竜牙兵〉の手にある親分の革袋だった。〈竜牙兵〉の魔力が伝達したのか、革袋が中から紅く輝き、内部で何かが蠢き出していた。

「……前所長。これって欠片の山がまとめて再生しようとしてるんじゃねえのか」

「そうみたいね。グノムス、いらっしゃい」

「おい!? 危ねえぞ!」

 慌てるサルディンたちをよそに、エルマは〈竜牙兵〉に近づいていく。

 そして、ぐねぐねとする革袋の口を躊躇なく掴み上げた。

「グノムス、中に入れて」

 胸の装甲を開いた〈グノムス〉の中に、エルマは革袋を放り入れる。

「閉じて、出力全開。しばらくそのままにして」

 エルマの命じるまま、〈グノムス〉は装甲を閉じた。そして機関の駆動音を響かせたまましばらく動かずにいた。

「……なあ、どうなったんだ?」

「この鉄機兵は“大地”の力で動いているの。こうしていれば、中で均衡の力が働いて、魔力の消費を早めてくれるわ」

 遠巻きに聞く親分に、エルマは実験を説明でもするように答えた。

 やがて《グノムス》が胸の装甲を開く。

 エルマは革袋を取り出すが、すでに輝きは消え、何も動いてはいなかった。

「これで無力化できたわ。あの骸骨姿だと放り込むわけにはいかないから、丁度よかったわ」

 エルマは何事もなかったように革袋を懐に収める。

「……おい、同業。この姐さん、実はとんでもねえお人なんじゃねえか」

 親分がサルディンに耳打ちする。

「それに俺が売っ払うつもりだった欠片、さりげなく横取りしてるぞ」

「命があるだけありがたく思え。敵にしない方がいい人だぜ」

 声を潜める傭兵隊長たちの前にエルマが戻って来る。

「親分さん。さっきの続き。妹の伝言の続きを聞かせて」

「あ、ああ。それならもう用済みだ。俺が預かった伝言は、その巨人が戻るまで待っててくれってことだ」

 親分が《グノムス》を指して、そう言った。



 “聖域”内にあるとある山の麓。

 そこに子供たちの声が響き渡る。

「兄ちゃん! こっちよ、こっち!」

 赤みがかったお下げ髪の少女に手を引かれ、やって来たのは同じ髪と年格好の少年だった。

「ねえ、ねえ! あれ!」

 少女は先にある崖の下を指差す。

 その先に誰かが倒れていた。遠くからではよく分からないが、若い男のようだ。

 少年は少女と同じような表情で驚く。

「な、何だ、あれ!?」

「分かんないよ!」

 二人は近くの茂みに潜み、倒れた男の姿を遠巻きに観察する。

 崖の上が何かにぶつかったかのように一部が崩れており、そこから急勾配の斜面を転がった跡が男まで続いていた。

「……落ちてきたのかな?」

 少女が呟く。自分でも半信半疑なのか、その声は控えめだ。

「そんなわけ……ないよ、な」

 少年が否定するが、その声も少女と同じように控えめだ。

 倒れた男の近くには細い木が数本、薙ぎ倒されている。どういう状況でそうなったか分からないが、それだけの勢いで転落すれば身体は無事にはすまないはずだ。

 だが、倒れた男はぴくりとも動かないが、その全身は損なわれていなかった。

「……死んでるのかな?」

 少女が言った。

「さすがに生きてはいない……だろ」

 少年は答えるが、この異様な状況を目の当たりにすると、自信がなくなる。

 二人はしばらく様子を見ていたが、やがて少女が立ち上がった。

「ちょっと様子見てくる」

「おい。罠かもしれないぞ」

「こんな罠なんて誰もしかけないよ。それに、あのまま放置しておくのも気の毒だよ」

 少女はそう言うと、慎重に男の方へと向かいだした。

 少年も困った顔をしたが、やがて少女に追いつき、一緒に近づいていく。

 二人が近づくと、倒れている男がかなり若いことに気づく。

 十四歳である二人より数年、年上ぐらいだろう。その衣装はおそらく貴族か騎士が纏う上質のものだ。だが、丈夫なそれも転落によってボロボロになっており、その下から見える全身の肌も、無事な部分が見られないほどに傷だらけだった。特に左腕が酷く、焼けただれたようになっている。

 そして、目についたのは右肩に鎧の肩当てみたいな物が装着されていることだった。

「兄ちゃん、これ見て。光ってるよ」

 少女が肩当てを指す。

 それは普通の物ではなかった。何か機械が組み込まれており、その内部でうっすらと紅い光が灯っていたのだ。それも不思議なことに固定機具無しで、その肩から外れずにくっついているようだ。

「やっぱり、普通の人じゃないんだよ」

「そ、そうだな……でも、さすがに死んでるよな」

 少年は少女を下がらせ、若者の傍に膝をつくと、恐る恐るその手を若者の首筋に伸ばした。そっと触れると、すぐに手を引っ込めた。

「兄ちゃん、どうなの?」

 若者の肌は体温では説明できないほど熱かった。

 さらに少年はその手を若者の顔に伸ばす。 その手に微かな呼気を感じた。

「生きてる!?」

「うそ!? どうしよう!? 早く何とかしないと死んじゃうよ!?」

 少女がいまさらながらに慌てふためく。

「お、落ちつけ!」

 少年も慌てていたが、双子の兄としての立場が何とか冷静さを取り戻させる。

「こ、こんだけ放置されて生きてるんだから、すぐには死なないさ、多分。と、とにかく教会に戻って司祭様に伝えろ!」

「わ、分かった!」

 少女は慌てて駆け出す。

 少年は若者の傍に留まり、その様子を見守った。



 それからしばらくして、少女が人々を連れて戻って来た。

 人々の先頭にいるのは、祭司服を纏った若い女性だ。

 彼女たちは少年と若者の姿を見つけると、そこに駆けつける。

 だが、村人たちは若者を遠巻きにした。

 謎だらけの相手と理解しがたい状況に彼らは警戒した様子を見せるが、女性はためらうことなく若者を運ぼうと手をかける。

 後ろにいた双子たちも担架を運んで来ると、女性と一緒に男を慎重に担ぎ上げようとした。

 その姿を前に村人たちもようやく決心がついたのか、一緒に手伝いを始める。

 やがて、彼らによって担架に載せされた若者は、女性の案内でどこかへと運ばれていくのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ