第21話
「━━━━━━ください━━━します」
遠くから声が聞こえる。
「繰り返します。朝比恵さん、至急生徒指導室まで来てください」
はい、私が朝比恵です…。まだ結婚もしてませんから、どうあがいても朝比さんちの恵ちゃんです。昔からおっちょこちょいですが、親に心配はかけたことがありません。
「だから生徒指導室に呼ばれる覚えはありません!!」
寝ぼけるのはいい加減にして、生徒指導室に呼び出される放送で目が覚めた。どうやら校庭でお昼寝をしていたらしい。
頭の上にいたお日様も西に傾きそろそろお月様が顔を出そうとしている頃だった。
今なら誰にも会うことはなく、校舎に行けるだろう。指導室に呼ばれる覚えはないけど、呼び出されちゃ無視するわけにはいかない。そうと決まると私は立ち上がり、スカートについた葉っぱを払うと昇降口へと向かった。
「なんかしたかなぁ…私。授業サボったのだって今日が初めてだし」
ところ変わってここは生徒指導室前。来てみたはいいものの、今日の事を除けば指導される覚えはまったくない。
でも授業をサボる生徒はたまにいるし、だいたい一回サボった位で呼び出してたら指導の先生も大変だ。
「まいっか。怒られるならさっさと怒られちゃおう」
私は何にも疑いもせずに、生徒指導室の扉を開けた。
中はカーテンが閉めきられてて真っ暗だった。
「せ…先生?朝比恵来ましたけど…」
一応声をかけてみたけど、返事はない。恐る恐る中へと足を進める。
教室の真ん中まで来ただろうか?
━━━ガチャン
扉に鍵がかかる音がした。私は音に驚き後ろを振り向いた。
同時に電気がつく。暗かった為に目はすぐには慣れず、そばに人がいるのも気づかなかった。
めぐの呼び出しが入る5分前、俺達は相変わらず教室にいた。
「そういえば恵を呼び出すのはいいけど、理由はどうするの?」
というゆかりちゃんの発言に、俺も智も一気に勢いを失った。
「そうだよな…」
「理由がなきゃ放送すらできないよな…」
いいアイディアが浮かんだと思ったのに、また壁にぶち当たってしまった。
三人で悩んでいると、放送を知らせるチャイムが鳴った。何だろう?
「呼び出しします朝比恵さん、至急生徒指導室まで来てください。繰り返します━━」
「「その手があった!」」
初めから嘘つきゃよかったんだよ!適当に理由つけて呼び出せば簡単だったのに。この時間なら生徒指導のじじいも帰っていないだろうし、指導室に呼び出すには絶好のチャンスじゃん。
「あれ?じゃあ誰が恵を呼び出したの?」
そのセリフにはっとした。確かにそうだ、誰が呼び出したのだろうか?さっきもいったように生徒指導のじじいはもう帰ってるはずだ。俺らの他に嘘つかってめぐを呼び出す奴といえば…。
━━━バタンッ!
もの凄い音と共に開いたドア、走っていく智。めぐを呼び出した奴がわかったのだろうか?
「もしかして、幸浩くんか智浩くんのファンの子たちかな…?」
ゆかりちゃんの言葉にヒヤリとする。
俺達兄弟を慕ってくてる女の子達の集団がいるのは知ってる。
でもなんで彼女達がめぐを呼び出す必要があるのだろうか?
「幸くんにはわかんないかもしれないけど、女の子ってそういう生き物なの」
ゆかりちゃんは苦笑した。
「モテる男の子と親しかったり好かれてると、ヒガミをかっちゃったりね…。周りからみれば中途半端な気持ちでいるめぐが悪いんだろうけど、そのヒガミの矛先は男の子よりもその対象となる女の子に向けられることが多いんだよ」
…怖いな、女の子。
だったらめぐの身が危ないのではないか?
「智浩くんはすぐに感づいたんだね」
ゆかりちゃんのセリフには“はっ”とさせられることが多い。
めぐを呼び出した奴が誰かわかり、すぐ走っていった智。
だからあぁやってめぐのところに行ったんだろう。
それなのに俺はそんなことに気付かずボケっとしていた。
なんとなく智の気持ちに負けてしまった気がしてしまった。