第3話
“無愛想な?間宮くん”の面白可笑しい落書き教科書を見ていたら、いつの間にか私も落書きをしていた。人の物だとわかっていたけど、更に眉毛の濃い西郷隆盛とか、ハゲじゃないザビエルとか私の悪戯心を擽るには充分だった。
『力作!キラキラおめめの坂本良馬!!』
間宮くんの物なのに力作を生み出してしまった私。幕末の英雄は乙女チックな顔で教科書に収まっている。そうしているうちに、授業は進み終了10分前になると、今度はその教科書を返しに行かないといけない事実に気がづく。
『間宮くんがすぐに見付かればいいけど…』
私の中ではすっかり無愛想な間宮くん像は消え去っていた。むしろ助けてくれたときの、好青年なイメージの方が勝っている。
休憩は10分しかない。間宮くんの教えをきちんと覚えていた私は、ワックスされた部分は避けて彼のクラスへと急ぐ。
間宮くんのクラス、7組の入口に来た私はさっき教科書を借りるはずだった友達に声をかけられた。
「あれ?恵じゃん。どうかした?」
「あっ、いいタイミング!間宮くん呼んでくれる?」
「間宮くんを?」
「さっきあんたに教科書を借りようとして走って来たら、ワックスに滑っちゃって。時間がなくなってどうしようって思ってたら、間宮くんが貸してくれたの」
「えっ?」
「だから、間宮くん呼んでくれるかな?」
私は教科書を友達に見せながら、一気に説明した。しかし友達は驚いた顔で私を見る。
「ねぇ…本当に間宮くんに借りたの?」
なんて疑うから、私は持っていた教科書の名前を見せた。
何でそんな反応してるんだろ?
「本当…“間宮智浩”って間宮くんだ」
おかしいなと首を傾げながら、友達は教室に入っていった。
私はなんとなくその姿を目で追う。
「間宮くん?さっき2組の子に教科書貸した?」
そんな声が聞こえてくるが、友達が影になって丁度間宮くんが隠れて姿が見えない。入り口にいるとこの組の子の邪魔になるため、廊下の窓際に移動した。
『間宮くんまだかなぁ〜?』
外では体育のクラスがグランドに線を引き、授業の準備をしていた。早くしないと次の授業が始まってしまう。
「……あの」
『次は現国かぁ…。今日は気候もいいし、お昼寝決定だね』
「…もしもし」
誰かに呼ばれた気がして、私は声が聞こえる方へ向く。そこには確かに男の子がいた。
私は女の子にしては背は高い方だけど、相手は見上げないと顔が見えないくらい大きかった。
「はい?何か用ですか?」
間宮くんは私よりちょっと大きい位だったし、何より髪の毛はもっと長めだった。目の前の人はというと長身に黒髪の短髪で、文系を思わす間宮くんとは反対に体育会系な感じ。
あれ?友達は間宮くん呼んでくれなかったのかな?
「…用っていうか、今長谷川に呼ばれたんだけど」
あっ、長谷川って友達の苗字ね。あの子が呼んだって………
「私は“間宮くん”を呼んでもらったんだけど…」
男の子はちょっとムッとした顔をした。…というか、何か怒ってる??
「俺が“間宮智浩”だけど…」