帝国編 12.龍は誇りを胸に
こんちは!書きためてた小説を大放出いたします!
みんな大好きご都合主義なろう世界へ!レッツゴ〜!
夜が明ける前に、奴らは来た。
外壁の向こうから最初に届いたのは、音ではなく圧だった。空気が押される。地面が、微かに振動する。足の裏から伝わるその感触を、最前線に立つ者たちは言葉にできなかった。ただ、嫌な感じだ、とだけ思った。
次の瞬間、闇の中から影が動き出した。
人の形をしている。しかし動き方が違う。ぶれている。一定のリズムで歩いているのに、どこかちぐはぐだ——自分の意志で歩いていないものの動きだった。その中に、獣の影も混じっている。魔物だ。しかし吠えない。ただ、前へ進む。まるで巨大な一つの生き物のように、密度を保ったまま近づいてくる。
「構え——!」
ルイの声が外壁に響く。
最初の一斉射は、うまくいった。
矢が闇に吸い込まれ、魔術の光が弾け、前列の数十体が崩れた。歓声が上がりかけた。しかしそれは一瞬だった。崩れた穴を埋めるように、後ろから押してくる。数が多い。削っても削っても、密度が変わらない。波のように次が来る。
「右翼、圧力が増しています!」
「左側面から迂回を——!」
前線の端から報告が飛んでくる。ルイは声を張り、指示を出し続けた。右が崩れそうになれば援軍を回す。左が薄くなれば中央から引き抜く。綱渡りの布陣だ。本来の半分以下の人数で守る外壁は、どこを補強しても別のどこかが薄くなる。
「中央、もちこたえろ!押し返す必要はない、ここを割らせるな!」
ルイの声に、冒険者たちが応える。C級を中心にした前線は、傷つきながらも守っていた。
それが崩れ始めたのは、戦闘が始まって一時間ほど経った頃だった。
疲労だ。薬で動けない者が多く、一人一人の負担が大きい。交代要員がいない。腕が重くなり、反応が遅くなり、隙が生まれる。その隙に、影たちが入り込んでくる。
「右翼——突破されます!」
悲鳴に近い声だった。
ルイが振り向いた瞬間、右翼の一角が文字通り押し流されていた。数十体の影が、まとめて前線を飲み込んだ。
「後退——一時後退!第二ラインへ!」
バーナードが決断した。じりじりと下がりながら線を保つ。外壁は破らせない。それだけが今できることだった。
そのとき、風が変わった。
上だ。
誰かが空を見上げた瞬間、翼の影が月を横切った。
大きい。翼を広げれば外壁の半分を覆うほどの、巨大な影。ワイバーンだ——それも一頭ではない。二頭、三頭。上空を旋回しながら、徐々に高度を下げてくる。翼が起こす気流だけで、地上の旗が激しく揺れた。
「空から——!」
叫び声が上がる前に、風が来た。
ただの風ではない。刃のように研ぎ澄まされた風属性の魔力が、翼の一振りとともに地上へ叩きつけられる。まず旗が千切れた。次に盾が吹き飛んだ。空気の刃が地面を抉り、石畳が割れ、前線の一角がまるごと薙ぎ払われるように崩れた。
悲鳴が上がる。
「散れ——固まるな!固まると全員やられる!」
ルイが怒鳴る。しかし隊形を保てる状況ではなかった。
C級のパーティーが一組、ワイバーン一頭へ向かった。五人がかりだ。魔術師が足を封じ、剣士が翼を斬りにいく。ワイバーンはそれを意に介さなかった。翼の一振りで二人が弾き飛ばされ、魔術師が放った拘束の術が鱗に弾かれる。残った三人が辛うじて一撃を通したが、傷は浅い。返しの爪が一人の胸を抉った。その場に崩れる。
「退け——退け退け!無理だ!」
誰かが叫んだ。
C級五人で、一頭に傷一つ与えて終わりだった。そして頭数は、まだ二頭残っている。
空からの攻撃に上を向けば地上の影が押し込んでくる。地上を押さえれば空から来る。前後から圧をかけられた前線は、もう形を保てない。あちこちで穴が開き、冒険者たちが散り散りになっていく。
「支部長——」
ルイはバーナードを振り返った。
バーナードは地図を投げた。
投げた、というより——握る意味がなくなったから、手を離した。
「外壁まで下がれ。外には出るな。壁を盾にして守れ」
声は静かだったが、追い詰められていることは隠せなかった。
ワイバーンが、また高度を下げた。次の一撃を狙っている。今度は中央だ。あそこが崩れれば、外壁そのものが突破される。
誰も、止めるすべがなかった。
レイアは、外壁の端に一人で立っていた。
組合の陣営から離れた場所だ。誰の指示でもない。ただ、ここが見やすいと思っただけだ。
地上の戦闘は見ていた。崩れていくのも分かっていた。しかしレイアの目は、上空を旋回するワイバーンを追い続けていた。
大きい。風属性の魔力を纏っている——ただ纏っているんじゃない。刷り込まれている。体の中から滲み出ている。本来のワイバーンのものではない何かが、あの体を内側から満たしている。
腐った糸だ。
デニーの中にあったものと、同じ質のものが——ずっと大きな形で、あの翼の中を走っている。
「……そうか」
唇だけが動いた。
ワイバーンが翼を広げた。中央へ向けて、角度が定まる。
レイアは刀に触れた。
抜かない。
両手を、胸の前へ持ってきた。
掌を向かい合わせに、ほんの少しの隙間を作って構える。そこへ向けて、魔力を沈めていく。炎を出すときとは逆のやり方だ。外に出すのではなく、内側へ。深く、もっと深く。掌と掌の間の空間に、体の芯から絞り出すように圧縮していく。
熱くなる。
熱さではない——それよりも重い何かが、胸の前に集まってくる。
この変換を、最初に教えてくれたのは初代龍神だった。力を取り込んだあの夜、夢とも現とも分からない場所で、声だけが語りかけてきた。龍の血が持つ根源へ降りていけ。そこに、お前だけのものがある。
圧縮する。もっと。
外壁の下で誰かが叫んでいる。ワイバーンが翼を解き放とうとしている。
構わない。
今は、これだけに集中する。
龍の属性へ変換する——炎でも風でも水でもない、龍そのものの性質を帯びた力へ。圧力が限界に近づく。両の掌の間が、黒くなった。黒というより、光を飲み込む色だ。周囲の空気が僅かに歪む。足元の石が、細かく振動する。服の裾が、音もなくはためく。
ワイバーンの翼が、解き放たれた。
レイアは顔を上げた。空の、巨大な影を見上げた。
「あなたも同じ龍なら」
声は低い。戦場の喧騒の中では届かない声の大きさで、しかし確かに言った。
「支配なんてされて、誇りを失ったの?」
ワイバーンの黄色い目が、一瞬だけこちらを見た気がした。
レイアは両の掌を、空へ向けた。
「——源龍砲」
一瞬、世界が静止した。
黒が、ワイバーンに触れた。
次の瞬間——閃光が弾けた。光ではなく、黒の爆発だ。光を塗りつぶすような膨張が、夜空の一点で広がった。見ていた者たちは、目を焼かれたわけでもないのに、一瞬何も見えなくなった。
一拍。
それだけの間があった後——轟音が来た。
音ではなく、衝撃だった。空気が震え、外壁が揺れ、地面が跳ねた。近くにいた者は耳を押さえ、遠くにいた者は何が起きたか分からず空を見上げた。
そして——何もなかった。
ワイバーンがいた場所に、羽一枚、落ちてこない。
沈黙が、戦場を覆った。
地上の影たちが、動きを止めた。
半拍遅れて、変化が来た。
洗脳されていた魔物たちが——空の何かが消えた瞬間、縛っていた糸が断ち切られたように——一斉に我に返った。しかし我に返った先にあるのは、正気ではなかった。混乱だった。狂乱だった。
さっきまで自分たちを縛っていたものよりも遥かに大きな力を目にして、魔物たちの本能が弾けた。
吠え声が上がった。方向もなく、目的もなく、ただ恐怖で。
群れが崩れ、我先にと森へ向かって走り出す。その波に、商会側の人間たちが飲み込まれていく。悲鳴が上がる。踏み越えられる。
狂乱の濁流の中に、ノッドの姿があった。
商会長は逃げようとしていた。しかし足が絡まり、転んだ。起き上がる間もなく、数頭の魔物がその上を踏み越えていった。
それで終わりだった。
戦場の向こうで、誰かの人影が一つ、静かに消えた。レイアはそちらへ目を向けたが、もうそこには誰もいない。
やがて魔物の群れが遠ざかり、地上に残ったのは傷ついた人間と、燃え残った炎と、夜明けの光だけだった。
バーナードは長い間動かなかった。いや、動けなかった。
ルイが隣に立った。
「……支部長」「ああ」「あれは」「分からない」
ワイバーンがいた空は、今は何もない朝焼けの赤で満ちている。
「……F級だと言っていたな」「はい」「そうか」
それ以上、バーナードは何も言わなかった。
レイアは外壁から降り、路地の壁に背を預けた。
右の掌を開いて、閉じる。
目が、ギラリとした。一瞬だけ——視界の端が金色に染まった気がした。血が、疼く。もっと深いところから来る衝動だ。龍として在れ、という——存在そのものの引力だ。
息を、深く吐いた。
それだけで、元に戻った。
朝の光が、路地の入口から差し込んできた。
さてさて!楽しんで頂けましたでしょうか!おもろいやん!頑張ってくれぃ!等のお気持ちがあればぜひ評価の方お待ちしております!それではまた次回お会いいたしましょう!




