第25話
普段賑わいを見せる公園の朝は人気はなく、風によって音を立てているブランコが何故か悲しく見える。
いつもは感じない寂しさに、私は何だか嫌な予感がしてならなかった。
相変わらず会話は無いままで、私達はとりあえずベンチに腰を下ろした。そういえば、幸くんと2人きりになるのもすごく久しぶりな気がする。
「2人でこうするの、久しぶりだね」
幸くんも同じ事を考えていたみたいで、ちょっと嬉しい。
「そうだね、最近は4人でいるのがほとんどだったもんね…」
雰囲気にいたたまれなくなって私は足を前に伸ばし、手で爪先を触ろうと上半身を倒した。2人きりになるのが久しぶりと感じるのも元はといえば私のせいだし、今だって確かに幸くんに辛い思いをさせてるはずだ。
ただ私には今の関係を崩す勇気がない。━━━ただの欲張りだ。
「俺さ、めぐと付き合えて良かったと思ってる」
そんな幸くんの発言に、私は思わず気構えてしまう。
「智も入ってきて今はなんか変な関係だけど、ゆかりちゃんみたいな友達も出来たし」
その話題を振られても、私には今“幸くんか智浩くんどちらかとつきあうか”なんて返事をすることが出来ない。
「2人でいるのももちろん楽しかったけど、4人でいる時も楽しかったのも本当」
「……」
「めぐとはもっと一緒にいたかったけど…」
「………?」
それにしても幸くんの発言がおかしい。私に返事を求めて結論を求めた訳でもないみたいだし、どこか諦めたような…そんな感じがする。
「…あっ、ごめん今のはただの独り言」
「……幸くん、どうかした?」
「何でもないよ、ただそう思っただけ」
そんなことをいう幸くんの表情を見ようとするけど、朝日が逆光になってて見ることが出来ない。
すると幸くんは立ち上がり、一歩前へ出ると私の方へ振り向いた。
「じゃあね!」
一言言い残し幸くんは公園を出ていった。私はその背中を見る事しか出来ず、いつも目を覚ます時間までベンチに座っていた。
朝が早いと自然と学校に行く準備も早くなり、いつもに比べて早くに登校した。今朝の幸くんの発言は謎だったけど、また聞けばいいかと安易に考えていた。
時間が経つにつれ、ざわめきだす教室。私は前の席に座っているクラスメイトと話していた。隣のゆかりはまだ来ていない。
「あっ、そういえばめぐ。今日学校に来たの早いけど、見送りはいいの?」
クラスメイトが話を振ってきた。
「…見送り?誰の?」
「間宮兄弟のよ」
幸くんと智浩くんの見送り?私にはどういうことかわからない。
「恵〜っ!」
首を傾げていたら、ゆかりが登校してきた。走って来たらしく、肩で息をしている。
「ゆかり、おはよう」
「呑気に挨拶してる場合じゃないよ!幸くん達、今日転校するんだって」
今朝の幸くんの様子といい、私の早起きといい、なんかあるなとは思ってたけど……。
「ちょっと待って、それ本当?」
「えっ、あんた知らなかったの?」
「そんな嘘つくわけないでしょ?」
2人の表情からみて、どうやら嘘ではないみたい。
「なんかお父さんの都合で、いきなりの転校なんだって!もうこっちには戻ってこないみたいだよ」
気がつくと私は走り出していた。教室を飛び出す瞬間後ろのほうで、
「あと30分後に出る電車に乗るって!!」
というゆかりの声がしたから行き先は駅。始業のチャイムが鳴ったような気がするけど、そんなのは構ってられない。
無我夢中で走った。
今朝の話は彼なりの別れの挨拶だったのだろうか?先日帰りのHRが遅かったのも、クラスメイトに別れを告げてたのだろう…。
何で気がつかなかったんだろうと走りながら後悔しても遅い。今ただ出発に間に合う事だけを願っていた。
「はぁ…はぁ…」
汗だくになりながら駅のホームへ着いた。周りをキョロキョロ見回すけど、2人らしき姿は見えない。
「…もしかしてもう行っちゃったのかな」
私はまだ2人にきちんとけじめをつけてないのに、このままお別れなんて嫌だ。
なのに無情にも発車を告げるアナウンスが鳴り、電車のドアが閉まった。
そしてゆっくりと走り出す電車、私はただ立ち尽くし見ている事しか出来ない。
するとポッケに入れてた携帯が震えた、メールが来ていた。
『from 間宮幸浩
最後の車両の一番後ろのドア』
とっさに車両を見ると偶然にも最後の車両が通過している時で、窓際に立っている2人が見えた。
私は思わず追いかけようとするが走り出す電車にかなうわけもなく、2人の表情を見ることしかできない。
2人はニヤリと笑い携帯を指さすと手を振った。
電車は勢いを増しあっというまにいってしまった。
携帯を確認すると、メールが2件来ていた。
『from 間宮幸浩
また今度会おうね。また会うときに、返事を聞かせて』
1件目は幸くんだ。さりげなく返事の約束をされてしまった。
幸くんのメールの次には登録されていないアドレスからのメールも入っていた。
『from ???
じゃあな』
無愛想というか、何にも飾らない言葉…間違いない、智浩くんだ。
初めてのメールが一言なんて智浩くんらしいというか、せめて何か言葉をいれようと思わなかったのか?
だけどかえってその方がよかったかもしれない。
寂しさが半減された気がするから…。
『次に会うときは必ず、返事をするから!絶対に会いに来てね!』
2人にメールを送った。
すぐに返信されたメール。
『『もちろん、アイツより先に会いに行く』』
まったく同じ内容に、私は笑ってしまう。
私は伸びをすると、また駆け足で学校に戻っていった。
あれから何度目かの春、私は高校を卒業して大学生になろうとしていた。
相変わらずゆかりとは仲良くやってて、大学の学部まで一緒。
今日は晴天だしいい風も吹いていて気持ちがいい。
大学の桜の木の下で花弁の隙間から覗く空を仰いでいると、
誰かが傍にきた。
誰が来たのか雰囲着でわかる、彼だ。
「久しぶり」
やっと会うことができた。
私はずっと心の中で暖めてきた言葉を口にした。
ここまで読んで下さりありがとうございました!無愛想な彼、これで終わりです。
なんだかひねりない終わりでしたが、最後はどちらと結ばれてもいいようになってます。ここだけの話、最後の最後まで幸浩か智浩どちらとくっつこうか迷った挙句の結末がこれです(汗)最後があっけなさ過ぎてしまったのは、私の力不足ですね…。
でもとりあえず一作書き終えることができましたので、次作はもっといい話がかけからと思います。
『無愛想な彼』読んで下さった皆様、楽しみにして下さった皆様、感想を下さった皆様ありがとうございました!
感想なといただけると嬉しいです。また次回作でお会いしましょう☆