↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
51/73

(51)事件は会議室で起きている【ホワイトボード】

同じ会社、同じ部署。仲良し同期。ノリがいいけれど、ここぞという時は真剣オーラ出しまくりの男性社員と。ぎこちなるくらいなら片想いのままでいいと、恋愛成就を諦めている女性社員。


*タイトルがアレっぽいですが、某警察署は無関係です。


小久保こくぼ、そろそろ行こうか」

 同期の筑摩ちくま君に声をかけられたところで、私のデスクに置かれている内線電話が鳴った。

「先に行ってるぞ」

「うん」

 短く返事をして、私は急いで電話に出た。


 庶務課の新入社員である私と筑摩君は、会議が行われる部屋の準備と後片付けを任されている。

 他愛のない仕事でも、彼とだったら楽しい作業だ。

 研修で顔を合わせてからなにかと話が盛り上がり、好きな映画や本の趣味も合う。入社から三か月経った今ではすっかり仲良しさんで、筑摩君はちょっと気になる存在である。


 ……すみません、嘘をきました。ちょっとではなく、ものすごく気になっています。だって、彼のことが好きだから。 


 仲の良い同期という関係は強みであるが、反対に弱みでもあった。気持ちを伝えたところで受け入れてもらえなかったら、非常に気まずいではないか。

 同じ会社の同じ部署。仕事をする上で、顔を合わせない訳にはいかないのだから。

 それもあって、告白したくても出来なかった。




 彼より五分ほど遅れて会議室に到着。

 中に入ると、既にパイプ椅子が半分以上片付けられていた。

「小久保はホワイトボードを綺麗にしておいて」

 作業の手を止め、筑摩君が指示を出す。

「うん、分かった」

 私は大きく頷いて、傍に置いてあったクリーナーを手に取る。

 書かれてから時間が経った文字は、ちょっと落ちにくい。丁寧に消していると、「裏面も忘れるなよ」と声がかかった。

「はいはーい」

 いつもの調子で答えれば、「こら~、『はい』は一回だろうが~」と、彼が課長のものまねで注意してきた。 

 あまりに似ていたので、思わず吹き出す。

「そっくりだねぇ!今度、飲み会でみんなに見せてあげなよ!」

「そのつもりで~、猛練習してんだよ~」

「あははっ。ホント、よく似てる」

 片想いはちょっぴり切ないけれど、こういったやり取りが出来なくなってしまう方が切ない。

 私は湿った気分を吹き飛ばすように大きく息を吐くと、ホワイトボードの上辺に手をかけた。

 このホワイトボードは左右辺の真ん中に留め具があり、正面と裏面が回転するタイプ。

「よいしょ」

 力を入れてクルリと回転させれば、目の前に現れた裏面には衝撃的な文字が書かれていた。


『小久保が好きだよ   筑摩』


――な、なに、これ……。


 クリーナーを握り締めて固まっていると、いつの間にか椅子を片付け終えた彼が、後ろから私を抱き締めてきた。

「それで、返事は?」

 さっきまでのお道化た口調ではなく、真剣な声の筑摩君。

「へ、返事って……?」

 目の前の文字に釘付けになっている私を強く抱きしめ、筑摩君が耳元で囁いてくる。

「俺のことが好きだとか、誰よりも愛してるとか、喜んでお付き合いしますとか、そういうのだよ」

 まるで既に私の気持ちを知っているような口ぶりだ。いや、『ような』ではなく、知っているのだ。

「な……んで……?」

 色々な意味での衝撃で、喉がカラカラに乾いている。これまでの人生の中で最大級の事件に、その一言を絞り出すのがやっとだった。

 すると筑摩君は、髪から覗く私の耳にソッと唇を押し当ててくる。

 柔らかな感触にピクリと肩を震わせれば、「ほら、早く聞かせろよ」と、促してきた。


――そ、そんなの、無理だよぉ……。


 自分の気持ちが知られていたという恥ずかしさと、なにより、彼が私を好きだったという事実を消化しきれない状況では、倒れないように踏ん張るだけで精いっぱいなのだ。

 いつまで経っても何も言わない私に、筑摩君が再び耳元で囁いてくる。

「じゃあ、俺の言葉に頷くだけでいい。それならできるだろ?」

 私は少しためらった後、ぎこちなく頷いた。

 彼が小さく息を吸い込み、ゆっくりと告げてくる。

「俺の気持ちは分かってくれたか?」

 信じられないという思いはあるものの、筑摩くんはこんな冗談を言うような人じゃないから。

 コクン、と首を縦に動かした。

 すると、背後の彼がホッとしたように息を漏らす。それから、真剣だけど優しくて甘い声で囁いてきた。

「俺と付き合ってくれ。傍にいてほしいんだ、頼む」

 

 私は自分の心臓がドキドキとうるさく鳴っている音を聞きながら、ゆっくり、それでもはっきりと頷いたのだった。


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。