King Ⅱ
「ふん。変わった力だな」男――名前をカリストと名乗った――はユリの隣に腰掛けながら、まじまじとユリを見つめている。
居心地の悪さを感じ、ユリはカリストから少し離れる。
容姿と口調と行動の合わなさにユリは困惑した。
容姿はかなり優男で、顔は整っており美形と言って間違いない。町を歩けば十人中九人の女性が振り向くだろうと思われる。正直ユリも超好みの顔だ。
口調は横柄で、どこかわざとらしい。無理に偉そうに話している感じがする。
行動が一番の違和感かも知れない。いや、一番の違和感は口調なのかも知れないが、とにかく全てが合っていない。
正確には口調だけ合っていない。優男でナンパな感じの行動なのに、口調は横柄。
これで口調が優しい感じならばしっくり来るのだが……。
「なんだ?」ユリはカリストを凝視していたため、カリストが聞いてきた。
ユリは慌てて視線を外し、小さい声で答える。
「なんでもないです。……でも……、これから私をどうするのですか?」一番の疑問。
男の事などはっきり言えば関係ない。自分の身の上が心配だ。
「そうだな。その力……興味がある」そう言ってカリストはユリを見る。
ユリの変わった力、それは魔石を探知する事が出来る能力だ。どこに魔石を隠していようと、ユリには魔石が光って見える。
服の下だろうと、建物の中であろうと、光って見える。物を透かして光る事などあるのだろうかと思うが、何故かユリには見える。
だがそれは決して透視能力などと言うものではなく、魔石限定だ。魔石がある所だけ光って見えるのだ。
色々な町へ行き、色々な人と出会ったが、自分と同じ能力を持つものはいなかった。それどころか、話すと絶対に嘘だと決め付けられ、信用してくれる人は殆どいなかった。
つまりそれほど珍しい能力のようだ。
いつしかユリは人に話すのをやめ、この能力を使って魔石を盗む仕事についてしまった。
人に仇をなす異生。それを倒した証明となる魔石は、国の機関である神殿へ持ち込むと有料で買い取ってくれる。
つまり、異生を倒したことによる報酬だ。
ユリも最初の内は盗んだ魔石を神殿に持ち込み、金に換えてもらっていたが、あまり頻繁に持ち込むと不審がられた。
良さそうな魔石を持ち込むと金額も上がるが、良さそうな魔石と言う事は力の強い異生を倒したと言う事だ。ユリにその実力がないことは神殿にすぐばれる。そうすると不審に思われるのは当然だ。
町を変え、神殿を変え、色々な所で稼ぐうちに、ユリはある闇の市場と出会ってしまった。
魔石など神殿でただ浄化してもらうだけと思っていたが、闇の市場の一人に違う使い道がある事を教えてもらった。
魔石コレクターなる金持ちがいる。どんな宝石より妖しく輝く魔石。異生の全てを凝縮したそれを素晴らしいと思う輩はいるようで、神殿の知らない闇で高く取引されていた。
闇の世界に正直躊躇いはあったが、神殿に渡す事に大分限界を感じていたため、手を染めずにはいられなかった。
いつからか得意となり、罪悪感も感じなくなっていた。
その矢先にこの事件だ。自分を恨まずにはいられない。やはり、悪い――後ろめたい――事をしていたつけが回ってきたのか……。
ユリは俯きうなだれる。
「神殿には渡さん。しばらく……そうだな俺と行動を共にしてもらう」
「は? 何言ってんの?」つい地が出る。
目を見開き驚くユリを気にした様子なくカリストは笑顔だ。
「女は勇ましい方が好みなんだ」
「いや! そんな事聞いてないわよ! じゃなくてさっきなんて言ったの……」
「だから、俺と一緒に行動してもらう」
「はぁ?! 冗談じゃないわよ! そりゃ、神殿に引き渡されるのは嫌だけど……」
「だったら、俺と来るな?」
次の言葉が出ず、ユリは口を意味なく開け閉めする。
一つ深呼吸してユリは男をにらみ付けた。
「それって脅迫?!」
「かも知れんな。どうするんだ?」
「……わかった……。神殿で捌きを受けるなんて御免だわ。絶対嫌! それで、私はあなたと一緒に行動してどうしろって言うの」
腹をくくった以上ユリは聞いた。
カリストは少し考える素振りを見せたが、すぐに袋から先程の黒い魔石を取り出し言った。
「これと、似たような魔石を探している……」