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獄炎の姫君〜失意の底で何を思ふ〜  作者: 蕎麦粉


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帝国編 11.龍は嵐の前夜に

こんちは!書きためてた小説を大放出いたします!

みんな大好きご都合主義なろう世界へ!レッツゴ〜!


朝の広場は、いつもと変わらなかった。


屋台が並び、荷運びの男たちが声を張り、子供が犬を追いかける。ゴルンの朝は騒がしく、活気があり、昨日と今日の区別がない。


それが崩れたのは、正午を少し過ぎた頃だった。


馬の蹄の音が遠くから近づいてきた。速い。普通の使いではない速さで、人ごみを割るように広場へ駆け込んでくる。


馬が止まる前に男は飛び降りた。埃だらけの格好で、顔には血の筋が一本走っている。膝が震えているのに、それでも走った。


「冒険者組合へ——組合へ通してくれ——!」


人垣が割れる。


広場の声が止まった。


男は組合の扉を蹴るように押し開け、受付を飛び越えそうな勢いで叫んだ。


「バーナード支部長を——すぐに——!」




執務室に人が集まるまで、三分もかからなかった。


バーナード、ルイ、受付の主任、それから廊下で話を聞いていたローデン。伝令の男は椅子に座らせられ、水を一口飲んで、震える声で言った。


「商会長が……宣戦布告をしました」


誰も声を出さなかった。


「北の街道、10里ほど先に——人とは呼べないものを……大勢連れています。魔物と、それから人も混じっています。動きが……おかしくて。ただ、まっすぐこちらへ向かってきます」


「いつ確認した」


バーナードの声は低く、揺れない。


「一刻ほど前です。早馬でもここまで——」


「分かった。よくやった。今すぐ治癒師のところへ行け」


伝令の男が扉の外へ出る。


沈黙が、執務室を満たした。


ルイは窓の外を見た。広場はまだ動いている。知らない人々が、知らないまま歩いている。


「揺れるな」


バーナードが言った。




それからの一時間は、静かな混乱だった。


鐘が鳴った。ゴルンで非常の鐘が鳴るのは、記録を繰れば十数年ぶりのことらしい。低く長い音が三度繰り返され、街の空気が変わった。


屋台が畳まれる。子供が呼び戻される。通りを走る者が増え、組合の前に人だかりができる。


ルイは走りながら、手分けして動いた。


避難の誘導、武具の配布、冒険者の招集。しかしどれも、思うように進まなかった。


「B級以上は今、ほとんど街にいません」


部下が報告する。長期依頼で遠征中の者、別の街へ移った者、任務で不在の者——普段ならば頭数になる上級の冒険者が、今日に限ってごっそり抜けていた。


「C級でまとめろ。組める者を組め」


「はい。ただ——」


「なんだ」


「D級以下に、動けない者が続出しています。昨日から急に。組合の医務室がいっぱいで——」


ルイは立ち止まった。


「症状は」


「夢を見ているようにぼんやりしていて、呼びかけに反応が薄い。熱はない。でも立てない者もいて」


デニーと同じだ。


薬が回っている。商会の配給を受けた者たちが、今日この日に動けなくなっている。


偶然ではない。最初からそういう計算だったのか——ルイは奥歯を噛んだ。答えを出している場合ではなかった。


「動ける者だけで動く。名簿を出せ」




臨時の会議は夕刻に開かれた。


バーナード、ルイ、無事だったC級以上の冒険者数名、組合の事務方。人数は少ない。


「北街道からの接近は確認済みだ。一刻後には外壁の射程に入る。夜明け前には接触する可能性がある」


地図が広げられ、指が動く。


「住民の避難は第三区画まで完了した。第一・第二区画は今夜中に終わらせる。前線は外壁から三十間の位置に設ける」


「戦力は?」


「まともに動けるのは70に届かない。本来の半分以下だ」


空気が重くなった。


「商会長の宣戦理由は公にはしていない。しかし噂は広まっている——商会長の背後に別の人物がいると。街の者が口にし始めた。側近と呼ばれる者がいるらしいが、何者かは誰も知らない」


「今夜は守りに徹する。攻めない。削られても、ここを守る」


バーナードの声は変わらない。


「各自、配置につけ」


人が動き始めた。




北の方角から、風が変わった。


レイアは街の外れで、その変化を感じていた。


組合の会議には出ていない。呼ばれてもいないし、出る気もなかった。ただ外へ出て、遠くを見ていた。


空気の質が違う。獣の匂いとも、土の匂いとも違う——腐ったものが遠くから漂ってくるような、あの感触。呪殺教団の村で嗅いだものに近い。デニーの手首に触れたときの、あの腐った糸のような感触にも似ている。


遠目に、黒い影がある。木立の向こうに、密度がある。まだ姿は分からない。だが動いている。まっすぐ、こちらへ。


統率されている。自分たちの意志で動いているんじゃない。動かされている。


夜になった。


レイアは寮の自室に戻り、刀を手入れした。


布で刃を拭い、油を引く。鞘の状態を確かめ、柄の巻きを指で確認する。一つ一つ、静かにやる。


街の外から、遠い音が届く。風ではない。何かが、近づいている。


デニーのことを思った。森で振り返ったあの目。遠くを見ていた目。声が聞こえると言っていた。


あの声が、あの軍勢にも届いているのか。


だとすれば、倒すべきは軍勢ではない。声の出所だ。


刀を鞘に収めた。


守るものは何か——街でも、人でも、義でもない。まだそこまで根が張っていない。でも、デニーのことは嫌だった。あの目が嫌だった。自分の意志じゃないものに引きずられて、仲間を傷つけて、それを「使命」だと信じていた——あの姿が。


使徒も、そうだった。


意志を奪う。誇りを奪う。それが、何よりも許せない。


窓の外で、鐘が一度だけ鳴った。


レイアは立ち上がり、上着を羽織った。

さてさて!楽しんで頂けましたでしょうか!おもろいやん!頑張ってくれぃ!等のお気持ちがあればぜひ評価の方お待ちしております!それではまた次回お会いいたしましょう!

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