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獄炎の姫君〜失意の底で何を思ふ  作者: 蕎麦粉


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3/8

襲来編 3.龍は天に誓う

はい!ということで3話目でございます!2話で主人公死んでるやーん!という意見は封殺いたします!

瓦礫と炎に包まれた城の廃墟は、死の静寂に覆われていた。あちこちから焦げた香りが立ち込め、灰色の空気が喉を刺す。地面には、倒れた家屋の破片と、瓦礫に押し潰された装飾品、そして血まみれの遺体が散乱していた。


その中で、ひときわ小さな影が横たわっている。血にまみれた少女――レイア。意識はほとんど途切れ、呼吸も浅く、魂は薄暗い霧の中を漂っていた。周囲で燃えさかる炎も、崩れ落ちる瓦礫の音も、彼女の世界には届かない。


傍らに、老いた龍人――ラヴァガンがひざまずいた。背中から立ち上る暗い光は、残された龍の気そのもので、滅びゆく里にひそやかな威光を放っていた。血塗れの身体には一際大きい穴がぽっかりと胸元に空いている。それでも、瞳には揺るがぬ意志が宿っていた。


「……これで私の生も終わりか。次代への…」


低く響くその声に、かすかに揺れる光の粒が混ざった。ラヴァガンは掌をレイアの胸にかざし、最後の力を振り絞る。全身の血管から龍の気が迸り、四肢の骨が震え、鱗が光を反射する。まるで天地の力を吸い上げ、ひとつの結晶に変えるかのような圧倒的な気配だった。


「竜族の最後の秘術とくと受け取れぃ。レイア――竜命返還」


術名を口にした瞬間、掌から光が炸裂した。城跡を包む煙と灰を裂くかのように、眩い龍の力が渦を巻き、燃え残った桜や瓦礫の間を満たす。熱と光がレイアの身体に一気に流れ込み、壊れた肉と血管、途切れた心臓の鼓動、すべてが瞬時に修復されていく。


瓦礫の隙間を縫うように、光は淡く揺れ、やがてレイアの体を包み込んだ。意識はまだ戻らない――それでも、生命は確かに蘇っている。


ラヴァガンの身体はそのまま崩れ落ち、徐々に足先から灰になっていく。力尽きた老龍人は、地面にうつ伏せに倒れる。血まみれの顔に微かに笑みが浮かぶ。自分の仕えた当主の愛娘を守り、最後の使命を果たした満足が、その微笑に宿っていた。


「全く……やっと先代様と酒が飲めるな……レイア……頼むから道を踏み外さないでくれよ…復讐なんかに生きるな……」


光が弱まり、周囲が再び灰色に染まる。老いた龍人の言葉は誰に届く訳でもない。炎はまだ燃え続けているが、力の流れは止まった。レイアの体は、瓦礫の中で静かに横たわる。しかし、胸の奥で心臓が確かに鼓動を打つ。生命の火が戻ったことを示す、かすかな振動が伝わってくる。


意識はまだ朦朧としていた。熱と痛み、恐怖の記憶が混ざり合い、夢のように体を包む。


「……生きて……いる。なんで…私、心臓…」


声にならない呟きが、瓦礫の間にこだました。周囲の炎や瓦礫の音は、まだ遠くの出来事のように聞こえる。だが、目覚めたばかりの体には、力が戻りつつあった。生きる意志が、弱々しくも確かに芽生え始めていた。


焼け落ちた城の中、焦げた桜の花びらが灰の上に舞う。天を覆う煙の隙間から、微かに光が差し込み、廃墟を淡く染めた。その胸には決意が刻まれていた。


「……あの男を、必ず……」


涙で視界はぼやけている。それでも、心の中で復讐の炎は確かに燃えていた。弱き自分を打ち破り、力を手に入れるための道――それはまだ、始まったばかりだった。



二週間が過ぎた。かつて華やかだった艶桜の里は、灰と炎に覆われ、死の匂いが空気を支配していた。瓦礫に埋もれた家屋や城の残骸、燃え残った桜の幹が、無惨に立ち尽くす。風に揺れる焦げた花びらが、まるで死者の魂のように舞った。


生き延びたレイアは、廃墟を彷徨い続けていた。手にできたものはわずかな食料と、雨水をためた容器だけ。空腹と疲労、灰と煙で呼吸も苦しく、視界もぼやける。倒れた瓦礫の下からかろうじて拾った干し肉を口に運ぶも、味も匂いもほとんど感じられない。


しかし、最も恐ろしいのは目に見えない脅威だった。元々魔力が満ちた土地であった艶桜は、守護者の消失と共に制御を失った。二週間の間に、魔力の残滓が暴走し、魔物たちが徐々に現れるようになった。


歪んだ影が瓦礫の間を這い、ひび割れた地面の裂け目から異形の目が光る。


レイアは必死に逃げる。力は足りず、剣も武器もない。ただ、残された瓦礫と炎を避けながら、身を低くして転がるしかなかった。追いかけてくる魔物の爪音、口から漏れる低いうなり声、そして目の奥に潜む光――すべてが生の恐怖を叩きつける。


「……私は……弱い……」


声にならない呟きが、瓦礫に吸い込まれる。震える手で顔を覆い、冷たい灰に体を伏せる。絶望の中で、心が幾度も折れそうになる。けれど、胸の奥には、ラヴァガンが最後に残した光の余韻がわずかに残っていた。生命の火はまだ消えていない。


「……あの男を……必ず……」


金色の男――名前も知らぬ、すべてを奪った存在。力も経験も足りず、無力に押し潰された自分を思い返すたび、拳が固く握られる。胸の奥で、復讐の炎が静かに燃え始める。


夜が訪れる。灰色の空に月も星もなく、風に乗って魔物たちの呻きが響く。ひとり、瓦礫に座り込む少女の体は震え、肌には無数の擦過傷が刻まれている。


「どうしてみんなしななきゃ行けなかったの…どうして私だけ生き残ったの…どうしてこんなに辛い思いをしなくちゃいけないの…どうして……どうして……」


果てしない自問自答のうちに彼女の心は光を失い始める。食料は底を尽き、体力も限界に近い。喉は渇き、腹は鳴る。


だが、恐怖の中で胸に宿る決意が、かろうじて身体を動かす力を与える。手に握る瓦礫のかけらを爪先で押し、背筋を伸ばす。


「……生き延びる……そして、必ず……私から全てを奪ったあの男を…殺す」


灰の舞う夜空に、レイアの瞳だけが光った。以前のような弱々しい光ではない。その胸には、復讐の火種だけでなく、生き延びる覚悟と、弱さを超える決意が芽生えていた。


荒れ果てた里、魔物の群れ、飢えと孤独――すべてが試練だ。これを乗り越え、力を手に入れること。倒れた瓦礫の下で立ち上がること。恐怖と絶望の中で、レイアは自分に課せられた試練を理解した。


――これからの道は、過酷で孤独だ。だが、胸に誓った復讐と生への渇望が、彼女を動かす。


焦げた桜の花びらが灰の上に舞い落ち、夜風に吹かれて踊る。レイアはその中で、体を丸めながらも、内なる炎を育む。復讐のため、そして生き延びるための戦いは、今、静かに始まろうとしていた。


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