第20話
学校がこんなに嫌に感じるなんて思ったことなかった。
好きだった幸くんの笑顔も、智浩くんの声も顔も何も見たくない。
親に心配はかけないようにとりあえず学校には来た。でも教室には入らずただ校庭の人目につかないところで、ぼ〜っとしてるだけ。
何も考えずに寝転がって流れる雲見たり、鳥が飛んでいく先を予想したり。
遠くからは体育をしてるクラスのはしゃぎ声、抜き打ちテストがある事が発表されたのか
「え〜っ」
というブーイングの声が聞こえる。
いつもは自分もいるはずの場面が遠くに聞こえ、なんだか仲間外れにされたような気分。
「これからどうしよう…」
いくら現実逃避したところで、問題は解決してくれない。まして自分自身のなかの問題なら尚更。
「“好きだった智浩くん”と“好きになれそうな幸くん”か…」
智浩くんの告白を聞いて揺らいでしまった私の心はまだ幸くんの存在だけではないってわけで、智浩くんの事がまだ好きだという可能性だってある。
私は幸くんと付き合ってて、でも完全に幸くんだけが好きだという自信もないことに気が付いてしまった。
「〜〜〜っ、誰か私を埋めて〜っ」
自分の優柔不断さというかいい加減さに嫌気がする。
ポッケに入ってる携帯が震えた。見なくても誰かはわかるが、一応確認する。
━━━━━━━━━━━メール受信
from 間宮 幸浩
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本日何回目かのメール。心配してくれてるんだろう。でもなんかメールも見たくなくて、本文を読まずに携帯をしまった。
「…私、最低」
「やっぱり反応なしだ…」
携帯を閉じた。何回かメールを送ってみるけど、めぐからの反応はない。
時は放課後。めぐとゆかりちゃんの教室に俺、ゆかりちゃん、そして今回のめぐの異変の元凶、智浩がいる。
昼休みにゆかりちゃんから話を聞いたあと、智浩に聞いてみりゃ案の定吐いた。
『俺は恵が好きだ、お前には関係ないだろ』
『…はぁ?』
『別にお前らの仲を壊そうとかじゃないから』
いけしゃあしゃあといってくれるから、普段温厚な俺もさすがにキレた。
『…っふざけるなっ!!お前が今更になってそんな事いうから、めぐが困るんだろ』
あまりにも声が大きかったのか、クラス中が俺達を見ていた。
なんかムカついたから睨んでやったら、ヤバいと思ったのか目をそらした。
『好きとかいってるけどだいたいお前、めぐの事ふったんだろ?』
これはめぐ本人からはっきり聞いた。
『好きな人がいるけど、付き合うのはあり得ない』
っていわれたって。
ここでこんな言い合いしてもしょうがないから、放課後逃げようとする智の耳をとっ捕まえて引っ張って来てやった。
凄い形相で智の耳を引っ張って歩いてくる俺の姿をみて、ゆかりちゃんは笑ってた。
智の耳は赤くなっている。ざま〜みろ。
「キミが智浩くんだね?」
ゆかりちゃんは面白いものを見るかのように、智をみる。
痛さなのかゆかりちゃんが初対面だからなのか、奴の顔は無愛想さMAXだった。しかしゆかりちゃんは動じることなく、
「さっすが、噂通りの無愛想っぷりだねぇ〜」
といってのけた。
━━この子……大物だ。
「…で、なんで俺はここに連れてこられた訳?」
耳を引っ張って来たのを根に持ったのか、睨みながら俺にいってきた。謝ってやんないけどね。
「お前はめぐを探す責任がある」
「はぁ?」
「お前の自分勝手な発言が招いたことだろ」
「あっ、やっぱり智浩がなんだ」
ゆかりちゃんも感づいてたのか…。それともめぐ本人から聞いたのだろうか…。
「あっ、私が勝手にそうじゃないかなって思ってただけだからね」
女の子ってすごく鋭いんだな…。
「でもさ…幸くんも感づいてたんだよね、智浩くんの気持ち」
「そうだよ、だって双子だし好みは一緒だからね」
智と恋のライバルなんて嫌すぎるから、あえて気付いてないふりをしてた。
「でもまさか付き合うチャンスをくれたのが、智だったなんてな…」
きっかけをくれたのが智だと思うと、はぁ…っとため息がでた。
「…で、その恵をどうやって探すんだよ」
「電話もメールも効果なしだし…」
そうなんだよなぁ…、こっちからいくらメールしても反応がないし…。そんなに広くはないとはいえ、校内を探すのもちょっとなぁ…。
「だいたい、恵がどこにいるかもわかんないんだろ?」
「…まぁな」
「電話もメールも駄目、居場所もわからない。なら呼び出せばいいだろ」
「「呼び出す?」」
ゆかりちゃんと俺、智の発言により初ハモり。見事に言うタイミングが合った。
「でも、携帯からじゃあの子でないんだよ?」
「校内放送で呼び出すしか……」
…………ん?
「あっ!!その手があるよ」
「「校内放送で、呼び出す!!」」
本日ハモり二度目。ゆかりちゃんもピンときたらしい。
智はニヤリと笑った。やっぱりコイツ意外と賢いというか…。
「でもどういう理由で呼び出すの?」
智はゆかりちゃんに慣れたのか、無愛想どころか悪戯大好きな小僧の笑みを浮かべていた。呼び出す理由は秘密らしい。
「お前、最近初対面の人に免疫できたよな」
「別に俺は無愛想ではないけど?」
……さすが俺の兄貴。