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忍びくる刺客(2)

 男爵の居城の地下──

 そこに《グノムス》が潜行している。

 そこにはもう二人、大地の妖精族であるダロムとプリムが一緒に地中に潜っていた。

 ダロムは損壊している《グノムス》の左腕の付け根に手を伸ばしていた。地中を透過できる彼らの視界には、手を触れた部分から損壊箇所が少しずつ修復しているのが見える。

 ダロムには地中で宝石や金属を生成する“錬金術”と、長年に渡って蓄えた古代の知識がある。それを利用し、地中に潜る《グノムス》の機体を再構成しているのだ。

「……ふう」

 ダロムは一区切りを付けると、《グノムス》の装甲を通り抜ける。金属と“大地”の霊力が流れる機体だけに、大地に潜行している状態なら通り抜けることが可能だった。

 《グノムス》の内部空間にに降り立ったダロムとプリム。本来は人を収容する場所であるが、現在は妖精たちの休息の場所となっていた。

「あぁ、疲れたぞい」

「じいじ、お疲れさま〜」

 プリムが上機嫌な様子でダロムの肩をもむ。

「よかったね、グーちゃん。この調子で全部、直してあげるからね」

 プリムが上を向いて話しかけると、ダロムはそっとため息をつく。

「……直すのはワシなんじゃがの」

 ダロムの気苦労をよそに、プリムはいつものようにお菓子箱の方に近づく。

「じいじ、新しいお菓子箱になってるよ!」

 プリムは箱のフタをずらすと、小さな焼き菓子を取り出した。

「みてみて、食べやすいように小さくなってる! きっと、フィーちゃんが持ってきてくれたんだよ!」

 プリムが持ってきたお菓子をダロムは受け取ると、かじりつく。

(……むう、このままでは神様の頼みごとにいつまでたっても手が付けられんぞい)

 その時、周囲が急に揺れ、ダロムは菓子を落とす。

 さらに浮上するような加速度が加わった。

「な、なんじゃ!?」



「グーちゃん、出てきて」

 男爵の屋敷の地下にある一室。

 そこにリーナはいた。

 周りを石壁に囲まれた空き部屋だが、いつも《グノムス》を呼ぶ時に利用する場所だ。

 リーナの呼びかけに応えるように、足許の石床が淡く輝き、そこから《グノムス》が静かに浮上する。

「グーちゃん、お願いがあるの。マークルフ様が暗殺者の囮になるつもりで外に出られたわ。今からわたしを連れて跡を追ってほしいの」

 目の前に現れた《グノムス》に、リーナはお願いするように自らの両手を握る。

「マークルフ様のことだから、きっと大丈夫だと思うけど……でも最近、思い詰めているようで、どうしても心配なの。もし、いざという時にわたしたちがいれば、きっと何かあっても大丈夫だと思うの。お願い、グーちゃん──」

 だが、普段ならすぐに胸の装甲を開いて中に乗り込ませるはずなのだが、今回に限っては《グノムス》は動くことはなかった。

 その様子に不安だったリーナはさらに動揺するように表情を翳らせる。

「どうしたの、グーちゃん?」



「じいじ、グーちゃんのご主人様がここに入ろうとしているみたいだよ。どうしよう!?」

 プリムが慌てて右往左往する。

「むう、いま見つかるのはまずいぞい」

 ダロムたちが気づいた時には地上に出ており、目の前にはリーナ姫がいた。外に脱出しようにも、《グノムス》が外に出てしまっては機体を通り抜けることができない。しかし、隙をぬって抜けだそうにも周りは何もない殺風景な空き部屋で、すぐに見つかってしまうだろう。

「グーの字、開けたらダメじゃ! 見つかったらもう直してやらんからの!」

「じいじ! そんなこと言ったら、グーちゃんがかわいそうだよ!」

「しかたない! ワシらにも神様から託された大事な使命があるんじゃ! 背に腹はかえられん!」



「どうして、何も動いてくれないの?」

 目の前の主人と中にいる妖精たちの板挟みにあい、動くに動くことのできない《グノムス》に、リーナは何度も問いかける。

 しかし、やがてリーナは何かに気づいたように顔を伏せた。

「……マークルフ様を信じろってことなの、グーちゃん?」

 リーナの瞼にかすかに涙が浮かぶ。

「……そうかもね。わたしが──マークルフ様を勇士に選んだわたしが一番、信じなきゃいけないのにね」

 リーナは指で涙をすくった。

「わたしの身を案じて留守番を命じられたのに、勝手なことをしたら、マークルフ様もきっと悲しくなっちゃうね」

 リーナは少し考えるように黙るが、すぐに《グノムス》に命じた。

「分かったわ。わたしはここにいる。でも、グーちゃんだけでマークルフ様を助けに行ってほしいの。ここにいれば安全だから、その分、あの人の力になってあげて」

 《グノムス》は静かに地下へと潜行を始めた。

「ありがとう、グーちゃん」



「ふう、なんとか乗り切ったぞい」

 地下へと潜った《グノムス》からダロムたちは地中へと抜けだした。

「でも、グーちゃんのご主人様にかわいそうなことしちゃったね」

 リーナ姫の涙を見てしまったプリムがもらい泣きするように目をこする。

「いや、あれでよかったんじゃろう」

「そうなの?」

「うむ。人は時に答えを分かっていても、自分では気づけなかったり、自信がなかったりもする。そういう時には向き合える“鏡”が必要なんじゃよ」

「……? グーちゃんに鏡なんかあったっけ、じいじ?」

「プリムも大きくなったら、そのうち見えるようになるじゃろうて」

「よくわかんないけど……グーちゃん、気をつけてね~」

 男爵を追って移動していく《グノムス》の姿を、妖精たちは静かに見守るのだった。



 マークルフはお忍びの姿で城下の往来を歩いていた。

 今回は外套を纏って旅人を装い、住民たちにも彼だと分からないようにしている。

 同様に近くには腕利きの部下たちも変装させ、密かに護衛をさせていた。

 しかし、こちらの動きを監視しているなら、その護衛にもいずれ気がつくだろう。

 だが、それも計算のうちだ。向こうがどう判断するかは分からないが、彼らにとっては暗殺の好機には間違いはないのだ

 しかし、しばらく城下を歩いていたが、周囲に妙な動きや気配は感じなかった。

 密かに護衛たちが顔を見せたが、そちらも何の動きも掴めてないような反応だった。

(警戒しているか、それとも──俺の命だけでは動くには足りないか)

 暗殺者を遣わせたのがフィルディング一族とするなら、一番の障害となるのはマークルフ自身ではなく、“黄金の鎧の勇士”だろう。

 ヒュールフォン=フィルディングはリーナが戦乙女だと知っていた以上、一族もそれを知っていると考えるべきで、そうなれば“勇士”の力の正体にも気づいている可能性ははある。

 つまり、マークルフの胸に埋め込まれた“心臓”──強化鎧《アルゴ=アバス》の制御ユニットと、鎧の化身としてのリーナだ。

 しかし、リーナは城のなかで厳重な警備の中にいる。暗殺者もうかつには手を出せない。

 すると、狙うはやはりマークルフだが、ただ殺しただけでは“心臓”は誰かが継承することになり、脅威の完全な排除にはならないと考えるだろう。

(この往来のなかでは俺の命は狙えても、“心臓”にまでは手は出せない。しかし、なら、どう出てくる?)

 マークルフもそこまでは読めないし、そもそも読みが当たっているとも限らない。

 だが、少なくとも得るものはあったと思うべきだろう。



 城下街の外れにある《戦乙女の狼犬》亭に立ち寄ったマークルフは、いつもの席に座っていた。

 小さな酒場だが、階段を上がった先に二階席があり、すでに客で埋まっている階下の様子を眺めることができた。

 そこが先代から続くユールヴィング家当主の指定席であった。

「お待たせしました、若様」

 階段を上がって蒸留酒を持ってきたのは、フィーの祖母である酒場の女将だ。

 細面で酒場の女主人としては物腰も柔らかめだが、昔から一人で酒場を切り盛りし、英雄ルーヴェン=ユールヴィングとも最も親交の深かった人物だ。

 そのことを知る者たちからは一目置かれ、マークルフも何だかんだで頭の上がらない人物である。

 女将はテーブルに蒸留酒と焼き菓子を置いた。

「すまねえな」

 マークルフは蒸留酒で喉を潤すと、焼き菓子を口にする。

「それでよろしいのですか。もう少しお腹にたまるものをご用意しましょうか?」

「いや、城に戻ればリーナが何か用意してくれているかもしれないしな」

「若様もそういう気遣いされるようになったのですね」

 女将は楽しそうに口元を綻ばせる。

「からかうなよ。それにフィーが届けてくれた菓子じゃ、食べた気にならんしな。なんで、あんなに小さいんだ?」

「やっぱり、そうでしたか。すみませんね。フィーに手伝わせたら、ああなってしまいまして──」

 その時、階下から女将を呼ぶ声が聞こえた。

「すみません、若様」

「ああ。とりあえず、他の注文はねえから、いつものようにツケに加えておいてくれ」

「いつものようにですね。かしこまりました」

 マークルフが言うと、女将は静かに頷き、下へと降りていった。



 ログは酒場のカウンターの隅に座っていた。

 マークルフがここに来てからしばらく経つが、いまのところ変わったところは起きていなかった。

 ログは懐から何かを覗き込むが、すぐにそれをしまい込む。

「おかわりはどうされますか?」

 空になった杯を見て、女将が訊ねるが、ログは首を横に振った。

「いや、結構だ。閣下の方は──」

「若様もいつのもようにしておりますよ」

「……そうか」

 その意味を知るログは、おもむろに立ち上がった。

 周囲にいた客の視線が集まるなか、ログはそちらに振り向く。

「捕らえろ」

 その声を合図に、酒場にいた客たちが他の客たちを数人、身柄を取り押さえる。

「な、何するんですか!?」

「なんのつもりだ!」

 掴まったのは地元の住人風の男たちが6人ほとだ。

「わたしは《オニキス=ブラッド》副長のログだ。これからおまえたちをしばらく拘束する」

「お、俺たちが何したってんですかい!?」

「理由か? それはおまえ達以外は怪しくないからだ」

 ログは冷静に言い放つ。

 彼ら以外の客は全員が《オニキス=ブラッド》の隊員たちだった。

「む、むちゃくちゃだぜ、だんな!?」

「閣下のご命令だ。従ってもらうぞ」

 ログは二階席を指差した。

 二階から手が伸び、ご苦労さんというようにマークルフの手が振られた。

「副長!?」

 部下の一人が叫ぶ。彼が捕まえていた男の一人が口元から血を流し、倒れたのだ。

 以前の刺客と同じように自害用の毒を仕込んでいたのだ。

「くッ!?」

 周囲の注意が男に集まる隙を突き、他に掴まっていた男が二人、拘束を振り解いた。

 男の一人が懐から短剣を取り出し、相打ちを狙うようにログに捨て身の攻撃を仕掛ける。

 ログは素早く剣を抜き、その短剣の一撃を受け止める。

 男の表情が微かに動揺を見せた。

 男の短剣には魔力の輝きが宿っていたが、ログの剣も同じような輝きを放っていた。

 魔力で破壊力を一時的に高めたのだろう。もし、普通の剣で受け止めていれば剣を破壊され、まともに攻 短剣を受けていただろう。

 男が動くよりも先に、ログの斬撃が男の利き足と利き腕を斬りつけ、その動きを封じる。そこを部下たちが気絶させた。

 だが、もう一人の刺客はすでに階段を駆け上がろうとしていた。

 その時、床板が割れ、鋼の手が刺客の足を掴んだ。

 刺客は体勢を崩すが、すぐに短剣を取り出し、その手に突き刺す。

 それも魔力が宿っており、《グノムス》の鋼の手に突き刺さった。力が緩むと、男は足を抜いて二階へと駆け上がる。

 だが、そこにいたマークルフの姿に気づいた刺客の動きが一瞬、止まった。

 その背中にログの投げた短剣が突き刺さる。

 短剣に塗られた麻痺毒もあり、男は何もできずにその場に崩れ落ちた。

「ご苦労だったな」

 ログが階段を上がると、そこにいたのはマークルフと同じ衣装と体格をした、若い隊員の姿だった。

 隊員はさすがに肝を冷やしたのか、顔が少し引きつっていた。

「次の機会があったら、また影武者を頼むぞ」

「い、いや、次は勘弁してほしいっすね」

 本物のマークルフはすでにここにはいなかった。この二階席には秘密の抜け道があり、そこから下に気づかれずに外に出たのだ。

 ログは刺客が手にしていた短剣を拾い上げる。

 必要な時だけ魔力を開放し、破壊力を高める仕組みの短剣らしいが、“聖域”の影響ですでに魔力の輝きは消えていた。

 これで男爵の“心臓”まで破壊しようとしたのだろう。

 刺客は何か特別な装備を持っており、捕まえれば必ず動きを見せると踏んでいた男爵の読みは当たったようだ。

 ログが下に降りると、女将が待っていた。

「すまんな、女将。店を荒らしてしまった」

「お気になさらず。荒事は先代の頃から慣れっこですよ」

 ログは懐から水晶を取り出す。先ほど輝いていたそれは急速に薄くなっていた。

 もし、他の刺客がここを監視していれば、男爵の戦力でもっとも厄介なログと《グノムス》がこの場にいたことは伝わっているだろう。

 部下の一人が近づく。

「副長、残りの捕まえた者たちはどうしましょう?」

「そのまま、拘束する。刺客の可能性はまだ捨てきれん」

 ログの言葉に、とばっちり(おそらく)で掴まった者たちの悲嘆の声が漏れるのだった。

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