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(57)桜色の…【ふせん】

高校二年生同士。同じ学校、同じクラス。身長差アリ(約三十センチ)。自分の身長にちょっぴりコンプレックスを感じている女子と。そんな女子が可愛くてたまらない、バスケ部の次期部長男子。


*男子はツンデレののちに溺愛モードにシフトチェンジします。

 ツンデレって難しい……



「おはよー」

「おはよ。ねぇ、昨日のドラマ、見た?」

「誰かー、絆創膏、持ってないか?」

「俺、持ってるぞ。一枚やるから、古文の課題を見せろよ」

 

 とある公立高校のとあるクラス。朝はなにかとにぎやかだ。

 そんなクラスメイトたちに朝の挨拶をしながら、私、望月もちづき珠希たまきは自分の席に着いた。

 すると、途端に目の前に人が立つ。

 首が痛くなるくらいの角度で見上げれば、案の定、クラスで一番背が高い八重口やえぐち幹久みきひさ君だった。

 一週間前の七月十日に十七歳になったばかりだというのに、私の成長期はほぼ終わりに近いらしい。高校一年の身体検査で百五十五センチの身長を記録して以来、七ミリほどの成長を遂げただけである。

 それに引き換え、目の前にいる八重口君は高校入学してからグングンと背を伸ばし、高校二年の身体検査では、百八十四センチだったとか。

 しかも、彼の成長期はまだ終わってないようで、先日、百八十六センチを超えたという話を友達としていたのを耳に挟んだ。

 羨ましい。せめて五センチでもいいから、その身長を分けてもらえないだろうか。

 それにしても、首が痛くなってきた。

 私は通学バッグから勉強道具を取り出す振りをして、視線を下げる。

 すると、途端に不機嫌な声が降ってきた。

「俺を無視するとは、いい度胸だな」

「無視した訳じゃないよ。教科書を机の中にしまわないといけないし、それに、八重口君を見上げていると、首が痛くなっちゃって」

 手を止めることなく答えれば、八重口君がその場にすっとしゃがみ込む。

「そうだな。望月って、ちっちゃいもんな」

 私の机の端に手を掛け、下から覗き込むように私を見上げてきた。

 その表情がニヤニヤというか、意地悪く見えて、ムウッと私の唇が尖る。

「いつも言ってるけど、特別ちっちゃいわけじゃないもん。八重口君が大きいだけだよ」

 こっちは身長のことを気にしているのに、それをサラッと突っ込んでくるなんて酷い。


 だけど、彼のことは嫌いになれない。


 バスケ部の次期部長として期待されている彼は、背が高い上に引き締まった筋肉が付いていて、すごくかっこいい。

 部活の規則で髪はかなり短めだけど、きりっとした目元を引き立てているその髪型は似合っている。変に気取って髪を伸ばしている男子よりも、何倍も素敵だと思う。

 そんな彼を好きになってしまったのは、高校一年の時だ。

 夏休み前、友達に無理やり連れていかれたバスケ部の応援で、試合中の彼を見て好きになってしまった。

 ひたすらにボールを追いかけ、懸命に走り、シュートが決まった瞬間の誇らしげなガッツポーズ姿に、目を奪われてしまったのだ。

 それ以来、密かに片想いを続けていた。

 告白するなんてとんでもない。一年の時はクラスが違ったから、きっと八重口君は私のことを知らないはず。

 私にはこれといった特技もなく、目立った容姿もしていない。そんな私のことを、彼が知っているはずもない。

 自分から声をかける勇気もなく、遠くからこっそり応援することが精いっぱいだった。

 ところが、高校二年で同じクラスになったのだ。

 嬉しかった。本当に嬉しかった。

 だからといって告白する勇気が湧いてくることもなく、私は単なるクラスメイトというポジション。

 いや、ちょっと違うかな。

 彼のからかい相手と言うべきかもしれない。


 初めて二年の教室に足を踏み入れた時、八重口君と同じクラスなんだと心の中で喜びを噛みしめていた。

 バスケをしている彼しか知らないから、普段の彼がどんな感じなのか、すごく気になっていた。

 緊張しながら彼の登場を待っていると、友達数人とクラスに入ってきた八重口君は、グルッと教室を見回した後、私が座る席にやってきたのだ。

 なんだろうかとドキドキして見上げていれば、彼がニヤッと笑う。

「ああ、そうだ。この子だ。バスケの試合に応援に来てる、ちっちゃい子って」

「え?」

 いきなりのことに固まっていると、彼が腰を大きく折り曲げ、私の顔を覗き込んだ。

「背が高い女子の間に挟まれたちっちゃい女の子がいるなって、いつも気になっていたんだよ。うわぁ、ほんとちっちゃいなぁ」

 アハハと声を上げて笑った八重口君は、大きな手でバフバフと私の頭を叩く。

 いつも一緒にいる友達の千夏ちなつ智世ともよは、百七十センチ近いスレンダー美人。なので、この二人の間に挟まれると、自分の背の低さがより目立ってしまうのだ。

 それについては今まで気にしてこなかったけれど、こうして八重口君に改めて言われると、ズンと気持ちが沈んでしまった。

 なにも言えずに黙っていると、彼の友達の一人がバチンと八重口君の頭を叩いた。

「お前は、自分がデカいからって、人のことをちっちゃい、ちっちゃいって言うなよ」

「だって、本当にちっちゃいんだもん。俺の妹、今、中三だけど、たぶん、妹よりちっちゃいぞ」

「ああ、もう、八重口、黙れ。ごめんね、望月さん」

 彼の頭を叩き、去年、同じクラスだった男子が謝ってくる。

 私は微妙な笑顔を作って、首を横に振った。

「なに、紳士ぶってるんだよ。むかつく」

 八重口君の言葉には取り合わず、

「はいはい、分かった、分かった」

 そう言いながら、その男子が八重口君を引っ張っていってしまった。


 その日以来、八重口君は私のことを「ちっちゃい」と言って、からかってくるようになったのだ。三ヶ月経った今でも、相変わらず。

 それを見ていた周りのクラスメイトが、「もしかして、嫌がらせをされてるの?」と度々心配してきたけれど。

「八重口君と比べたら大抵の人はちっちゃいから、気にしてないよ」

と、笑って返した。

 彼からしたら、ただのからかい相手かもしれないが、私からすれば、八重口君と接することができる貴重な時間だから。

 ただ、ほんのちょっとだけ気分が沈んでしまう。

 しょちゅうからかってくるのは、私のことを恋愛対象として見ていないからだろう。

 バスケが上手で、背が高くて顔もかっこいい八重口君の周りには、彼の身長に見合う美人で可愛い女子がたくさんいるから……。

 うっかり零してしまったため息を振り払い、私はバッグの中から小さなポーチを取り出した。

 お気に入りのアイテムを詰め込んだポーチを開けると、自然に気分が上がってくる。

 私は、ポーチの中から桜の花を象った付箋を手に取る。

 色も形もお気に入りの付箋。いつ使おうかと考えるだけで、ワクワクする。実際には、もったいなくて使えないだろうが。


 お気に入りアイテムに癒されて一日を過ごし、あっという間に放課後になった。

 どの部活にも入っていないので図書室にでも寄ろうかと席を立った時、十五時半までに社会科資料室に来るようにと言われていたことを思い出した。

 教室前方の壁にかけられた時計は、十五時二十五分を指している。

「うわぁ、急がなくちゃ」

 私はポーチを机の上に置いたまま、慌てて駆け出した。


 無事に社会科の先生の用事を済ませて戻ってくると、みんなは部活に向かったのか、帰ったのか、教室は静まり返っていた。

「じゃ、私も帰ろうかな」

 そう呟いて足を踏み入れた途端、私の机のところに八重口君が立っているのが見える。

 背の高い彼が体を小さくして、なにやら作業をしていた。

「八重口君?」

 恐る恐る声をかけると、ギクリとした表情で彼が振り返った。

 驚かせてごめんねと謝ろうとしたのだが、彼が手にしている物を見て、今度はこちらが固まった。

 八重口君の左手には、私が特に気に入っている付箋が握られていたのだ。しかも、右手にはボールペン。

 持ち主の私より先に、お気に入りの付箋を使われてしまった。

 さすがに、これはひどいと思う。ちっちゃいと言ってからかってくるより、何倍もひどいと思う。

「勝手に使わないで!」

 慌てて駆け寄り、付箋を取り戻そうと手を伸ばした。

 ところが、彼はヒョイっと身をかわし、さらには、私が届かない位置まで付箋を持つ手をあげてしまった。

「八重口君、返して!」

 遥か頭上の付箋を取り戻そうと、精いっぱい手を伸ばしてピョンピョンと飛び跳ねる。

 すると、「うるさい」と言い返されてしまった。

「人の持ち物を勝手に使っておいて、うるさいってなんなの?もう、返してよ!」

「ったく、返せばいいんだろ!」

 ぶっきらぼうに言い放った八重口君は、剥がした付箋を私の机にベタッと貼り付ける。

「ああ!私、まだ使ってないのに……。え?」

 こげ茶色の木製机の上に貼られた桜色の付箋を見て、私は息を呑んだ。

 男子らしい少し雑な字体で書かれていたのは、『望月が好きだ』という言葉。

 目を真ん丸に見開いて見上げた先には、付箋と同じ薄紅色に顔を染めた八重口君が立っていた。

「なに、これ……」

 唖然とした表情で八重口君を見上げると、彼は真っ赤な顔のまま、真っ直ぐに私を見つめている。

「もうちょっとかっこよく告白したかったのに。望月、戻ってくるのが早すぎだよ」

「え?告白?」

「お前が机に貼られたこのメモを見てびっくりしている所を、後ろから抱き締めて……、とか考えていたのによ」

 どういうことか、さっぱり分からない。

「あ、あの、どういう意味?分かるように説明して」

「どうもこうもない、お前が好きだってこと」

 言われたところで、パニック状態の私の頭では何が何だか。

「う、嘘、そんな……」

 思わず言葉を零すと、八重口君が一歩前に出た。

「嘘じゃない。望月珠希さん、俺と付き合ってください。お願いします」

 今の彼の顔は、試合中と同じくらい、真剣そのものだった。




◆オマケ◆

 終わりにする予定だったのですが、続きがいきなり降臨しましたので……。

 お付き合いいただけますと嬉しいです。


◆◇◆◇◆




 告白を終えた瞬間から彼の態度はすっかり変わってしまい、私をからかう言動はすっかり見ることがなくなった。

 その代わりに、やたらと蕩けた表情で、甘いセリフを口にするようになってしまった。


「珠希はいつ見ても可愛いね」

「傍にいると、癒されるなぁ」

「大好きだよ」


 それはもう、別人かと思えるほど。

 しかも、いつでもどこでも私と手を繋ぎ、可能な限り常に隣にいるようになった。

 いったい、これまでの態度はなんだったのだろうか。

 そんな疑問を、彼に投げかけた。

 ちなみに今は告白された翌日の昼休みで、ほとんど人が来ない裏庭のベンチに彼と並んで座っている。オマケに私の左半身と、八重口君の右半身がピッタリとくっついている状態。

「えっと、さ。昨日までの八重口君と、なんか違うよね?あんなに、わたしのことをからかっていたのに」

 すると、彼がフワッと優しく笑った。

「そうでもしてないと、珠希に触りたいのを我慢できなかったからな。お前が好きすぎて、今すぐ抱きしめたいとか、キスしたいとか、そんなことばっかり考えていたからさ」

 私の顔が、ブワッと赤くなる。

 まさかそんなことだったとは……。

 あまりの恥ずかしさに俯いていると、隣から嬉しそうな声が聞こえてきた。

「でも、もう我慢しなくていいんだよなぁ。ああ、幸せ」

 そう呟いた彼が手を伸ばしてきて私の背中と膝裏に腕を回すと、グイッと勢いよく引き上げる。

 気が付いた時には、私は彼の膝の上に乗せられていた。

「え?え?」

「すげぇ、ビックリした顔してる。ああ、もう、珠希ってホント可愛いよなぁ。ずっとこうしていたいなぁ」

 ギュウッと音が聞こえてきそうなほど強く抱き締めてくると、彼は私の頭に頬ずりをする。

「好きだよ、珠希」

 甘い甘い囁きとともに、八重口君が私のつむじにキスを落とした。

 

 私の顔がさらに赤くなったのは、言うまでもない。




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