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冥界  作者: 尾花となみ
EpisodeⅥ 冥界の子守唄
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Lullaby Ⅰ

連載再開。今度こそ時間を空けずに進めたいです。宜しくお願いします。

 ウェノスと言う港町の端、海が見渡せる崖の上に一人の少女が座っている。断崖絶壁の上でも恐怖を感じていないのか、端に座り足を浮かべプラプラと振っている。


 少女の名前はサラ。今年で十四才になる。

 物心ついた時からこの町に祖母と二人住んでいた。

 祖母が言うには幼い頃両親を事故で亡くし、祖母のいるこの町で暮らし始めたらしい。


 サラは正直両親の事はまったく覚えていなかった。自分の中での一番古い記憶は、祖母からこれから一緒に暮らすんだよ、と話しかけられているものだ。それ以前の両親、自分が住んでいた所そう言った事は覚えていない。


 だが、そんな自分の事とは違ってしっかりと記憶していることがある。

 自分が体験したものなのか、ただの夢で現実とは違うのか、よくわからないがそれでもずっと心に残っている人がいる。


 黒い瞳に黒い髪。黒い服に黒いマント。何から何まで黒くて、ちょっと怖そう。でもすごく綺麗で格好いい王子様。私の、心の騎士。

 囚われている私をいつか救いに来てくれる素敵な人。いつか、絶対に迎えに来てくれる。


 夢か、現実か……。それでもきっとあの人はいつか自分を迎えに来てくれるとサラは信じていた。



 ◆ ◆ ◆



 薄暗い城の中、ユリは姿見の前に座り込んでいる。いつものように後ろの椅子にはカリストが座っている。

 アリアが眠りについてからもう一年が過ぎていた。姿見を見続けて、探しても探しても見つからない。


 だが当然かもしれない。アリアを見つけたのは器だったからこその偶然だ。姿形がリキア・ルリアにそっくりだったから目に留まったのだ。

 だが他の所を受け継いだであろう相手はルリア達の様な姿はしていないのだ。ならば見るだけでは絶対にわからない。

 今まで同じ様に探して来たがそれではきっといけないのだ。


 ユリは姿見を見つめながら探すのを中断して思考する。

 リキアは魔石の姿をしていない。ならば自分がこうして姿見の前に座って見ていても無駄な気がする。


 アリアを見つけた時、その姿に衝撃を受けたがそれ以外のものは感じなかった。

 そして出会った時もなんとなく息苦しさを感じたもののこれと言った明確な違いはわからなかった。


 そしてそれはカリストとルリアも同じ様だ。二人とも似ているとは思ったが別人だと言い切っている。

 そして……自分に対しても同じ態度だった。

 そう考えるとこの探し方ではまったく意味のない事にやっと最近気づき出したのだ。


 自分とは違ってもっと色々の事がわかっている二人が何も言わない事にユリは不思議に思っていた。

 今、この行為は無駄だと二人は絶対にわかっているはずなのに、なぜ二人は何も言わないのだろう……。


 ユリは仕事中なのも忘れ、フッと後ろを振り向いた。するとカリストと目が合う。

 ユリが振り向いたが為の視線の移動はなかった。という事は最初からずっとカリストの視線は姿見ではなくユリだったのだろう。


 そう気づくとユリは疑問の答えを理解した。

 私の為……。

 ユリは唇をかみ締め、カリストから目を逸らし俯く。


 姿見の映像が消えて、カリストがユリの所へ近づく気配がした。

「……どうした? ユリ」優しい、すごく優しい声で語りかけてくる。

 ユリは体に一層力を込め、小さくなって謝った。


「ごめんなさい……」

 フッと笑う声が漏れ、ユリの頭に手が載せられる。

「何がだ? 今日は調子が悪いか?」やっぱりすごく優しい声でカリストは言うと、ユリのずいぶんと伸びた黒髪を撫で付ける。


「……私……私……」ユリはどうにか気持ちを伝えようと言葉を探すが、うまく出てこない。

 自分の事を思ってくれている二人は、自分の事をどう思っているのだろう。


 自分がアリアと同じ立場だと気づかされても、その認識はあいまいだ。アリアはしっかりとリキアの記憶があるようだが、自分にはまったくない。

 自分がリキアの何かを受け継いでいるとしても……他人事の様に思ってしまう。確かに少し自分とは違った想いを感じる事はあるが、それはアリアの時に感じたような激しさはなく、心の奥底でくすぶっている。


「どこかに……出かけるか」カリストは急にそう言うとユリを抱きしめた。

 黒いマントにユリを包み込み転移する。


 飛んだ場所は海だった。だが以前連れて行って貰った様な砂浜ではなく、高台の上。

 水平線の向こうまで、三百六十度全てが海を見渡せる。


「……すごい……」カリストの腕の中から周りを見渡し感嘆の声が漏れる。

 海を見ると切なくなる。胸がきゅうっと締め付けられる。


 ユリ本人は海に対して特別な思い入れがあるわけではないので、きっとこれはリキアの気持ち。

 そう思うと余計に苦しくなる。自分の想いとリキアの想い。自分が感じているけど、自分のものじゃない気持ち。

 海は好きだけど、嫌いになりそうだ。


「……来てくれた。本当に来てくれた」海を見ながら思考の海に沈んでいたユリは、小さな少女の声が聞こえてそちらを振り返った。

 するとそこには十四歳ぐらいの少女が黒い瞳をキラキラさせながら立っていた。そしてその視線の先にはカリストがいる。


「待ってた。待ってたの! 私の……黒い騎士……」そう言ってカリストを凝視していた少女はカリストに飛びつくように抱きついた。

「私の、黒い騎士……」幸せそうにカリストに抱きつく少女と固まったまま微動足りしないカリスト。ユリはその二人の様子から目が離せなかった。


 アリアを見つけたのは偶然。ここに来たのも偶然。でも偶然ではない必然性をユリは感じずにはいられなかった。


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