表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

ダッシュボード

 さて、俺の「変なモンが見えてしまう」体質は理解はしてもらえただろうか。

 そして、その「変なモン」を目にするのは、大概は道端だ。寺とか墓地みたいな、如何にもな場所では「見た」覚えが無い。極めて普通の場所で「見て」しまう。


 例えばな、郵便ポストの上に「手首」が乗っているんだ。

 あれ、軍手かな? なんだ、手首か……ってな感じでな。


 話がちょっと変わるけど、道端に何故か靴が落ちている事、あるだろ? ボロい紳士靴が多いな。あれは不思議だね。履いていた人は、一体どうしたんだろう。


 さて、和んだところで始めようか。


 さっきも言ったけど、俺が「見て」しまうのは道端だ。前触れも脈絡もなく人体の「一部分」が見えるんだ。だが、どういう事だか「頭部」ってのはあまり見たことが無い。その物ズバリ過ぎて見えないようにしてくれてんのかな、親切などっかの誰かが。

 でも、まったく見た事が無い、ってワケでもないんだ。


***


 十年以上も前の話だが、六月だったのだけは覚えている。長雨が続いていたからだ。

 病気だか何だか知らないが、友人の彼女が亡くなった。だが、俺はその子に会ったことも話したことも無かったので、葬式に出る義理も無かった。

 亡くなった女の子は、十代の後半だった。可哀そうだな、くらいは思ったが、限りなく他人だから特に感傷は湧かなかった。

 薄情だと思うか? これを読んでいる貴方が女性ならば、そう思うかも知れない。でも、男同士ってのは、友人の彼女にはそんなに興味は無い。余程の美人なら話は別だが。

 

 喪が明ける、と言う意味も良く分かっていない年頃だったが、ビニ傘を差して友人の住むマンションに向かった。お悔み、と言えば大袈裟だが友人に一声くらいは掛けておきたい。

 友人のマンションは、俺のアパート以上マンション未満の建物に比べても立派だった。亡くなった彼女と同棲していたのも理由の一つだが、一番の理由は駐車場だ。

 友人の車は映画に出てくるようなアメリカ車だ。車高が低くて無駄にデカい。値段は高いが燃費が悪い。ようするに趣味の車だ。そして目立つ。

 俺は、その派手なアメ車を横目にエントランスに向かった。


 雨足が強くなる。水たまりが繋がって川のようになり始めた。

 

 俺は目が良い。雨に(けぶ)る駐車場でも、アメ車の助手席に誰かが乗っているのが見えた。髪の短い女だ。

 おいおい、早くも次の女か? と、呆れながらも、俺の「なんかヤバい」センサーが働き始めた。

 女はこちらを見ている。その青白い顔には微笑みすら浮かんで見える。だが、何かがおかしい。

 バックミラーにぶら下げたドリームキャッチャーが確認出来るくらいに近づいて、気が付いた。

 こちらを向いた顔の位置が、首の角度が不自然過ぎる。そして、俺は見たんだ。


 ダッシュボードの上に乗った、微笑む女の生首を。



***



「いきなり雨が強くなってきたね」


 友人は俺を部屋に迎え入れながらハンドタオルを手渡してくれた。部屋の中に漂う微かな線香の匂い。

 

「別に位牌があるわけじゃないんだけどね。彼女の写真にさ、線香くらいあげてんだ」


 窓際のサイドボードの上には、白いフレームに納められた写真。そして小さな線香立て。


「線香の一本くらいあげてくれよ。ほら、結構可愛い子だったんだぜ」


 写真立ての中で微笑むショートカットの女の顔は――――


 初めて見る顔では無かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ