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冥界  作者: 尾花となみ
EpisodeⅤ 冥界の間奏曲
20/21

Intermezzo Ⅶ―A Trio Scene②―

三人のとあるシーン。

少し長いです。


前話で大分明らかになったとは言え、今回かなりのネタバレを含みます。

気になる方は間奏曲(Intermezzo)全話飛ばしてください。

気にしないという方はお進みください。





「いつまでも篭るな。また体調を崩す……」

「……はい……」

『どこに行く?』

「……あの場所……に行きたいです」



 寄せては返す波に戯れるユリを眺めながらカリストは目を細める。

『……本当、たまには海も悪くないわね』

「……そうだな」


 初めてユリを外に連れて行ったとき訪れた場所だ。

 初めて外に連れ出す時はどこに行けばいいか分からず、リキアが一度は海に行きたいと言っていたのを急に思い出して連れてきたのだ。


 その時に深い意味はなかった。

 ユリの事を案じながら、リキアとの会話が思い出されて、つい海に行った。


『私は……森の方が好きなの。木々の囁きに癒されるから。でも、リキは……ずっと森に囚われていたせいか海に憧れていた……』

「ああ……」知っている。


 話でしか聞いたことのない大海原を想像し、いつも目を輝かせていた。

 純粋に喜んでいるユリを見つめながら、ついいつもの様にため息をついてしまった。


『……辛気臭い顔しないで。またユリが落ち込むわ』

「……悪い……」

『悪いと思っているなら、今はユリの為に笑ってあげて。……カリー……お願いよ。もうあの子を苦しめないで』


 分かっている。俺の態度が一番ユリを動揺させていることぐらい。

 今まで通りに過ごそうとしているルリアとユリの努力を全て無に返しているのは自分だ。


「……ルリ……俺は本当、ダメだな……」

『ふふ、何言ってるの。そんなの今更よ。でもそれがカリーのいい所でもあるんでしょう?』


『なんて顔してるのよ。私があなたを慰めたら変?』

「ああ。びっくりした」


『ふふ、なんか私吹っ切れたわ。ここに来れてよかった』

「……ルリ?」


 ルリは笑いながらユリの元へ行く。俺もなんだか慌てて後を追う。


「あ! ルリア様、カリスト様! 私海に入りたくなっちゃいました!」

「え?」『え?』


 驚く俺達を無視してユリはそのまま海に飛び込んだ。

「ユリ!」『ユリ!』


「あははは! きもちー! お二人もどうですかー」

 泳いでるんだか溺れてるんだかわからない水飛沫を立てながらユリは楽しそうだ。


『……そう、そうよ。そうやって笑っていてあげて。ユリを見て、眉を顰めてため息なんてつかないで、何も言わないでいいから笑ってあげていて』

 ルリアに言われて初めて自分が笑っていた事に気づいた。


 楽しそうなユリを見て、自然に顔が緩む。

 そうか、そうなんだ。そんな単純な事。


 本当に俺はバカだな。こんな気持ちずっと忘れていた。

 相手を想うと苦しさだけが積み重なっていった。そして辛くて……つい顔をそらしてばかりだった。


 でも違うんだ。それじゃいけなかった。もっと大事な事があったんだ。

 ユリを見つめていると愛しさが込み上げる。ユリが楽しそうにしているとそれだけで自分も嬉しくなってきた。


 いつ訪れるか分からない別れに怯えて、苦しみを感じるよりも、今一緒にいられる事を見つめるべきだった。

 その時はその時に考えればいいさ、と一種の開き直りを感じながら、それでも今一緒にいられる時間を大切にするべきなんだ。


『カリー?』驚くルリアを尻目に俺は海に飛び込んだ。

「カ、カリストさま?!」声を裏返しながらユリも叫ぶ。


 なんだかすごく楽しくなってきた。こんな気持ちは本当に久しぶりだ。

 俺は泳ぎながらユリに近づく。


「ユリ、俺は……君に逢えてよかったと本当に思ってるよ」深い言葉は伝えるべきではない。分かっているが今だけは精一杯の自分の思いを伝えたかった。

 ユリは一瞬目を見開き驚いていたが、すぐに泣きそうなそれでも嬉しそうに微笑むとうなずく。


「はい、はい。ありがとうございます。私もです、私もお二人に逢えて本当に嬉しいです。傍にいれて本当に、幸せです」そう言いながら涙を流すユリを無言で抱きしめる。

「風邪を引くといけないから、そろそろ帰ろうか」無言で頷いているユリを抱く手に力を込めながら、俺は自分の城を思い浮かべ転移した。


 また暗い城に帰ってきた。だが、そこに漂う空気が少し変わったかも知れない。

 姿見を映しリキアを探す毎日は変わらない。リキアに対する想いも変わらない。


 でも、全てを後悔するのをやめよう。少しずつでいいから過去を認めよう。

 過去があるから今がある。そして今があるから未来もある。


 出会った事の後悔を幾度となくしてきた。だがそれは違ったんだ。永き時を経て今更気がつくなんてバカらしいけど、少し成長した自分を少し許せる気がした。


「あ、あの、き、着替えてきますね」

『……置いて行くなんてひどいじゃない』二人の言葉を聞きながら笑った。


 その時はその時にまた考えればいいさ。

 とりあえず今は、二人と共に……。

 

三人のシーンと言いつつカリストの成長ですかね。

これで間奏曲(Intermezzo)は終了です。


次回から本編に戻ります。

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