白いワンピース
短すぎて「夏のホラー2013」の文字数の規定に入らないヤツを、ここに書こうと思う。
俺は霊感とか信じないタイプだ。だから俺は「私、霊感あるんです」って言うヤツを信じていない。
何故なら、あんなモンが見えてたら、怖くて「見える」なんて言えるはずが無いからだ。
正直に言おう。笑うなよ。俺はどうやらチョットだけ見えるらしい。でも、俺が見るのは人間の一部分だけだ。意味が分からないか?
俺が「見える」のは人間のパーツ、例えば「腕」だけ。それは時に「手」だけだったり、「足首」だけだったりもする。
だから大して怖くはない。ギョッとするだけだ。だが、「それ」を見た場所は大概、過去に何かがあった場所なんだ。
一つ話をしよう。
あれは今から……そうだな、息子が四歳の頃か。
俺の自宅の近所には、都内にしては広めの公園がある。お役御免になった電車車両が展示されているような公園だ。そして、その公園には鬱蒼とした木立がある。
風の強い日だった。時刻は五時前だったか。やんちゃ盛りの息子と追いかけっこをしていた時だ。
びゅうっ、と強い風が吹いた。
木の葉がざざざーっと葉音を上げる。
そろそろ帰るか。そう思って、ふと顔を上げると、木々の間に「何か」がぶら下がっているのを見てしまった。
うをっ!? っと一歩退き、もう一度目を凝らしてみたが、そこにはもう、何も見えなかった。
「……おい、帰るぞ」
俺は「これは何かまずい」と思い、息子に声を掛けた。
すると、普段は「まだ帰りたくない」とゴネまくる息子が、その時ばかりは何故だかすんなりと従った。
そして、その夜だ。
「なあ、あの電車のある公園。あそこってさぁ、前に何かあった?」
地元民である妻に、公園で見たモノについて訊いてみた。
「あんた、なに見た?」
江戸ッ子の妻は、べらんめえ口調で俺の質問に答えた。蓮っ葉な口調だが、眉を寄せたその顔は真剣だ。
「……白いワンピースの女がぶら下がってた」
もっと具体的に説明出来たのだが、何とも気まずい気がして、俺は手で縄を表現して首に巻くマネをしてみせた。
「その話、誰かから聞いたの?」
首を横に振った俺を見て、妻は短い昔話を始めた。
妻が小学生だった頃、失恋だか受験の失敗だかで、十代の女性が例の公園で首を吊ったらしい。その時、女性の着ていたのが――――白いワンピース。
それ以来、公園の木に首を括った白いワンピースの女が出るそうだ。
「あぁ、やっぱりあんた、見える人だね」
妻の言葉に、俺は溜め息を吐くしかなかった。
いらないよ、そんなチャンネル。
続いたり、続かなかったり……。