第18話
放課後一人教室にいた。
外は大雨、私は居残りで宿題をやっている。
夕べ宿題をやるのを忘れ、運悪く教科担任は機嫌がすこぶる悪かったらしく宿題を提出するまで帰るなといってきた。
「大雨だし、傘ないし丁度いっか」
と思っていたら、宿題難しいし雨が止む気配は全くなし。それどころか遠くの方で雷が鳴っている。
「悪化する前に早くやろ…」
生憎幸くんは用事があるとかで、先に帰っちゃった。私は再びノートと睨めっこする。
睨めっこ開始から15分、苦手な分野の宿題ほどやる気がわかないものはない。並んだ文字もただの記号の集まりに見えてくる。
「あぁーっもうわかんない」
全く進まない宿題、私は逃げ出そうかと本気で考えていると…
ゴロゴロゴロ…
雷がまたなった。外を見れば、バケツをひっくり返したような大雨。
「あ〜あ…」
宿題をやる気も家に帰る気力もなくなった。
取りあえずやる気のなくなった宿題のノートはしまい(明日ゆかりにでも見せてもらう)、窓枠に肘をついて灰色というより黒に近い空をみた。
さすがに運動部も部活はやっていない。
「当たり前か…」
そういえばこうして運動場を見るのも久しぶりかもしれない。前は当たり前だったけど、今は全然見ないし見る機会もない。
こうしてるとやっぱり思い出してしまう、あの人の事。
幸くんには一回、好きだった人の事を聞かれたことがある。兄弟な訳だし鋭い所あるから、誰の事かは気付いていたと思う。だから幸くんは、それを知っていて中庭に連れだしてくれたのだろうか…。
「相変わらず…」
声がした。振り向かなくてもわかる。あの日以来聞きたくて聞きたくなかった、でも聞けなかったあの人の声。感傷に浸っていたせいで、幻聴が聞こえたのかな?
「聞き間違いとか思ってるなら、そのまま聞いて欲しい」
初めてあった時のような、低めの声。しばらく姿も見ていない。
できれば当たってほしくないし、当たっていてほしい。
だから私は振り向かずに、外を見たまま耳に全神経を集中させた。
「幸と付き合ってるのは聞いた。この前ので、決心したんだな」
「………」
「自分からいっておいて今更だけど、できればあいつと付き合って欲しくなかった…」
言葉も出ない。
「恵が幸せになれば…って思っていったけどやっぱり、例え幸とでも他の奴と仲良くしてる姿は見たくない」
その言葉…前の私と同じ気持ち、幸くんと付き合う前に聞きたかった。
今はただ心を苦しめる言葉でしかない。
「卑怯なのはわかってる。俺は恵が好きだから。ただそれだけを伝えたかったんだ」
智浩くんは最後にそれだけいうと、教室を出ていった。
「…本当卑怯だよ」
やっと気持ちが落ちついて心と向き合って、幸くんの事智浩くんより好きになれると思ったのに…。
それまで凄くすごく時間が必要だったんだよ。
なのに智浩くんの一言で、簡単に決心が揺らいじゃう。
声を聞けただけでもこんなに切ないのに、告白なんて聞いたらどうにかなってしまいそう。
幸くんがいるのに…、私が
「智浩くんが好き」
って知っていても付き合ってくれる幸くんがいるのに…。
「………っ」
あの時のような大粒の涙が、教室の床を濡らした。
なぜ涙を流したのか、その意味はわからなかった。