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マザーグース風・破滅ざまぁ短編集

共鳴豚に“悪意”を食べさせた結果〜研究を奪った親子が自分の音で壊れました〜

作者: 本咲 サクラ
掲載日:2026/04/17

 「トム、トム、笛吹きんちのせがれ。豚を盗んで逃げた」


 その童歌を思い出したのは、私の研究成果である「共鳴豚」が、商会長のドラ息子に奪われた時だった。

 


 私は、とある商会の研究員だ。


 食糧難を解決するために、音をエネルギーに変える新種の豚の交配に成功した。


 自然界の柔らかな音を聴かせるだけで、少量の餌でも驚くほど良質な脂を蓄える。

 美しい歌を与えれば肉質は宝石のようにまろやかになる。


 だが──

 その性質には危うい裏側があった。

 

 

 「女の雇われ研究員の分際で小難しい理屈を並べるな。この豚は今日から俺のものだ」


 踏み込んできた男は、何のためらいもなく言い放った。


 親の威光を当然のものとして振るう、商会家の息子。



 研究記録は奪われ、出荷間近の豚は強引に連れ去られる。


 私の存在は、最初からなかったことにされた。


 止める術はなかった。


 商会長である彼の父も、似たようなものだったからだ。

 外面だけは良い「ホラ吹き」の彼は、自分の成果として、女王陛下にこの豚を献上して地位を盤石にしようとしている。



 私は職を追われ、路頭に迷いかけた。


 しかし、そんな私に手を差し伸べたのは、意外にも女王陛下ご自身だった。


 女王は、商会長の「嘘」を見抜いていた。


 私は女王の密かな援助を受け、新しい研究所で、ただ静かにその時を待つことにした。



 豚は音を、溜める。


 周囲の振動を吸収し、それを細胞の奥に蓄積する。


 本来は、自然の音を溜める。


 風。

 草。

 水。


 混ざり合い、歪まない音。


 それで、肉質は整う。


 しかし、

 何を溜めるかで、中身がすべて変わる。



 奪った者は、「音を食うなら餌は一粒もいらんだろう」と、それを地下へ運ばせた。


 閉ざされた貯蔵庫。


 外の音が届かない場所。


 そこで与えられたのは、

 耳を裂く機械音と、怒鳴り声。


 地下で、豚はそれを吸い続ける。


 止めるものはない。

 共鳴豚の真実を、彼らは知らない。

 

 負の振動だけを与え続け、空腹で飢えさせればどうなるか。


 知らずに、ただ、溜まる。


 歪みが限界まで。



 運命の晩餐会。


 奪った者たちは笑っていた。


 「これぞ最高の肉だ」



 最初の一口で、顔が変わる。


 次の瞬間、崩れた。


 立てない。

 吐く。

 視界が揺れる。



 毒ではない。共鳴だ。


 自分たちが浴びせ続けた罵声と機械音の振動

 ──濃縮された歪みが、体の中で鳴る。


 同じ音が重なり、増幅する。

 止まらない。


 自分たちが生み出した音だからだ。


 自分たちの音を、そのまま受け取っただけ。

 増幅された形で。



 「おんおんないて、いっちゃった」


 商会長親子は、すべてを没収されて街を追い出された。


 真っ直ぐ歩くことすらできなくなった彼らは、壁にぶつかりながら泣き叫び、暗い路地の向こうへと消えていった。



 私は今、女王直属の研究員として、緑豊かな牧場で豚を育てている。

 

 「トム、トム、笛吹きんちのせがれ」

 古い歌を口ずさみながら、私は耳を澄ます。


 他人の手柄を盗み、都合のいい部分だけを「管理」しようとした者たちは、自らが蒔いた悪意の音に自滅した。


 ここには、彼らを壊した不快な機械音も、怒鳴り声もない。


 風が草木を揺らす音だけがある。


 混ざり、流れ、歪まない音。


 豚たちは、今日も私の歌を食べて、美しく、まろやかに育っている。

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