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獄炎の姫君〜失意の底で何を思ふ〜  作者: 蕎麦粉


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帝国編 45.二重の依頼

朝、組合に顔を出したサラが戻ってきた時、表情が少し違った。


食堂にいたガンスとマリーが顔を上げた。サラが椅子を引いて座り、依頼書を二枚、机の上に置いた。いつもなら依頼書を一枚ずつ話すのに、今日は二枚まとめて置いた。その置き方が、すでに何かを言っていた。


「両方、今朝貼り出されてた。他に受けた冒険者がいるか確認したら、誰もいなかった。貼り出してすぐ見つけた人間が数人いたのに、誰も取らなかった。なんか嫌な感じがしたって」


依頼書を見た。「宮廷内部警備補助・儀式期間」。依頼主欄が異なっていた。一枚はカルム側の宮廷内部から、もう一枚はエドン側から。


「両方から来るなんて普通はないぞ」


「ない。それが同じ日の朝に並んでた」


ガンスが腕を組んだ。マリーが依頼書を一枚取り上げて、報酬欄を見て、また置いた。


「プランナが指示してる可能性がある」


レイアはサラを見た。ガンスも少し驚いた顔をしていた。サラ自身は気づいていなかった——自分から「プランナ」という名前を使ったことに。ゴルンの時には知らなかった名前を、今では自分の言葉で使っている。


何かが変わった、とレイアは思った。でも何が変わったのかは、うまく言葉にできなかった。


---


ルイが部屋から降りてきたのは昼前だった。二枚の依頼書を見て、しばらく黙っていた。


「どちらも受けるな」


「やっぱりそうなるか」とガンスが言った。


「プランナが両陣営を動かしている。カルム側に入れば敵側に情報が渡る。エドン側に入っても同じだ。どちらを選んでもプランナに都合がいい結果になる」


「つまり俺たちをどちらかに引き込みたいってこと?」


「それだけじゃない」


ルイが椅子に腰を下ろした。「おれが別ルートで動きを確保する。その間は組合への定期報告だけ続けてほしい」


「カルムとエドン、どちらかはまだプランナから独立してる可能性はないの」とサラが聞いた。ルイが首を楔った。


「ない。両方、完全にプランナの手の中にある」


全員が少し黙った。


---


夕方になって、ルイがヴェラのところから戻ってきた。


食堂に全員が集まっていた。フィンも来ていた。ルイが扉を閉めて、立ったまま話した。


「ヴェラから確認が取れた。カルムはプランナに情報を売っている。自分が利用されているとは思っていない——プランナを「自分が使える道具」だと思っている」


「エドンは」とフィンが聞いた。フィンの声は静かだった。答えを知っているのか知らないのか、どちらか分からない問い方だった。


「気づいている」


少し間があった。フィンが顔を上げた。


「気づいているのに、止められなかった」


「そういうことだ」


ガンスが「……どうして止めなかった」と言った。責める声ではなかった。ただ分からないという声だった。


「止めれば自分が標的になる。プランナはそういう組織だ。巻き込まれた時点で、逃げることも戦うことも難しくなる」


マリーが「気づいてる人がいるなら、助けられたんじゃないですか」と言いかけて、途中で止まった。「もう遅い。エドンがどう動いても、プランナには計算の内だ」とルイが言った。マリーは何も続けなかった。


しばらく誰も何も言わなかった。


フィンが机の木目を見ながら言った。「エドン兄さまは昔から、嘘が下手だった。父上もそう言っていた」。それだけだった。感情が乗っていなかった。乗せないようにしているのかもしれなかった。


ガンスが「そっちの殿下は、今どこにいるんだ」と聞いた。「宮廷の中だ」とルイが答えた。それ以上の話はなかった。


---


夜、レイアは廊下に出た。


今日の話を頭の中で並べ直していた。カルムとエドン、どちらもプランナの手の中にある。儀式の夜に空位が生まれるよう設計されている。誰が即位してもプランナに都合がいい。


——つまり儀式の夜が来た時点で、政治的な出口はもうふさがれている。


残るのは、地下で何かをしようとしているプランナを止めること。そして、この街にいる使徒のことだった。


廊下の窓から外を見た。宮廷の方向に、灯りが増えていた。儀式の準備が着々と進んでいる。あちら側も時間を測っている。


三回目の気配は、まだ来ていない。


来る。来るとしたら——儀式が近づくほど、感触が濃くなっている。あと四日。どこから来るか、まだ分からない。でも来る。それだけは分かった。自分の中が濃厚な殺意で満たされていくのを感じた。


儀式まで、あと四日だった。

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