廃屋
時が経つのは早いもので、小学校に入学した息子が夏休みに入った。
図書室通いが日課の息子は「妖怪レストラン」などのオカルト児童文学を読み漁っている。だが、怖い話をすると半泣きでビビる。怖い話が好きなのか嫌いなのか、まったく意味が分からない。
そんな息子だが、たまに「見えて」いるんじゃないかと思う。
息子が産まれた三か月後に妻のお婆ちゃん、息子にとっての曾お婆ちゃんが亡くなった。
義理の祖母が亡くなった日の後くらいから、息子は壁に向かって唸ったり、手を伸ばして笑うようになった。まあ、乳幼児にはよくある行動だろう。
乳幼児なら。
***
俺の自宅の近辺は空襲で焼け残った地域と聞く。フランク・ロイド・ライトが設計した建物が残っているくらいだ。
古い建物は曰くがあるモノも多い。巣鴨刑務所の跡地とか、帝銀事件の跡地とか。どれも近所だが、いまいち縁起が良く無い建物が多い。
息子が小学校に上がる直前、晩冬の夕暮れ時だった。
電灯が灯ったが、まだ夕日が沈み切らない時間帯、俺は息子と一緒に家の近所を歩いていた。
ボロッボロの二階建てのアパートの前を通りかかった。通路は雑草に埋もれ、外付けの階段は腐食して崩れかけている。とうの昔に死んだ建物、そんな印象だ。
突然、手を繋いでいた息子が歩みを止めて、廃アパートの二階を指さした。
「おとうさん。にかいから、だれかがこっちみてる」