(55)赤い光が示すもの【レーザーポインター】
同じ会社、同じ部署。同期で二十七歳。身長差アリ。とても仲が良いものの、友達同士という関係から一歩抜け出せない状態の二人。
優しく穏やかな印象の長身男性社員と、艶やかな黒髪を持つ小柄な女性社員。
ここはとある商社の大会議室。
明日は役職付きの社員が一堂に会する定例会議があるので、二人の社員がその準備に当たっていた。
一人はごくわずかに波打つ茶色の癖毛を緩やかに後ろに流し、優しい印象を与える目元を持った男性社員。百八十センチに届きそうな長身で、すらりと手足が長く、スタイルがいい。
その彼とは対照的に、艶やかで真っ直ぐな黒髪の持ち主である女性。肩下で切り揃えられた髪が時折サラリと揺れている。小振りで形のいい唇がとても愛らしい彼女は、男性社員よりも頭一つ半小さかった。
見た目が真逆な二人ではあるけれど、同じ部署に配属されて以来、なにかと気が合うことも多かった。
そんな二人はホワイトボードやマーカーを用意したり、プロジェクターの映り具合を確認したりなど、忙しなく動いている。
そのうち、会議室前方で細かい備品のチェックをしていた男性社員が、ある物を手に取ってしみじみと呟いた。
「今は便利なものがあるよなぁ」
その言葉に、女性社員が興味を示す。
「んー、なになに?」
三メートルほど離れた場所で資料を揃えていた彼女は、手の動きは止めることなく、顔だけを彼に向けた。
「これだよ。レーザーポインターのこと」
男性がスイッチを押す。
するとポインターの先端から赤い光が細く放射され、離れたところにある壁を一点だけ赤く染めた。
「ああ、そうだね。私が中学生の頃は、引っ張ると伸びる銀色の棒だったよ」
「うん、俺もそれはよく目にしてた」
二人は同期で、同じ二十七歳。住んでいた地域は違えども世代が全く同じであるため、子供時分の話や流行り物の話は、共通点が多いのである。
「あの銀の棒って長さが十分じゃないから、見る角度によってはボードの字に先生の体が被さって見えないんだよな。これならボードから離れても、赤い光が当たるし」
そう言って、彼がポインターをグルグルと回す。
適当に動く赤い光に、女子社員がフッと表情を和ませた。
「なんか、子供の頃を思い出すなぁ」
「ん?」
首を傾げる男性社員に、彼女が小さな微笑を向ける。
「ほら、手に持つ花火で遊ばなかった?文字を書いたり、簡単な絵を書いたり。残光でそう見えるじゃない」
話を聞いて、男性社員もニコッと笑う。
「ああ、やった、やった」
「でしょ?それを思い出して、懐かしいなぁって思ったのよ」
書類を揃える作業の手を止め、女性社員がしみじみと呟いた。
「離れたところに立つ友達と、お互いになにを書いたのか当てっこして遊んだわ。意外と難しくて、なかなか当てられなかったのよねぇ」
当時を思い出す彼女の顔が、普段よりも幾分、幼く見えた。
そんな女性社員に、男性が「じゃあ、これは?」と声をかける。
「俺がなにを書いたのか、当ててみろよ」
男性社員が手元を動かして、ポインターの光を動かす。
すると、赤い光で浮かび上がってきたのは、ちょっと歪んでいたものの、たしかにハートマークだった。
「え?あの、今のは……?」
戸惑っているように見える女子社員の顔は、うっすらと赤く染まっている。
同じように、男性社員の顔も赤い。
「俺の気持ち、見えたか?」
「……うん、見えたよ」
二人の顔は、さらに赤く染まったのだった。




