表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/112

滅びぬ破滅

 “闇”の魔力を用いた魔導科学で世界を統べた古代文明エンシア──それを破滅に導いたのは世界そのものだった。

 世界には“光”と“闇”、そしてそれらを均衡させる“大地”の力が働いている。

 しかし、エンシアの存在は均衡を崩し、“闇”の力が増大した。

 結果、均衡を取り戻すため、“大地”の力が“闇”の力を抑える方向に働き始めた。

 “大地”の力の干渉はエンシアの文明に影響を与えた。魔力の供給が不安定となりそれで動く機械が誤動作や停止の可能性が増したのだ。

 エンシアにとって、それは文明存亡の危機であり、様々な対策が講じられた。しかし、文明が発展する限り、それは避けられぬ深刻なジレンマだった。だからといって文明を捨てて生きることもできなかった。

 エンシアは自らの存亡を賭けて最後の賭けにでた。

 世界の法則に抗い、魔力を安定して供給できる究極の動力機関の開発に着手したのだ。

 それが完成すれば、エンシアの全ての機械に安定して魔力を供給することが可能となる。いわば、エンシアの人々の命運を託した機械の“神”だった。

 《アルターロフ》と名付けられた究極機関の開発は、当時の魔力理論を持ってしても計算しきれない未知の領域であり、反対も根強かったが、エンシアの危機の前にその声は握り潰された。

 そして、ついに《アルターロフ》は完成する。

 エンシアの民は救世主となる機械神に願いを託し、それを起動させた。

 しかし、それはエンシアに終焉をもたらす破壊神として目覚めた。

 暴走した“闇”の機械神は世界中の機械や兵器を掌握し、人々に牙を向いたのだ。

 人々は為す術無く、文明と共に滅びた。

 自ら創り出した“機神”に運命を委ねた彼らは、滅びの運命に殉ずるしかなかったのだ。

 その後、“機神”はその暴走を止めるべく出現した“光”の“神”と戦い、機能を停止した。 しかし、“神”をもってしても“機神”を消滅させることはできなかった。

 “神”は大地を変動させ、均衡の力を一つの地に集め、そこに“機神”を封印した。“光”も“闇”の力も排除する地に置くことで、“機神”に魔力を集められないようにしたのだ。

 後に“聖域”と呼ばれる地で、“機神”は機能を停止したまま、永い眠りにつくことになったのだ。



 “聖域”と呼ばれる六王国地方。その中心に位置するクレドガル王国。

 その首都の近くには荒野が広がっていた。

 そして、その荒野の只中に巨大な鋼の巨像がそびえている。

 全身は鋼の触手と水晶質の円形の甲殻が編み上げられて構築されている。

 本来は人型の上半身に三対翼の翼を持つ鋼の神像だったが、現在は胸から上の部分は吹き飛び、背中の翼の大半がちぎれていた。

 これが現在の“機神”の姿だった。

 数十年前、フィルディング一族に連なるフィルガス王国が野心にかられ、“聖域”に埋まっていた“機神”を発掘した。“機神”を復活させるために“聖域”の外に運び出そうとした王は他国と激しい戦争となった。

 “機神”は“聖域”の外縁まで到達し、再稼働を始めたが、時の傭兵隊長だったルーヴェン=ユールヴィングが古代の強化鎧《アルゴ=アバス》を纏って戦い、完全復活を食い止めた。

 結果、フィルガスは滅びた。英雄となったルーヴェンはクレドガル王国の男爵位を賜ると、“機神”とフィルディング一族の脅威に備えるため、その一生を費やしたのだ。

 だが、一年前、フィルガス王族の生き残りである公子が“機神”を復活させようとした。そのためにリーナ姫を捕らえ、彼女の力を利用したのだが、それに立ち向かったのが、祖父ルーヴェンの遺志を継いだマークルフ=ユールヴィングだった。

 死闘の末、《アルゴ=アバス》は大破してしまったが、リーナ姫の力によって“黄金の鎧の勇士”となったマークルフによって“機神”は倒されたのだ。

 “機神”のいまの姿はその時の戦いのなれの果てであったのだ。



 “機神”と“黄金の鎧の勇士”の戦いの痕跡である荒野は現在、一般の人間が立ち入ることのできない封鎖区域となっている。

 もっとも、そこに自ら入り込もうとする者は皆無だ。

 一年前の覚醒によって周辺地域は甚大な被害を受けており、その元凶に好んで近づくことなど、まず考えはしない。

 だが、その荒野の上に一人の若い女性が立っていた。

 髪をまとめ上げ、場違いの侍女服に身を包んだ彼女は、目の前に三脚付の写真機を置いていた。写真機が捉えているのは、遠くにありながら威容を誇る“機神”の姿だった。

(さらに再生が進んでいるようね)

 彼女は怜悧な瞳で“機神”を見つめていた。 ここに来る度に、ほんの僅かずつだが機体は修復していたのだ。

「──機体はかなり再生しているのか、エルマ?」

 背後から不意のの呼びかけに、エルマは振り向く。

 そこに立っていたのは一人の青年だった。

 エルマと同年代の黒髪の青年は知的な風貌に気難しい表情を浮かべながら、“機神”の姿を見つめていた。

「失礼ですが、どなた様でしたかしら?」

「変わらないな、君は──相変わらずの変わり者と言う点でもな」

 エルマが会釈しながら訊ねると、青年はわざとらしく肩をすくめた。

「この国の大公の下で研究者をしていると聞いていたが、まさか侍女までやっているとはな」

「申し訳ございません。ただいま、旦那様よりの頼まれ事の最中ですの。お戯れはご遠慮いただけますでしょうか」

「まともな侍女がこんなところで“機神”の写真など撮るものか」

 青年はエルマの言葉を受け流すと、彼女が設置した映写機を見つめ、空の太陽を見上げる。

「日光写真機とは随分と古い形式の物を使うんだな。もっとましな物だってあるだろう」

「知り合いのギルド記者さんに良い現像材をいただきましたの。これはこれで使い勝手はいいものなんですよ」

「なるほど。見向きもされなくなった物の改良か。君が好きそうなことだな」

 あくまでよそよそしく受け答えするエルマだが、青年は青年でそれに付き合うことなく話を続ける。対照的だが、人の話に合わせないという点ではお互い様とも言えた。

「それで、フィルディング一族の招聘を受けた新進気鋭の科学者様がここにどんな御用なのかしら、オレフ?」

「ようやく、名前を呼んだな。かつての学友との再会なのにつれない態度だ」

「学院一の気難し屋さんだった人に言われるとは思わなかったわね」

 オレフと呼ばれた青年は表情を変えることなく、“機神”を見つめる。

「俺は“機神”の現状を確認に来た。それだけだ」

「そう。それで“黄金の鎧の勇士”の力、あなたの想像通りかしら?」

 オレフは一瞬、眉を動かす。

「“機神”の再生速度を訊いたということは、それを逆算して“機神”がどれだけ破壊されたのかを確認したかったということじゃない?」

「なるほど、お見通しか」

 オレフは少しだけ苦笑する。

「想像以上だな。それでも一時的に“機神”の存在を揺らがせる程度でしかないのが残念だ。いずれ機体は完全に再生するだろう。悪い噂にならなければいいがな」

「……そうね」

 エルマもその点には同意した。

 “機神”の再生は決して、復活の予兆ではない。“機神”は存在自体が“闇”の特異点であり、機体の再生は一番安定して存在できる基底状態への移行でしかない。オレフの言う通り機体は完全に再生するだろうが、それ以上は外部からの魔力がなければ稼動することはない。

 しかし、“機神”の恐怖が消えない人々にはそんな説明は通用しないだろう。

 ここに立ちいることを禁止しているのは、このことが噂で流れることを防止することもあるのだ。

「“聖域”の制約に縛られることなく稼働する“黄金の鎧”……君が仕組んだのか?」

「私は何も関知しておりませんわ」

「そうか。“機神”を滅ぼすための手がかりになると思うのだがな」

 オレフは少しだけ表情を緩めた。

「学院時代は、“機神”を滅ぼす方法についてよく議論したものだな」

「あなたは何か見つけたのかしら、“機神”を滅ぼす方法を?」

「ああ」

 オレフは告げた。だが、エルマが何も反応を示さないため、少しだけ肩をすくめた。

「さすがに驚くと思ったのだがな」

「それはお生憎様」

「それとも、君はすでにその方法を突き止めたとでもいうのか」

「さあ、どうでしょう? でも、一つ言えることは、それは私たちの役目ではないということかしら」

 エルマが和やかに笑う。

「まったく、君は変わらないな」

 オレフはそう言うと、踵を返した。

「お帰りかしら?」

「君も研究以外の長話は好きじゃないだろう……一つだけ忠告しておく。機械仕掛けとはいえ“神”の“声”を聞こうなんて神官の真似事は止めておけ。そのうち、罰が下るかもしれんぞ」

「……あなたはいつから“機神”の信者になったのかしら?」

「ならんさ。だが狂信者というのはどこで監視しているか分からないと言っただけだ……じゃあな。気が向いたらこっちに来るといい。君なら大歓迎だ」

「せっかくのお誘いだけど、あなたの下にいると妹よりも窮屈そうだから、お断りいたしますわ」

「君をこき使おうなんて無駄なことは考えていないさ。君の才能をもっと活かせる場を提供したいだけだ……マリエルくんにもよろしくな」

 オレフは右手を挙げると、そのまま立ち去っていく。その先に馬が止めてあるが、一人で来たのだろうか。

 ここに来た目的がいまいち読めないが、現場を見られた以上は場所を変えた方が良さそうだ。

 エルマは写真機を回収する。

(さすがね。一目でこれの仕掛けを見抜くなんて)

 この写真機には“盗聴機”が組み込んである。魔力の信号を捉え、記録するためのものだ。 

 目的はオレフの指摘通り、“機神”からの信号を捉えるためだ。

 頻繁に起きる古代兵器や“被験体”の覚醒、それに呼応するように活動を始めた“機竜”の動き──それらが関連するならば、それをできるのは自律機械を支配する“機神”の力以外には考えられない。それを確かめるため、エルマは“盗聴機”を置いているのだ。

 “機神”が“機竜”などを操るためには、必ず信号の形で命令を与えるはずだ。魔力を排除する“聖域”の障害を考慮すれば、一瞬の間に強力な信号を出すはずだろう。そのための魔力を本来は持ち合わせないはずだが、基底状態に移行途中の不安定な現状なら、再生のための力を流用して放つこともできないわけではない。

 信号を捉えて解析することができれば、今後の対処もしやすくなる。そして、“機神”を制御できるらしいフィルディング一族の関与も確かなものにできるのだ。

 エルマは遠のくかつての学友の姿を見つめた。

(オレフ。あなたが本当に“機神”を滅ぼす方法を見つけたのなら……うちの方法と違っていることを願うわ)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ