第12話
「はぁはぁ……」
肩で息をするほど全力で走ったみたい。屋上に慌てて来たものの、幸くんにバレバレだろう。
『好き』とハッキリしてたならまだよかったんだろうけど、生憎今の段階では『好意を持ってる』くらいしか思ってなくて、正直次に会うのが複雑な気分。
「なんで逃げたんだ、自分…」
自分のアホさに呆れる。好意を抱いてることがバレたうえに、走って逃げるという失礼な行動は複雑な気分に拍車をかけた。
「あっ…お昼ご飯食べなきゃ…」
どんなに失敗をしても腹は減る。早く制服を返さなきゃと思ってたから、ご飯は食べてない。ご飯のことを思い出したらぐぅ〜っと音が鳴った。
『腹が減っては戦はできぬ』じゃないけど、取りあえずお腹を満たしてから考えよう。
ドアを開け校舎に入ろうとすると…、
「ちょっと待って、開けてて」
沢山の荷物で両手が塞がれた男の子が、階段を登ってきた。今から屋上でお昼食べて、みんなで遊ぶのかな?
私は男の子が屋上に出るまでドアを開けたまま待った。
「ありがとう、助かったよ」
そういってはにかんで笑った顔が、この前みた智浩くんの笑顔に似ていた。
教室に戻るとクラスのほとんどがご飯を食べ終え、友達と話したり遊んだり本を読んだりしていた。隣のゆかりはというと、
「あんたは男子生徒かよ」
ツッコミたくなる様な格好で寝ていた。
席につきお弁当を広げる。唐揚げにポテトサラダ、今日のメニューは私の好きなものばかりだ。
「…ん〜…もう食べれない…」
匂いに反応して、マヌケな寝言をいう私の友達。なんか一気に疲れちゃった…。
お腹も一杯になり、弁当箱を片付ける。いつもご飯の後はゆかりとお喋りだから、今日はやることがない。
少し考え私の席は窓側だから、外を眺めることにした。
運動場ではサッカーをしている男の子達、木の木陰でお喋りしている女の子、今登校してきたらしき眠そうな生徒と色々な人達がいる。
パッと見何十人といるのに、なんでわかってしまうんだろう。
「あそこでサッカーしてるの、間宮兄だよね」
ゆかりが欠伸しながらいった。
「あんた起きてたの?」
「隣で何回もため息をつかれたら、起きちゃうよ」
「そう…」
そんなにため息ついてたんだ?
サッカーをしている集団の中に確かに智浩くんがいる。周りは知り合いばかりなのか、時には笑顔を時には悔しそうな顔を見せながら楽しそうにサッカーをしていた。
「………知ってる?間宮兄って男の子達といるとあんな表情を見せるから、昼休みにわざわざ運動場に出て見にくる女の子いるんだって」
だから木陰に女の子達がいるのか…。よく見ると智浩くんの方をみて、何やら言っている。
…『知り合いにしか見せない笑顔』は簡単に他の女の子達にも見せてるじゃん。
「智浩くんも人気者なんだね…」
私はなんだか面白くない。
『知り合って間もない女の子を呼び捨て呼ぶって、特別な感じだな』
といった智浩くん、
『知り合いの少人数しか』
といっていたのに、しっかり大人数に見られてるよ。
『特別な感じ』がするなら、私にだけ特別にして欲しかった。
知り合って間もないのに、なんだかヤキモチやいてるみたい。
「おっ、なんか自覚したな♪」
ゆかりの意味深なセリフ。
でもまだ幸くんの事もあり、気持ちには決着はつかない。
………つけるのが何となく嫌だった。