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■■■■という勇者

四話くらいで終わるさくっと短編の予定です。

 ──なんで、こんなことになったんだろう。


 普通に、本当にいたって普通に、高校生をしていただけなのに。

 部活動が長引いて、ちょっと帰るのが遅くなった。だから近道しようと、いつもは使ってない人気のない道を通っただけだ。


「──あ、あなたがいけないのよ! わ、私がいるのに、しらない、あんな女と一緒にいて……!」


「落ち着けよ! 冷静になれって、言ってるだろ! 一緒にいるって……そんなの偶々だ。ただの同僚なんだよ、百合は!」


「ゆり……!? へ、へぇ。何、名前で呼んでるの? ……っ、白々しいのよ!!」


「っわ、落ち着けってば!!」


 男女の、揉めている声。女性の方の怒気にまみれた声が響き渡り、男性の声は弱々しくかき消されそうになっている。


 ……喧嘩、だろうか。会話からして浮気かどうたらこうたらであろう。


「もう、信じられない。あなたなんか、あなた、なんかっ! ──しんじゃえ」


 目の前で、そんな声とともに目に飛び込んできたのは──包丁を持ち、男へと走る女だ。

 その女は、どんどん男に近づいて……次のときには、俺の目と鼻の先にいた。


「──は?」


「ぇ?」


 間抜けな男女の声が、響く。


「ご、ぽっ」


 ──それと、何かを吐き出すような音が。


 あつ、い。あつい。いたいいたいたいたい。

 何かが体からこぼれ落ちる感覚がして、それは絶対にこぼれちゃいけないって知ってて……


「ぐ、ぁ、う」


 ……ああ、そうか。──俺が刺されてるのか。


「なん、でっ!? あ、なた、誰よ!?」


「んなこと言ってる場合じゃねぇだろイカれ女! おまえ、まじで刺しやがったな……! っ、きゅ、救急車……の前に、何すりゃ……!」


「ひゅー、ひゅー……げほっ」


 間抜けな声が、響き続ける。


 ああ、くそ、なんで動いたんだ、体。放っておけば、こんなことにはなんなかったのによ。


「……じょう……ぜったいに……から……しきを……り……」


 段々と声が遠のいていく。

 さっきまでちゃんと聞こえたはずの男性の声が、薄れていく。視界に写ったのは、必死に俺の体の出血箇所を押さえる男と、驚きのあまりに放心して包丁を手放している女だ。


「……」


 あ、だめだ、これ。マジか、親より先にとかとんだ親不孝者だな。遺言の一つも言えそうにない。


 ……まあ、最後に人を庇って死ぬなら、悪くは、ない、だろ。





『──貴方の勇敢なる死に、祝福を』

 ──そんな声が、聞こえた気がした。





 ■■■■は、由緒正しき日本人の高校生である。

 由緒正しく、と言っても別に伝統のある家のでというわけでもない。大都市と呼ばれる都道府県の隣の県に住んでおり、家族四人の長男。

 中学時代での努力が実を結び、高校受験には無事に合格。そうして高校でもそこそこの成績のまま二年生へと進級。友人も多すぎず少なすぎずの、世間一般から見て満たされている高校生であった。


 ──そんな少年は、少し、優しすぎたのだ。


 困っている人を見捨てられない。挫けている人を見限れない。疲れている人を見て見ぬふりできない。そんな心優しき少年であった。

 だからこそ少年は──庇って刺されて死んだのだ。


 

『……』


 ──ここは。

 そう言おうとして、声が出ないことに今更ながらに気がついた。

 それが何か、自然と理解ができた。──俺は、死んでしまったのか。


『……』


 体が、ふわふわしている。オノマトペ的な表現ではなく、体の境目があやふやであるのだ。肉体という実体はなく、まるで魂だけのような、そんな感覚。


 周りを見渡すと、そこは白であった。ただ、白のみが存在して──そこに、一つ光が舞い降りた。美しいその光に、触れたいと、そう願う。けれどそれに触れることは叶わずに光は更に輝いて一瞬目を閉じてしまった(目という概念が今の俺にあるかは謎だが)。


「──嗚呼、若くして死の運命を辿ってしまった少年よ! 私は女神、モーナ。迷える魂を相応しき道へと送り出す存在です」


 そういったのは、恐ろしいほどに美しい女性であった。豊満な肉体、床につくほどに伸ばされた銀髪。そして人形のように完成された肉体に白い布を体をまとっている。


 ……嫌でも胸に目が行く。


「……? こほん。さて、挨拶はここまで」


『────』


(わたくし)は……いえ、私()は此度の貴方の死を大いに称します!」


 そう言うと、瞬間、背景が変わる。

 先程、目の前の女性が現れたように光が強くなり、一瞬でこの何も無い白いだけの場所が作り変えられていくような感じだ。


『!?』


 円形状の、部屋であった。中央に行くにつれて下がる構造になっており、俺はその中心──一番下へといる。


 そして、ぐるりと囲む壁には椅子と机が設置されており、目視できるだけでも数百人の人がそこにはいた。


「いいえ、私たちは人ではありません──神々、そう呼ばれる存在であります。そして、私たちから貴方への頼みはたった一つだけ。どうか、貴方には世界を救う『勇者』となっていただきたいのです!」


『──』


 ゆう、しゃ?


「はい。数ある世界のうち一つ、そこには『魔王』と呼ばれる存在が猛威を振るっております。『魔』のモノと『人』の数は釣り合っていなければならない……しかしながら、『魔王』により人は大幅に殺されてしまった……」


 本当に悲しそうに、そう言った。どこか芝居がかった抑揚の声だが、それでも本当に神様と呼ばれる存在なのだと、なぜか実感する。


「……ですから! 若い命でありながらも、それでもなお誰かを救おうとしたその心意気! その素晴らしさから、貴方にはその世界を救う『勇者』になっていただきたいのです!」


『──』


 ……なんとなく、話はわかった。あれだ、これ。……異世界転生ってやつだな! テンプレきたー! これあれだ、無双からのハーレムでハッピーエンド!


 家で読み漁っていたラノベを思い出しながら、そんな下らないことを考えるも目の前の女神は少し不思議そうな顔をしながら俺の魂? を優しく包み込む。まさしく、女神のようだ。


「どうか、世界を救ってください、■■」


『はい!』


 ──拝啓、お父さん、お母さん。

 どうやらお二人より先に死んでしまった親不孝者の俺でしたが、なんと異世界で勇者をすることになりました。あっちで上手くやっていくので、どうかお体を大切に!


 にしても、異世界かぁ。あれだろうか。、魔法が使えたり、やっぱり超絶美人がいたりするのだろうか。楽しみだぁ!


「どうやら意気込みは十分のようですね。──もし、その前に一つ」


『──?』


「──あなたを、『勇者』以外の生き方を歩むことを”禁じます”」


 もし、俺が声が出るんだったら間抜けな声が一つこぼれていただろう。それほどまでに、意味のわからない言葉であった。


 勇者だったら、何か異世界転生特典が授けられるのか。そう思った矢先言われた言葉──禁じると、そう言われたのだ。

 しかし俺の魂はそうモーナが言った途端に何か鎖のようなモノが巻き付いた……ように思え、確かに何かが自分のこれからの全てを奪われたと、そう思うのだ。


「私達は今までに数多くの勇者を送ってきました。……けれど、残念なことにその全てが『魔王』を討伐することなく、あまつさえ堕落した人生を歩む。なので──あなたには、『制約』を」


 意味がわからなかった。何を、いっているのだろうか。

 しかし状況はそんな俺を置いていきどんどん進んでいく。本当に、意味がわからないのに。ぞろぞろと、先程まで俺を見ていた他の神とやらが俺に近づいてくる。


「──前に自ら命を絶ったものがいただろう。それも禁じるべきではないか?」

「魔物の討伐放棄も禁止させるべきだ。魔なるものを見逃すだと、気分が悪い」

「神への感謝を忘れさせるな。神物を傷つけるのも駄目だ」

「人を殺すのも駄目であろう。それで処刑された男がいたな」

「だとしたら商売も「魔法の使用も制限「誰かと結ばれることも「魔なるものに屈するなど「悪魔と契約したものがいたで「死なれては困る、全てを「『勇者』として正しい行動を「──『制約』の吹聴を


 なんだ、これ。

 魂が、どんどん重くなっていく。

 なんなんだ、これは。


 そんな俺のことを目の前のモーナは何でもないように見つめながら、笑顔を崩さない。その笑顔が、まるで、まるで──


「──どうやら終わったようですね。それでは、どうか世界を救ってきてください」





 転生者・■■■■ 職業・『勇者』 所持スキル・なし。

 追記──計391の『制約』。

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