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獄炎の姫君〜失意の底で何を思ふ〜  作者: 蕎麦粉


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帝国編 51.儀式の夜Ⅱ

走りながら、ルイの前に急に氷の板が現れた。


ヴェラの水魔術による伝心版らしい。


「宮廷の地下が開いた。プランナが地下施設に入った」


「地下施設というのは」とレイアが聞いた。


「帝国建国時からある封印の場所だ。儀式の空位——皇帝が位から離れた状態になる瞬間に、封印が一時的に緩む。やっぱりプランナはそこを狙っていたみたいだ」


「今、皇帝は」


「儀式中に倒れた。ヴェラから。空位が生まれた」


フィンが一歩、止まった。


「父上が」と言いかけて、止まった。


「たまたまかもしれない」とルイが言った。声が積もらないようにしていた。「儀式の影響という可能性もある」


「どちらでも今夜は動く」とフィンが言った。声が平坦だった。平坆に抑えている平坆さだった。


「そうだ。急ぐ」


---


全員で走った。フィンはルイの隣についていた。


「フィン殿下は」とマリーが走りながら言った。


「行く」とフィンが言った。


「危険だ」とルイが言った。


「文書を持ってるのは僕だ。それに——父上が倒れた。行かなくてどうする」


「行っても何もできないかもしれない」


「それでも行く」


ルイが一秒だけ迷った。「離れるな」と言った。フィンが頗いた。


宮廷の外壁が見えてきた。北側から煙がまだ上がっていた。衛兵が走っていた。外壁の内側でまだ何かが動いていた。


「ヴェラが入口を通してくれる」とルイが言った。「僕の名前を使う」


「宮廷の内部に入るのか」とサラが言った。合流していた。


「地下施設への入口は宮廷の内部にある。他に方法がない」


「封印の核を起動されると何が起きる」とサラが走りながら聞いた。


「魔王の封印が部分的に解ける。完全ではないが——魔王が動きやすくなる」


サラが黙った。一歩分だけ、足が速くなった。


「分かった」


---


ルイが一瞬だけ立ち止まった。「レイア」と呼んだ。「三回目の気配の位置は」


「北寄り、外壁の外側。でも今は」


「今は地下が先だ。分かってる。でも——また来るかもしれない」


「来たら知らせる」


「一人で追うな」


「分かってる」


また走り始めた。


---


その時、レイアの体が止まった。


一歩、踏み込もうとして——足が地面についた瞬間、感じた。


——冷たい。


音が消えた。周囲の声が遠くなった。衛兵の足音も、マリーの息づかいも、全部が一枚の膜の向こうに行った。そこだけ、別の空気があった。


路地の入口。左の壁際。一瞬だけ——消えた。


「どうした」


ガンスが戻ってきた。


「……何でもない。フィンを先に」


「何でもないって顔じゃないぞ」


「後で話す。今は先に行って」


「……分かった」


ガンスが一秒だけ見た。それから頗いて前に行った。


レイアは壁際の空気を見た。もう何もなかった。でも残っていた——鳥の羽のような形の、冷たい残滓。あの感触。帝都に来てから三回感じた、あの感触。


手が、少し震えていた。


---


走り始めた時、路地の角を曲がろうとして——見た。


路地の奥に、二つの人影があった。


一つは黒いローブだった。もう一つは——。


——ドージだった。


レイアは立ち止まった。走ることを、体が忘れた。


ドージが黒いローブの人間と向かい合っていた。何かを話していた。それから、手のものを渡した。書類のようなものだった。相手が受け取った。相手が路地の奥に消えた。


ドージが振り返った。


レイアと目が合った。


逃げなかった。


どちらも動かなかった。路地の向こうの混乱が、ここまでは届いていなかった。衛兵の声が遠かった。


ドージが何かを言いかけた。口が少し開いた。


「どうした!」


ガンスの声が路地の向こうから来た。


レイアは前を向いた。「何でもない」と返した。走った。


走りながら、何かを処理しようとしていた。でも処理できなかった。——ドージが渡した。黒いローブの人間に。プランナの構成員に。渡した。


感情がなかった。怒りも、悲しみも、駅きも——何もなかった。ただ、その場面が頭の中に残っていた。


---


宮廷の外壁の通用口にヴェラが待っていた。


「やっぱり来たのね」と言った。


「通してくれ」


「通すわ。でも——地下は深い。戻ってこられるか分からない」


「戻る」とルイが言った。


「それだけ?」


「それだけ言えることがある」


ヴェラが少し止まった。フィンを見た。


「フィン殿下」


「文書は持っています」とフィンが言った。「父上から預かったものです」


ヴェラが顔を向けた。何か言いかけて、止まった。「……そう」とだけ言った。


「急いで。時間がない」


全員で中に入った。


レイアは最後に入りながら、一度だけ路地の方向を見た。ドージはもういなかった。


扉が閃まった。ドージが渡したものが何か、まだ分からなかった。分からないまま、先へ進んだ。

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