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獄炎の姫君〜失意の底で何を思ふ〜  作者: 蕎麦粉


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帝国編 15.龍は帝都へ

今話からついに帝都へ向かっていきます!何がレイアを待っているのか!?

召喚状が届いた翌朝、バーナードはルイを執務室に呼んだ。


昨夜のうちに一人で読んでいた書簡を、机の上に置いた。


「読んだか」


「はい。昨夜、少し」


「ゴルンで起きた件について直接話を聞きたい。報告者と、関係した者を連れてくるように——それだけだ」


ルイは一拍置いた。


「関係した者、というのは」


「一人しかいないだろ」


バーナードは書簡を引き出しに戻した。


「帝都へ行く。お前たちも来い。護衛を頼む」


「月夜の船で、ですか」


「ああ。馬車を手配する。出発は五日後だ」


ルイは頷いた。バーナードがもう一度口を開いた。


「ルイ」


「はい」


「レイアに話す前に、一つだけ言っておく」


声を落とした。扉の外に誰もいないことを確かめるような間があった。


「帝都では、あの娘から目を離すな。何者かを見極めろ。お前に頼む」


ルイはバーナードを見た。命令というより、依頼に近い言い方だった。バーナードがそういう言い方をするのは珍しい。


「……分かりました」


「龍人のことは、お前と俺だけの話だ。帝都でも変わらない」


「はい」


バーナードは話は終わりだという顔をした。




特例昇級の申請が通ったのは、同じ日の午後だった。


制度の上では異例だ。F級からの飛び級は通常認められない。しかしバーナードは書類を揃え、現場の証言を集め、ゴルン支部長の権限として押し通した。手続きに反対する者もいたが、バーナードは一つずつ潰した。


「これはほんとに特例のことらしいよ。前回あったのは特S級の一人だったみたいだね。君も目指せるんじゃない」


ルイから渡された書類を、レイアは受付の窓口で受け取った。


新しい等級証だった。字が変わっている。レイアにとってはそれだけだ。


「……分かりました」


「それだけ?もっと喜んだらいいのに!」


「他に何かありますか」


ルイは少し複雑な顔をして、「いや」と言った。バーナードは離れた場所で別の書類を見ていたが、こちらを一度だけ見て、また目を落とした。それで十分だという顔だった。




レイアに伝えたのはその日の夕方だった。


「本部から召喚状が来た。一緒に帝都に来い」


バーナードの言い方は短い。理由も説明もない。


「……誰に呼ばれたんですか」


「グランドマスターだ」


レイアは少しの間、黙った。


グランドマスター。大陸冒険者組合の頂点に立つ者。らしい。会ったことはない。どんな人間かも知らない。しかし何かを知っていて呼んでいる——そういうことだろうと、レイアには分かった。


「断れますか」


「断れない理由はない」


「でも」


「でも、行った方がいい場合もある」


バーナードはそれだけ言って、返事を待った。


レイアは答えた。


「……分かりました」


保管所で見た焼けた写本のことを思い出した。読めなかった断片。帝都の大図書館ならば、もう少し手がかりがあるかもしれない。召喚状とは別に、行く理由が一つ重なった。




翌朝、月夜の船の面々と顔を合わせた。


組合の前庭で、馬車の荷積みが進んでいた。その傍らに四人が立っている。ルイはレイアを見て短く頷いた。残りの三人は初めて見る顔だった。


「おう!お前がレイアか!話は聞いてるぞ!」


最初に声を上げたのは大柄な男だった。背が高く、肩幅が広い。腰に大きな斧を提げている。顔に傷が一本あるが、目は笑っている。


「ガンスだ。よろしくな!」


「……レイアです」


「知ってる知ってる!ワイバーン一発で飛ばしたって話だろ!すごいな!」


「ガンスさん、声が大きいです」


穏やかな声が横から入った。


マリーという名の女性だった。髪を後ろで束ねており、首元に聖教の徽章を下げている。ガンスをさらりと制しながら、レイアに向かって微笑んだ。


「初めまして。マリーです。道中よろしくお願いしますね」


「こちらこそ」


もう一人——サラという名の娘はレイアを見ていた。じっと、無言で。値踏みというより、何かを確かめているような目だった。挨拶もせず、視線だけを向けたまま、少しすると馬車の方へ歩いていった。


ガンスが苦笑した。


「気にすんな。ああいうやつだ」


レイアは何も言わなかった。




出発の前に、デニーたちに会いに行った。


処置室はもう使われていなかった。デニーは回復して、寮の自室に戻っている。扉を叩くと、少し間があってから開いた。


デニーはまだ顔色が悪かった。しかし立てている。目の光は、あの森の日とは全く違って見えた。


「……帝都に行くの?」


「ああ」


「そっか」


しばらく、互いに何も言わなかった。


デニーは視線を床に落として、また上げた。


「世話になった。森のこと」


「別に」


「別に、って言うなよ」


少しだけ、デニーが笑った。


ノーラが部屋の奥から顔を出した。目を見て、何も言わずに手を振った。レイアは短く頷いた。バートンは廊下で待っていた。レイアが出てくると、静かに頷いた。それだけだった。


それで十分だった。




馬車が動き出したのは昼前だった。


ゴルンの石畳を、車輪が引っ掻く音がする。通りを歩く人が馬車を避けて脇によける。屋台の煙が流れてくる。見慣れた景色が、少しずつ後ろへ流れていった。


根を張るつもりがなかった場所だった。名前も知らない人間の中で、名前も知らない依頼をこなしていただけだった。


それなのに、去り際に何かが胸に引っかかった。


何かが、という感じで——それが何かを言葉にする気にはなれなかった。


馬車が街の外へ出た。


石畳が途切れ、街道の土の感触に変わった。


レイアは窓の外を見るのをやめて、目を閉じた。

読了ありがとうございます!楽しんでいただけたでしょうか?もし応援の気持ちで下の星マークから評価を頂けますと私のモチベにもなりますのでぜひぜひ!よろしくお願いいたします!!!

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