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獄炎の姫君〜失意の底で何を思ふ〜  作者: 蕎麦粉


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帝国編 8.龍の疑念は確証へ

こんちは!書きためてた小説を大放出いたします!

みんな大好きご都合主義なろう世界へ!レッツゴ〜!

「なあ、デニー。あの薬、飲んだか?」


「飲んだよ。配給所のヤツ、ありがたーくのませてもらったぜ。」


「あのよぉ……なんか、最近目つきが変わったって皆言ってるぞ?」


「うるせえよ、気にすんなって」


酒場の角、薄暗いランプの下で交わされたのは軽口にも見えた。だがバートンとノーラの顔には、ただの冗談ではない戸惑いがのこっている。デニーは笑って小瓶を揺らし、琥珀色の液を指で確かめるように舐めた。


「疲労回復って書いてあったんだ。効いたよ、ぐっすり眠れた」


と彼は肩をすくめる。周囲の者は「それは良かった」と拍手し、善意の空気が流れた。商会の配給は街で歓迎されていた──誰も、その先に何があるかは疑っていなかった。


それから数日。ノーラは台所仕事の手を止め、バートンに耳打ちした。


「ねえ、デニー、また森に行ってるんだって」


「一人で?」


「うん。深く入っていくの。誰にも言わずに」


「気にしすぎじゃないか?」


「でも、目が前よりももっとずっと険しいんだよ…笑ってても、なんか別人みたい」


だが「最近あんたおかしいよ?」という台詞は、いつの間にかデニーの耳に届いていた。ある夜、ノーラが直接問いただすと、デニーは眉を寄せた。


「なんだよそれ。別に普通だって言ってるだろ」


苛立ちを隠せない彼に、仲間の軽い注意が刺さる。言葉はさざ波に過ぎぬはずだったが、彼の内側では何かが確実に変わっていった。


翌朝、森の縁。青い朝露の匂いのなかで、デニーは一人で立っていた。手には小瓶が一本、蓋を外しては指先に数滴を垂らす。


その液は、木の根元に近寄る野兎や小鳥に向けられ、驚くほど素直に彼らは集まってきた。動物たちはいつもなら敏捷に逃げるはずなのに、今は静かに脚を折っている。


「デニー、何してるの?」


とノーラが呼ぶ。声は緊張している。デニーは振り向き、口角を吊り上げたように見せるが、その眼は薄く光っている。


「関係ないって言ってるだろ。放っとけよ」


と彼は低く言う。その返答には微かな確信が混じっていた。


「それ、なんなの…あんたほんとにあの商会の薬…あれ、飲んでからおかしくなったんじゃないの?」


ノーラが踏み込む。問いは静かだったが、デニーの顔に何かが走る。


「………邪神様が言ってるんだ。従えば稼げる、ランクも上がる。俺は選ばれたんだ」


最初は小声だったその言葉が、繰り返すうちに震えを帯びて大きくなる。まるで自分自身をなだめる呪文を唱えているかのようだ。


「何言ってんのかわかんないよ!ちゃんとこっちを見て!」


ノーラは腕を掴んで制止しようとした。だがデニーの手は力強く、ノーラの腕を払いのけると、片手をぐっと振り上げて頬を打った。乾いた音が森に響き、ノーラは一歩後退して膝をつき、口元に血を滲ませる。驚きと痛みと、裏切りの色が彼女の顔を支配した。


「冗談がすぎるぞ…デニー」とバートンが飛び込む。


だがデニーは怯むことなく、バートンを睨みつける。


「離れろ。邪魔するな。お前らには分かんねえんだ」


彼の声は、どこか遠い者の代弁のように聞こえた。バートンが前に出て腕を掴もうとするが、デニーは軽く振りほどき、森の奥へと歩き出す。足取りは乱れながらも、確固たる目的を帯びているように見えた。


ノーラは震える声で叫んだ。


「デニー、戻ってきて! お願いだから!」


だがその叫びは追跡を阻むように空にこだまし、ほどなく消えた。ノーラは震える手で頬を押さえ、息を呑む。


「もうっ…知らない!」


そう言ってノーラは走って街までもどっしまった。1人立ち尽くしてしまったバートンはデニーのことは気に掛かったが今はノーラのことが心配で街へ戻ることにした。



協会の執務室は昼下がりの光で白く乾いていた。扉を押し開けたレイアは、机の一つに視線を止める。書類の山に突っ伏す影がある。


「ノーラ、あんた……何してるの?」


顔を上げたのはノーラだった。頬に赤い痕がうっすら残り、目は腫れている。だが泣き叫ぶ様子はない。唇を引き結び、明らかに不機嫌だった。


「別に。休んでるだけ」


「だったら宿に戻ればいいのに。依頼はもう終わったの?デニーたちは?」


その名を聞いた瞬間、ノーラの眉がぴくりと動く。


「知らない。勝手にどっか行った」


「なんかあったの?」


ノーラは舌打ちしそうな顔で体を起こす。


「あいつ、最近ずっと一人で森に入ってた。だから危ないしやめよって止めたら殴られた。それだけ」


「殴られた?」レイアの視線が頬へ落ちる。


「たいしたことない。けどムカつく。意味わかんないこと言い出してさ。『邪神様が言ってる』とか。『選ばれた』とか。は?って感じ」


「邪神、て言ったの?」


レイアの目がギラリと剣呑な光を帯びる。


「言った。何回も。私が止めたら、目が据わっててさ。話通じないし、いきなり殴るし」


ノーラは机を拳で軽く叩く。怒りはまだ冷えていないようだ。


「原因に心当たりは」


「……知らない」


即答しかけて、言葉が止まる。視線が泳ぎ、苛立ちが曇りに変わる。


「でも」


「でも?」


「数日前、商会の配給所で薬もらってた。疲労に効くってやつ。最初は普通だった。でも、飲み始めてから様子がおかしい気がする。気のせいかもしれないけど」


「確証はない、か」


「ないよ。私だって決めつけたくない。あんな優しい商会長が変なことするはずないって…でもタイミングがそこなんだよ」


沈黙が落ちる。レイアは一歩引き、状況を整理する。


「森のどの辺り?場所教えて。少しデニーと話したい」


「楢の大木の奥。小動物が多いところ。そこでなんか、小瓶の中身を直接垂らしてたの」


ノーラは頬を触る。怒りと悔しさが混じるが、涙はない。


「じゃあ私は少し出かけるよ。」


レイアはそれだけ言って踵を返す。


「私も行く」


「別にいいのに」


「嫌だ。放っとけない」


即答だった。レイアは一瞬だけノーラを見る。


「いいけど…ついてきてねちゃんと」


「足手まといにはならないから」


森へ向かう道を二人で進む。乾いた枝を踏み分けながら、ノーラがぽつりと続ける。


「殴る直前もさ、『邪神様が言ってるんだ。俺は選ばれた』って。誰かに褒められてるみたいな顔だった。あいつ、そんなやつじゃなかったのに」


その言葉を聞いた瞬間、レイアの歩幅がわずかに広がる。


「声を“聞いた”と言ったの?」


「うん。そういう言い方だった」


「……急ぐよ。取り返しがつかなくなる前に」


レイアの速度が上がる。森の奥から、かすかな魔力の歪みが流れてくる。以前嗅いだ不快な感触に近い。


やがて、前方に人影が見える。背中を向け、何かに手を伸ばしている男。


「デニー」


低い声が森を裂いた。


彼はゆっくり振り返る。目が、以前とは違う光を帯びていた。

さてさて!楽しんで頂けましたでしょうか!おもろいやん!頑張ってくれぃ!等のお気持ちがあればぜひ評価の方お待ちしております!それではまた次回お会いいたしましょう!

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