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作者: 三井崎瑞希

 君は昨日も自分の家で眠っただろう。学校だったのか、仕事だったのか、それは分からない。もしかすると家で一日ごろごろしていただけかもしれない。一日の疲れを取る為の睡眠かもしれないし、ただ習慣だからとベッドに入るかもしれない。布団かもしれないけれどそんな事はどうでも良い。今日君は真夜中──真っ暗闇の中目を覚ます。部屋は暗く、目を開けたまま暫く君は思案する。もう一度眠ろうか、それとも起きてしまおうか。携帯電話で時間を確認してみると、丁度午前二時を回ったところだ。起きるには早すぎる。まだ眠れる。そう考えた君は目を閉じて、再び眠る体勢に入る。

 目を閉じ、微睡み始めた君の耳は、静寂の中微かな物音を感じ取るだろう。部屋の中、自分以外に誰もいない部屋の中で、誰かが床を踏みしめるパキリという音が、筋肉が駆動する音が。君は音の正体を確認する為に目を開く。先程思案していた際に暗闇に慣れた君の目は、再び暗闇と、そこに浮かぶ天井──見慣れた天井を映し出す。

 再び音がする。それは少し近付いていて、君は何かの気配という形の無いものを感じ取る。君が身体を起こしてその方向を見つめると、音は止まる。気配は変わらずそこにある。君は手探りで電灯を点けるだろう。眩しい光が君の視界を塗り潰し、明順応によって部屋の中は見えるようになる。そこには何も無い。おおよそ音を発生させるような物も、先まで確かに感じていた気配すらも消え去っている。君は何度か部屋の中を確認し、確かに何も無い事を知る。気配は無い。

 しかし、君はその部屋で再び眠りに入る事に耐えられない。君はこの部屋で確かに感じたあの気配の異質さを思い出す。ドロドロでグチャグチャな汚さを。微かに感じた鉄臭い匂い。背筋に金属の棒でも差し込まれたかのような不快感。君は眠る事を諦め、日の出まで起きている事に決める。部屋を出てリビングに座り、テレビを点ける。深夜らしくまともな番組は無い。一瞬微睡んだ事によって君の眠気は増長されていた。このままだと眠ってしまう。君は録画していた映画を見ようとレコーダーを起動する。映画のタイトルは「鏡」だ。録った覚えも、記憶も無い、聞いた事も無い映画だ。君は何故だかそれに興味を惹かれて、再生する事にする。

 しかし、流石に眠気が酷くなってきた。このままだと、間違いなく眠ってしまうだろう。家の中にあの異様な気配を発する何かがある以上、君は眠りたくないのだ。顔を洗う事にする。洗面台で蛇口を捻り、冷たい流水を溜めて顔にかける。意識が冴え渡り、視界がクリアに澄む。顔を上げて、顔をタオルで拭くと、目の前に鏡がある。普段通りの、可も不可も無い君の顔。君自身は汚らしいと思っているかもしれない。君が右腕を上げると、虚構の君も右腕を上げる。左手で顔を叩くと、虚像も自らの頬を叩く。

 そして、君は映画を再生する。やがて瞼が重くなり、意識は重く、沈んでゆくだろう。君が次に目を覚ました時、映画の内容どころか部屋で感じたあの気配すらも忘れてしまった、君はいつも通りに自分の部屋で目を覚ます。

 どこか違和感を感じつつも、君は日常に戻るのだろう。隠された何かを思い出す事も無く、異質な何かに引き裂かれるまで。

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