第三話
絵理奈が泣いている。
真っ暗な世界で、一人ぼっちで。
俺は絵理奈に近寄ろうと足を進める。
だが、絵理奈は俺をしきりに拒むのだ。
「近寄らないで!」と小さく嗚咽をもらしながらもハッキリと言うのだ。
「俺が悪かったんだ…!
お願いだから話を聞いてくれ…!」
それでも嫌だ嫌だとしきりに俺を拒む。
真っ暗な世界。
二人ぼっちな世界。
やがて絵理奈は「もう行かなくちゃならないの、さようなら。」と言い、遠くなる。
俺は走りながら手を伸ばす。
「絵理奈…!行かないでくれ!絵理奈‼︎
俺はお前を愛して……」
そして言い終わらずにいなくなってしまう。
ジリリリリリ……。
いつもここで目を覚ます。
事故から二ヶ月が経った頃から、毎日見る夢だ。
絵理奈はまだ目を覚まさない。
病院に入院させる為には、当たり前だが俺がお金を工面しなければならない。
植物状態の絵理奈にはいつまで入院すれば治る、などという補償がなかった。
それに保険金だけでは賄いきれなかった。
俺は今日も仕事にでる。
絵理奈が目覚めたら結婚したい。
結婚の資金もついでに貯めておきたい。
そんな気持ちもあったのだ。
だが、どんなに頑張って働いたところで、絵理奈はなかなか目覚めなかった。