第二話
どれだけの月日が経っただろうか。
いや、実際にはまだ三週間くらいだろう。
もう、と言うべきか。
彼女はまだ眠ったままだった。
絵理奈は遷延性意識障害だった。重度の昏睡状態で、簡単に言うなら植物状態だった。
親は早くに亡くしていて身内のいない絵理奈にとって、俺が一番親族に近かった。
実際、付き合ってもう五年も経つし、お互いに良い歳だから結婚も意識していた。
今月の給料日で指輪を買い、結婚を申し込むつもりだったのに……。
なのに……俺は何をしているんだ……。
俺は毎日病院に通った。
仕事もなるべく早く切り上げ、出来る限り病院にいられる時間を作った。
そして絵理奈が好きだった本を読んであげたり、今日あった出来事を話したりしていた。
それでも絵理奈の返事はない。
「絵理奈……今、何考えてるんだ……?
俺にはお前だけなんだよ……。
帰ってきてくれ……頼む……。」
俺は泣いていた。
泣くことは久しぶりだったが、自然と声をあげて泣いていた。
絵理奈はいつ意識を戻すのだろう……。
もしかしてもう……ずっとこのままの姿で、このまま意識が戻らなくて……。
場合によっては……いや……考えたくもない……。
俺は……絵理奈を幸せにしてあげられないのか……?
ギュッと握り締めた絵理奈の手が、俺の汗で湿っていた。
絵理奈はまだ、無表情のまま眠っている。
あの事故から、もう一ヶ月。
絵理奈はまだ目覚めない……。