第8話
今回は短いです。
「あっ…」
智浩くんの机の上に広げられた教科書、丁度おめめがキラキラな坂本良馬のページだ…。でも見れば見るほど力作だと思うのは、一種の親バカなのかな。
私が教科書を見ているのに気付いたのか、
「あぁ、これ?恵って意外と面白い事やるんだなぁって思って見てたんだ」
とニヤリと笑う智浩くん。ちょっとーっ、いきなり呼び捨て!?
「…智浩くんこそ意外だよ。落書きなんてしなさそうなのに…」
「無愛想で有名だし?」
まさか智浩くん本人の口からその言葉がてでくるとは思わず、私は勢いよく顔をあげてしまった。
…智浩くんは苦笑していた。
「みんなが俺の事無愛想っていってるのは知ってるよ」
「……」
「幸と違って俺は社交性がないし、口数が少ない方だからよく誤解されるんだ」
でもこの前もそうだけど、いつも不機嫌そうだし…。常に眉間に皺を寄せてそうだもん。
「ほとんど無意識のうちに皺を寄せてるみたいなんだよ」
「でも今はそんな顔してないよね?」
この前と違って今日は無愛想さとかがない。
「それは恵と二人でいるからだよ。顔見知りの少人数なら割りと平気らしい」
智浩くんの表情が今までで一番柔らかくなった。幸くんとはまた違ってるけど、とっても優しい笑顔…。
「あっ…、ごめん勝手に呼び捨てにした…」
「いいよ。クラスの男の子とかみんな私のこと“めぐ”とかいうから」
好きに呼んでいいよそういおうとしたら、下校を知らせる放送が入った。早くしないと昇降口が閉められてしまう。二人で顔を見合わせ笑うと、下校の準備をする。
智浩くんが呼び出したのかはわからないまま、私達は学校をあとにした。
教室を出る直前、
「…知り合って間もない女の子を、呼び捨てで呼ぶってなんだか特別な感じだな」
そういった智浩くんの顔はちょっと赤くて、家に帰っても忘れられなくなってしまった。