湖面
僕はよく夢をみる。内容はは泣き崩れる母と感情の読めない父の背中。・・・そして、二人の姿を黙って見ている僕。
ラーフラはある小国の王子として産まれた。
父は産まれたときにはもういなかった。ラーフラは父無し子として育てられた。家臣たちはみな、父のことになると口をつぐむ。
祖父、浄飯王は父のことを聞くと激昂する。母は泣きながら、父の思い出を語る。
家庭が複雑な子供が大抵そうであるように、ラーフラも大人の顔色を窺う子供に成長した。
ラーフラにとって父は母が話す物語の登場人物に過ぎなかった。
何故、父は国を捨てたのか?何故、母を捨てたのか?何故、自分を捨てたのか?
そもそも、何故、出ていくことが決まっていたなら、僕を作った?
「ラーフラさまって、浄飯王さまと血筋が繋がっていないって本当?」
ある日、聞こえてきた侍女たちの噂話。
「だって、ラーフラさまのお父上はそれは綺麗な顔立ちだったけれども、ラーフラさまのお顔は・・・、ねぇ?」
僕はその場から逃げ出した。
城の中央に湖がある。
そこに顔を写す。
侍女の言うことはあながち間違いではない。
そこに「ある」顔は目は細く釣り上がり、異様に太い眉・・・。
お世辞にも整っているとは言い難い顔だ。
「くそっ!」
湖面が揺れ、僕の顔も散り散りになった。