帝国編 26.酒場にて
組合への報告が終わったのは、夕方近かった。
討伐証明として本体の鱗を一枚持ち帰った。それと抜け殻の残骸の一部。職員が確認して、「剥皮蛇王で間違いありません」と言った。報酬が支払われた。人数割りで分けた。
「思ったより出たな」
ガンスが銀貨を数えながら言った。
「Bランクだからね。本体と抜け殻の数が多かった分、加算されたんじゃないですか」
マリーが答えた。
「俺の斧が一番活躍したろ」
「ルイさんが弱点を活かした一撃が決め手だったと思いますよ」
「そうだけど、引き付けたのは俺だろ」
「ガンスさんの貢献も大きかったです」
「そうだろ!」
サラが「結果的に全員いてよかったんだからいいじゃない」と言って話を切った。
ガンスが「まあそうだな」と言ってあっさり引いた。
レイアはその一連を聞きながら、銀貨を鞄に入れた。
——こういう話し方をするんだ。
戦闘が終わると、切り替えが早い。さっきまで十メートル超えの魔物と戦っていたのに、今は報酬の話をしている。緊張が抜けた後の人間の声は、こういう感じだ。
——ゴルンのパーティも、そうだったかもしれない。
デニーが真っ先に何か言って、ノーラが呆れて、バートンが笑っていた。
そういう声が、あった。
「レイア」
ルイが呼んだ。
「何」
「今日の動き、よかった。感知能力と炎の組み合わせは助かった」
「別に」
「受け取れ」
少し強い言い方だった。レイアはルイを見た。
「……ありがとう」
「それでいい」
ルイが少し目を細めた。感情の出にくい顔だが、今日一日の疲れが少し滲んでいる。腕の打撲は治ったが、体全体が重そうだ。
「ルイ、腕は大丈夫?」
「マリーに治してもらった。問題ない」
「そっか」
そこで会話が終わった。
しかし終わり方が、悪くなかった。
**
酒場に入った。
夕方の酒場は混んでいた。冒険者らしい人間が多い。依頼帰りの者たちが、テーブルに固まって話している。笑い声があり、武器の音がある。
月夜の船が奥のテーブルを取った。
ガンスが「今日はしっかり飲むぞ」と言いながら席についた。サラが「量は抑えてよ」と言いながら隣に座った。マリーがお茶を頼んだ。ルイが水を頼んだ。
レイアも水を頼んだ。
「あんたって酒飲まないの」
サラが聞いた。
「あまり飲まない」
「なんで」
「あまり好きじゃないから」
「そっか。嫌いなものあるんだ」
「そりゃあるよ」
「なんか……なさそうなイメージあった」
「なんで」
「強そうだから。強い人って感情とかあんまりなさそうな気がして」
「あるよ」
サラが少し笑った。
「そっか。よかった」
「よかったって何が」
「なんかよかった気がして」
よく分からない理由だった。しかしサラはそれ以上説明しなかった。
ガンスが酒を受け取って、一口飲んだ。
「そういえばさ、レイアって普段何してんの。俺たちが依頼のとき」
「色々」
「色々って」
「図書館行ったり、街を歩いたり」
「図書館か。勉強してるのか」
「調べ物がある」
「何を」
「……色々」
ガンスが「そっか」と言ってまた酒を飲んだ。深く追わなかった。
マリーが「レイアさんって、帝都に来る前はどこにいたんですか」と聞いた。
「東の方」
「遠くから来たんですね」
「そう」
「帝都はどうですか、住んでみて」
レイアは少し考えた。
「……でかい」
「そうですよね」
「人が多い」
「それも」
「でも、慣れてきた」
マリーが「それはよかった」と言って微笑んだ。責めるでも褒めるでもない、ただ嬉しそうな顔だった。
ルイが「次の依頼も一緒に来るか」と聞いた。
少しだけ考えた。
「……来る」
「よし」
ガンスが杯を上げた。
サラが「また来るの」と言いながら、口の端が上がっていた。
レイアは水を飲みながら、その輪を見渡した。
ガンスが笑っている。サラが呆れた顔をしながら笑っている。マリーが穏やかに話している。ルイが静かにそれを見ている。
——端ではなかった気がする。
どこにいたんだろう、と少し思った。
チームの中に、いた気がした。
いつからそうなっていたのか、自分では分からなかった。しかし今夜は、それでいいと思った。




