帝国編 14.龍の三者面談
こんちは!書きためてた小説を大放出いたします!
みんな大好きご都合主義なろう世界へ!レッツゴ〜!
バーナードから呼び出しがかかったのは、翌朝のことだった。
昨日のうちに街の後片付けはほとんど終わっていた。負傷者の搬送、崩れた外壁の応急処置、商会長の遺体の記録。バーナードはその全てを夜通しで片付けて、それでもまだ机に向かっていた。
受付の者に「支部長室へ」と告げられたとき、レイアは何も聞かなかった。
そういう流れだろうとは思っていた。
扉を開けると、バーナードとルイがいた。
バーナードは机の向こうに座っている。ルイは部屋の隅に立っていた。椅子を勧めるでもなく、バーナードは短く言った。
「座れ」
レイアは座った。
「ルイは同席させる。異存はあるか」
「いいえ」
それだけのやり取りで、扉が閉まった。部屋に三人だけになった。
燭台が二つ。窓から差す朝の光は弱く、積まれた書類の縁だけをわずかに照らしている。狭い部屋ではないが、妙に息が詰まる感じがした。
「では、聞きたいことがあるんだが」
バーナードが口を開いた。
「昨夜、外壁の端で何かを使った。あの黒い光が当たった瞬間ワイバーンが消えた。見ていた者は全員確認している」
「はい」
「あれは何だ」
沈黙があった。
レイアはバーナードを見た。バーナードはこちらを見ている。目を逸らさない。逸らすつもりもない、という目だ。
「…あれは……答えられない」
「答えられない、か」
「はい」
「なぜ答えられない」
「話せる範囲と、話せない範囲がある。それだけ」
バーナードは少しの間、何も言わなかった。
紙の擦れる音がした。ルイが姿勢を変えた音だった。
「では、話せる範囲を聞こうか」
バーナードの声は変わらない。静かで、低い。怒っているわけでも、急いているわけでもない。ただ、引く気がないのだけが分かる。
「お前は何者だ」
「……冒険者です」
「それは知っている。その前だ」
レイアは一拍置いた。このことは話すべきではないかもしれない。一瞬の逡巡ののち口を開く。
「私は……龍人です」
部屋の空気が、変わった。
バーナードが動かなくなった。ルイも動かなくなった。音がなくなった。窓の外で小鳥が枝から飛び立った音さえ聞こえそうだった。
ルイが口を開こうとして、閉じた。
バーナードはしばらく、ただレイアを見ていた。じっと、値踏みでも疑いでもない目で——何かを確かめるような目で。
「龍人は」
静かな声だった。
「数百年前に、滅びたはずだ」
レイアは、一瞬だけ止まった。
滅びた。
その言葉が、頭の中で静かに広がった。艶桜は外の世界との接触をほとんど持たず、自分たちだけで完結していた。だから知らなかった——外の人間にとって龍人はとうの昔に消えた種族で、伝承の中にしか存在しない名前だったということを。
表情には出なかった。出さなかった。
ただ、喉の奥で何かが詰まるような感覚があった。
「……そう、なんですか」
声は平静だった。自分でも少し驚くくらい、平静だった。
バーナードの目が、わずかに動いた。レイアの反応を見ていた——知らなかったのか、と読んでいるような目だった。
「なぜ、今ここにいる」
レイアは答えた。
「……自分にも、分からないことがあります」
嘘ではなかった。里がなぜ滅びたのか、歴史に不要とは何の歴史なのか——その全てをまだ知らない。そして今、外の世界では龍人そのものがとっくに存在しないことになっていた。使徒のことも、龍神のことも、源龍砲のことも、話せない。話せることと話せないことを頭の中で分けながら、さっき知ったばかりのことを、まだ上手く飲み込めていなかった。
バーナードは再び黙った。
今度の沈黙は長かった。
ルイが一度だけ口を開いた。
「バーナード支部長——」
バーナードが手を上げた。ルイが止まった。
バーナードはレイアから目を離さないまま、続けた。
「昨夜のことを、もう少し話せ。森で何を感じた。ワイバーンを見てどう判断した。どう動いた」
答えられる範囲だ。
レイアは話した。腐った魔力の残滓のこと。デニーの体内で感じたものと同じ質だったこと。ワイバーンが自分の意志で動いていないと分かったこと。
バーナードは聞きながら、ときどき短く問い返す。「どこで感じた」「何に似ていた」「何を見て判断した」。答えられるものは答えた。答えられないところでは止まった。
「……そこは」
「答えられない、か」
「はい」
バーナードはまた黙った。
今度は短い沈黙だった。
「分かった」
椅子の背にもたれ、一度だけ目を閉じた。それから開いた。
「お前が何者かは分からない。しかし、何をしたかは見た」
低い声だった。断定でも承認でもなく、ただ事実として言った。
「以上だ。下がっていい」
レイアは立ち上がった。扉へ向かった。
「一つだけ」
バーナードの声が来た。
「龍人であることは、ここだけの話にしておく。俺とルイ以外には出さない」
レイアは振り返らなかった。
「……ありがとうございます」
扉を閉めた。
廊下に出ると、空気が少し楽になった。
窓から外を見ると、太陽はちょうど頂点に達していた。商人が荷車を引き、子供が走り、煙が上がっている。昨夜のことが嘘のような朝だった。
足音が聞こえて、振り返るとルイだった。
扉から出てきて、廊下でレイアに並んだ。何か言おうとして、少し間があった。
「……お疲れ」
短い言葉だった。
レイアは少し考えてから、答えた。
「いえ」
それだけで、ルイは頷いた。二人で廊下に立ったまま、しばらく誰も喋らなかった。
外から鳥の声が聞こえた。
執務室の中で、バーナードは一人になった。
机の上の書類を見た。手は動かさなかった。
龍人。
数百年前に滅びたはずの種族が、F級の冒険者として組合の寮に泊まっていた。——本人も分からないと言った。
嘘をついている様子はなかった。
「……分からないことがある、か」
誰にも聞こえない声で呟いた。
椅子から立ち上がり、窓の外を見た。街が動いている。修復作業が始まっている。普通の朝だ。
扉を叩く音がした。
「入れ」
部下が顔を出した。
「支部長、本部からの書簡が届いております」
差し出された封筒を受け取った。封蝋を見た。
大陸冒険者組合——本部の印だった。
封を切った。
中を読んだ。
一度だけ目を閉じた。それから、ルイを呼んだ。
さてさて!楽しんで頂けましたでしょうか!おもろいやん!頑張ってくれぃ!等のお気持ちがあればぜひ評価の方お待ちしております!それではまた次回お会いいたしましょう!




