第16話
私は幸くんと付き合いだした。ゆかりは驚いてたけど、『よかったね』といってくれた。
心の中ではずっと
「幸くん」
と呼んでたけど、本人の前でもそう呼ぶようになり幸くんも
「めぐ」
と呼ぶようになった。初めはくすぐったかったこの呼び方にも慣れて…。
昼休みのあの習慣もなくなった。お昼は幸くんは決まって中庭で食べようって誘ってくれたから、運動場を見れなかったし私も見たくなかった。
幸くんと付き合ってるに、何故か兄である智浩くんと会うことはなかった。
「恵〜、幸浩くん来たよ〜」
クラスメイトが私を呼ぶ。こうして幸くんは教室まで迎えに来てくれて、用事がない日は一緒に帰る。
「はいは〜い、今行く〜」
ゆかりとの話を切り上げ、私は慌てて鞄に荷物をつめた。幸くんを待たせちゃ悪いしね。
「……そういえばね、智浩くん最近口数が更に減ったんだって」
「…あとは宿題のノートと…」
「なんかあったのかな?」
ゆかりの話は聞こえないふりをした。
ゆかりはたまにこうやって智浩くん情報をいってくる。
「じゃ、また明日ね」
「……また明日」
私は鞄を持ち、手を振って教室を出ていく。
「…恵、それでいいの?」
「幸くん、お待たせ」
「ゆかりちゃん、何かいいたそうな顔してるけどいいの?」
「いいのいいの。さっ、行こっ」
私達は並んで昇降口へ行く。他愛もない話をして手を繋いだりして、知り合った頃にはあり得なかった事が起きてる。
「…それでねゆかりが…」
いつものようにその日にあった面白い事を話していたら、幸くんは昇降口のちょっと手前にある階段のあたりで止まった。
「幸くん?」
目線の先は階段の踊り場、私達より上にいる男子生徒。
「智、どうしたんだよ」
智浩くんがいた。聞こえないフリして聞いたさっきのゆかりの話通り、無愛想というか不機嫌オーラが全開。ちょっと怖い。
「睨んでたってわかんないだろ?」
さすが兄弟、怖じけずに不満をいう。まあ、幸くんのいうことは正論だけど。
「別に」
智浩くんは他に何もいうことなく、また階段をのぼっていった。なんだったんだろう?
「なんだ、あいつ」
幸くんも謎みたい。会話も特に無くて私はかえってよかったけど。
「さっ、帰ろうか」
靴を履き替え昇降口を出て、幸くんと正門に向かって歩いていく姿を智浩くんが校舎から見ていたことも知らず、私は学校を後にした。