表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獄炎の姫君〜失意の底で何を思ふ〜  作者: 蕎麦粉


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/67

帝国編 8.龍への疑念

こんちは!書きためてた小説を大放出いたします!

みんな大好きご都合主義なろう世界へ!レッツゴ〜!

朝の執務室は紙の擦れる音と、燃え残りの煤の匂いだけを抱えていた。窓から差す光は弱く、積まれた書類の縁だけをわずかに照らす。冒険者協会ゴルン支部支部長バーナードは机の向こうに座ったまま、ゆっくりとため息をついた。


そこへ呼び出しを受けたルイが現れ資料を渡す。


「村での報告をまとめました。聞き取りの一覧、現場で拾ったメモ類です」


書類を受け取る指先にわずかな緊張が残る。ページを捲りながら短く問う。


「死傷の規模は?」


「確認できただけで五名の死亡、負傷多数。長は瀕死の状態で治癒師たちのところへ搬入しています。ただし、現段階で外に出していい情報ではなあと感じてあるので素性などは公にはしていません。」


声は抑えられている。外に出れば噂が雪だるま式に広がり、余計な混乱を招く。だから内部で処理することにしたのだ。資料の隅に押し込んだメモをひとつ示す。


「現場の証言に一つ共通点があるようだな。黒髪の女性が単独で救助に入った、という報告が複数ある。名乗らず、その場を去ったと」


「えぇ。僕も何者なのかは分かりませんが長を私たちに投げ捨ててその場を去っていきました。夕焼けで顔はあまり見えませんでしたが、あの冷たい目だけはなんだか忘れられません……」


机の上に静寂が落ちる。書類の端同士が触れる細い音だけが残る。考えをまとめるように息を吐いて、問いを重ねる。


「統率された動き、という指摘はあるか」


「はい。あの村の存在などは偶発の混乱ではなく、意図的に組織された痕跡が見えました。魔力の痕跡も通常なものとは違う…なんらかの跡が見えていました。だが、それが何かを示すには証言を固める必要があると思います。」


淡々としたやり取りだが、両者の間で危機感は確実に共有されていた。公式に動くには時間がかかる。時間がかかることは危険を孕む。


扉が開いて、気配もなく入ってきた人物が一言だけ放った。口調に酔いの残る軽さはあるが、言葉の重みは薄くない。


「そういえば最近、冒険者講習会で黒髪の無駄のない太刀筋の娘を見た。森から出てきたボアを事もなげに切り捨てていたな…あの少女は只者ではない」


その一言で室内の空気が締まる。説明はない。だが者の目が確信を帯びるとき、説明は不要になることがある。視線が交換され、短い沈黙のあとに実務的な決断が積み上がる。


「その情報は内用だ。外部に出すべきではない。現段階での公表は控えろ。騒ぎを招けば、被害は拡大する」


バーナードの声は抑制的だが強い。公にしない理由は明白だ。村の被害が公になれば、救済活動は混乱し、悪意ある者の興味を呼ぶ。


「聞き取りを徹底する。現場に戻れる者は戻す。痕跡の採取。可能な限り内密に、だ」


指示は速い。必要最小限の人員で動く手配が決まり、動員表が書き直される音だけが響いた。


会議は短く、要点だけで済ませられた。まるで切迫した手術の手順を確認する執刀チームのように、言葉は簡潔で無駄がない。


参加者は互いに目配せをし、場面ごとの役割とリスクを呑み込む。だが終わりの合図が出ても、胸の内の重さは消えない。外側の日常と、内側の緊張が乖離していることを誰もが知っている。


廊下へ出ると朝の空気が身体を撫でる。市場のほうからは屋台の準備音、買い物客の声が届き、日常は変わらずに回っている。しかし、会議室で決められた「内密に進める」という合意は、静かな緊迫を街に持ち帰ることを意味した。


角を曲がると、通りの一角に臨時の配給所が設えられていた。並べられた小瓶、テーブルに載せられた包み、整理を仕切る職員の手つき。人々は列をなしており、感謝の声が小さくあがっている。善意の空気がそこに満ちていた。


「こんなにも街は平和だっていうのに…なんでまた不安な気持ちがよぎるんだろうな」


ポツリと呟くルイの声は誰にも届かない。


配給所の傍らに立つ男は、大きく派手ではないが、落ち着いた身なりで一人一人に丁寧に接している。ゴルン最大級の商会、ノッド商会を取り仕切るやり手の商会長ノッドであった。


表情に作り物の明るさはなく、誠実さと礼儀が滲んでいた。群衆は静かに頭を下げ、声を返す。


「無理をなさらぬように。必要なら配達も手配しますからね!ゴルンはあなた方冒険者によって支えられているのですから。」


その声は低く穏やかで、強制や誇示の匂いがない。善意はここでは実務のように振る舞っているだけだ。


遠目から眺めると、その光景は救済そのものに見える。会議で確認された「内密に進める」決定と、市井に広がる善意の活動は同じ空間に同居している。


何も因果を断定する根拠はまだない。だが、一方で、資料に残された断片――黒髪の目撃、魔力の質の異常、魔の森の雑然――が静かに線を引き始めていることも確かだった。


歩きながら短く呟く。


「まずはその冒険者講習で見たっていう女の子を探そうか…」


答えは出ない。だが動きは定まった。朝の市は変わらず動き、支部を出た者たちは各々の役割へと戻っていく。内部に抱えた問いを胸に、誰もが一歩を踏み出した。――静かに、確実に。

さてさて!楽しんで頂けましたでしょうか!おもろいやん!頑張ってくれぃ!等のお気持ちがあればぜひ評価の方お待ちしております!それではまた次回お会いいたしましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ