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獄炎の姫君〜失意の底で何を思ふ  作者: 蕎麦粉


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襲来編 5.龍の炎は天を焦がす

こんちは!書きためてた小説を大放出いたします!

みんな大好きご都合主義なろう世界へ!レッツゴ〜!

魂の譲渡は完全にすんだ。少なくともレイアはそう感じていた。しかしその一方で遺跡の奥で、世界が歪んだ。


熱が膨張するよりも先に、時間が遅れた。

炎が揺らめこうとする動きだけが、異様に引き伸ばされる。崩れ落ちる梁は途中で止まり、砕けた石片は宙に浮いたまま、落下する意思だけを残して静止していた。


紅蓮の黒炎が渦を巻く。

だが、その動きは鈍く、粘つき、まるで濃い油の中を進むようだった。


その中心に、人でも龍でもないナニカがいた。


咆哮を上げようとする口が、開ききらない。

振り下ろされた腕は途中で止まり、関節が軋む音だけが、遅れて響く。


「……やれやれ」


初代龍神は、崩れた床の上を歩いていた。

歩幅一つ一つが、周囲の世界と微妙にずれている。龍神が一歩進む間に、怪物はようやく瞬きを一つ終える程度だった。


「少しは落ち着いてくれぬかのぉ」


龍神は指先を軽く振った。


次の瞬間、時間が折り畳まれる。


怪物の周囲の時間だけが急激に圧縮され、動きがさらに鈍化する。

あの粘つくような黒炎は内側へと巻き戻されるように縮み、爆発するはずだった熱が、行き場を失って歪んだ形で停滞した。


床に広がっていた火は、燃えた「痕跡」を失い、焼け跡が消えていく。

崩れたはずの柱が、砕ける直前の形に戻り、そこで固定された。


「……その力はな」


龍神は怪物の前に立つ。


「世界を壊すためのものではない」


怪物の胸部に手を当てる。

力を込めたわけではない。ただ、触れただけだった。


すると、触れた箇所の内部で逆流が起こった。


黒炎が、時間を遡るように収束していく。

燃え盛っていたものが、燃える前へ、熱を持つ前へと引き戻される。


「借り物で、図に乗るなよ小娘」


龍神の声だけが、通常の速さで響く。単なる一言。しかしその声には心臓を締め付けるような圧が確かに存在していた。


次の瞬間、時間が戻った。


轟音が一気に押し寄せ、止まっていた梁が落下し、石片が床に叩きつけられる。

だが、黒炎はもうなかった。


そこに残っていたのは、瓦礫の中に倒れた一人の少女だけだった。


全身は焼け爛れ、骨が覗いている。

それでも、皮膚はゆっくりと再生を始めている。


初代龍神は、少女を見下ろす。


「……制御以前だな」


時間は完全に通常へ戻った。

遺跡は破壊されたままだが、炎だけは存在しない。


「起きろ、レイア」


初代龍神は、瓦礫の上に腰を下ろし、足をぶらぶらと揺らしながら言った。


「お前は強くなってなどおらん」


レイアは黙っていた。


「今のお前はな、大きくて、切れ味のいい剣を手にしただけだ。振るう腕は、あの夜と何一つ変わっておらん」


「……殺せる」


「殺“される”だ」


即座に切り捨てられる。


「力に振り回され、制御もできず、思慮も浅い。使徒の前に立てば、今度こそ即死だ」


レイアの指が、わずかに動いた。


「わしもそんな馬鹿じゃない。自分が与えた力の使い方くらい教えてやろう」


龍神は立ち上がり、指を鳴らす。


遺跡の奥、焼け落ちた城の地下に広がる空間が震え、空気が歪んだ。


「まずは“魔術”だ」


「……魔法じゃないの」


「違う」


龍神は即答した。


「魔法とは、世界そのものを捻じ曲げる行為だ。無から有を生み、有を無へ返す。わしですら軽々には扱えん」


「じゃあ魔術はなんなの…?」


「そこにあるものを、ある形で使う技だ」


空気が熱を帯びる。


「お前の父、ドラムは火を得意としたそうだな。ほれこれを持ってみろ」


龍神が手を掲げると、空中に小さな玉が生まれた。


「その玉の色の変化でお主の得意とする魔術系統がわかる。本当は精霊術式でやるのがいいんじゃがの」


レイアはそっと浮かぶ玉に手を添える。途端、玉の色は紅く、ただみなを照らす光のような赤ではなく血が乾ききったような暗澹たる赤黒…


「ふむ、やはり炎であったか。じゃがまぁこんな色は中々見んのぉ」


「これが…私…?この色は…なんなの…」


「ま、そこはおいおいな。今からはわしの言ったようにしてみせい。本来魔術というものは人間が使い勝手のいいように魔力を別の形に変化させたものじゃ。元々色なんぞ着いておらん。が、それに味付けをして炎、水、土、風、光、闇といった魔術に変換しておる。」


「私は炎しか使えないの?」


「そんなことはない。魔力の味付けが最適、楽にできるのが炎というだけで水でもなんでも出せるぞ。ほれみてみぃ」


そう言ってそこかしこから水や風の玉を湧き出させる。


「身体には魔力が溜まっている場所がある。丹田、心臓が無難なところじゃな。そこから魔術を発する場所、簡単なのは指先じゃな、に川の流れのように緩やかに流していく。人間の馬鹿共はそれをスムーズにするために詠唱などという巫山戯た物を使いよるがあんなものわしから言われたら児戯じゃな。まー物は試しだ。やってみせい」


次の瞬間。


爆音。


炎はレイアの指先から“生まれた”のではなく、“溢れた”。

制御されない熱量が空間を焼き、遺跡の壁が赤く染まる。


「……っ」


レイアの右手が、肘から先ごと黒く焦げていた。


肉が炭化し、指が崩れ、地面に転がる。



幾ばくかの後、焼けおちた箇所から骨が伸び、筋肉が絡み、皮膚が再生する。

龍神の魂の力による異常な回復力だった。


「ほう」


龍神が目を細める。


「やはり最初から使えるような器用な子ではないと思ったがこれほどとはな」


龍神は、短く笑った。


レイアは再び手を伸ばす。


火が生まれる。

今度は小さい。だが、安定しない。揺れ、暴れ、突然爆ぜる。


今度は左手の指が、一本焼け落ちた。


それでも、再生する。


レイアは、その様子を見下ろしながら呟いた。


「……邪魔だな」


「何がだ」


「痛いの」


龍神は、腹を抱えて笑う。


「カッカッカッ。人がそんなことを言うか。お主の感性はもはや人ではないのかもしれぬのぉ」


レイアは答えなかった。

代わりに、再生したばかりの手を握りしめる。


炎。

破裂。

再生。


また炎。

また破裂。

また再生。


大きくなくたって構わない、鋭く、殺すためだけの炎。


「……まだ、足りない」


龍神はそれを見て、楽しそうに笑った。


「人の身のなんと脆いことか。」


その日から遺跡からは、何かが爆ぜるような音が昼夜を問わず響くようになった。


この行いは、強くなるためのものではない。

人であることを、削り落とすための工程だった。



ーーー


ひと月ほど経っただろうか。


遺跡の内部に差し込む光の角度が、わずかに変わっていることにレイアが気づいたのは、もう何度目かの再生を終えた後だった。


魔力の流れは以前よりもかなりスムーズなものになっていた。

丹田から指先へ、意識を途切れさせずに通す。急がず、溢れさせず、ただ流す。


指先に灯る炎は、以前のように暴発しない。小さく、細く、刃物のように鋭い。

しかし魔力の消耗は激しい。

何度か大きな炎を出せば、体の奥がぽっかりと空洞になったような感覚が残る。燃費は相変わらず最悪で、集中を欠けば自傷も起きる。


焦げた皮膚。焼け落ちる指。

再生はするといえども、消耗は積み重なる。


その穴を埋めるために、レイアは遂に喰らった。


遺跡の外で拾い集めた、半ば腐りかけの肉。

周囲をうろつく魔獣を狩り、血の温もりが残るまま裂いた肉。

最初の頃は自分の炎によって黒く炭化させてしまっていたが最近では殺した後に焼くことで魔力操作の練習のひとつにもなっていた。


以前であれば魔物の肉なんてと忌避感を示していただろうが今は腹に収まれば、それでよかった。


「人間は、火を使う前に腹を満たすもんじゃがの」


瓦礫の上でそれを眺めながら、初代龍神は呟いた。


レイアは答えない。

肉を食いちぎり、黙々と咀嚼する。


感情は薄れ、欲求だけが残る。

生きるためではない。


その夜、龍神は珍しく真面目な声を出した。


「そろそろかのぉ」


レイアが顔を上げる。


「艶桜の地下迷宮。かつて、わしが封じた場所だ。城が健在だった頃は、誰一人近づけんかった」


「……何があるの」


「この世に未練タラタラのバカが1匹とあとは有象無象かのぉ」


龍神は笑わない。


「今のお前は何というか、命の重さを感じん。そういう奴はいざと言う時に役に立たん。生きるか死ぬかギリギリの生を実感してこい。」


レイアは立ち上がった。

答えは最初から決まっている。


迷宮へ続く封印は、すでに緩んでいた。

艶やかな桜色の結界が、脈打つように揺れている。


レイアは、再生したばかりの手を見下ろし、ゆっくりと握りしめた。


痛みは、もう遠い。


残っているのは、流れる炎と、空腹だけだった。


さてさて!楽しんで頂けましたでしょうか!おもろいやん!頑張ってくれぃ!等のお気持ちがあればぜひ評価の方お待ちしております!それではまた次回お会いいたしましょう!

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