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獄炎の姫君〜失意の底で何を思ふ〜  作者: 蕎麦粉


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帝国編 2.龍の試練は

こんちは!書きためてた小説を大放出いたします!

みんな大好きご都合主義なろう世界へ!レッツゴ〜!

倒れ伏した巨躯の向こうで、魔の山は低く鳴っている。風が岩肌を舐め、土の奥で何かが動く音が、一定の間隔で続いていた。静寂ではない。待機だ。


「……しつこいな」


レイアは短く息を吐き、華焔を握り直した。刃は血を吸ってなお冴え、手の中でわずかに熱を帯びている。腕は重い。脚も、正直に言えば震えていた。それでも、立っていられないほどではない。


一歩、前へ出る。


それを合図にしたかのように、岩陰から影が現れた。先ほどの群れとは違う。数は少ないが、一体一体の輪郭がはっきりしている。身体は細く、骨ばった手足が長い。目が合った瞬間、ぞくりと寒気が走った。


「……さっきのより、やばい…圧倒的に…」


言葉は誰に向けたものでもなかった。


魔物は速かった。音もなく距離を詰め、鋭い爪が喉元を狙う。反射的に身を捻り、刃を立てる。金属と爪が擦れ、甲高い音が夜に散った。


「っ……!」


重い。

受けた瞬間、腕が持っていかれそうになる。


今までの敵とは、質が違う。

魔力を喰らって育った魔物というより、この山に“適応した”存在だ。


「だったら……」


レイアは後退しない。

一歩踏み込み、刃を横に走らせる。浅い。だが、狙いはそこではない。魔物が反応して重心をずらした、その瞬間に、足元を斬る。

迷宮でであった武者にも通じた策。


地面に爪が突き刺さり、体勢が崩れる。


「今だ」


小さく呟き、首元へ刃を滑らせる。

炎は上げない。

必要ない。


魔物は声もなく崩れ落ち、黒い霧のような魔力が散った。空気が、また少しだけ軽くなる。

華焔が霧をうっすらと飲み込んだ。


だが、終わりではない。


次の一体が来る。

その次も。


レイアは歯を食いしばりながら、動き続けた。

一体ずつ、確実に。

派手な斬撃は捨て、致命点だけを拾う。


呼吸が乱れ、視界の端が滲む。

それでも、刃は鈍らない。


「……華焔」


名を呼ぶと、剣がわずかに応じた。

熱が手のひらに集まるが、暴れはしない。

剣と自分の距離が、ほんの少し縮まった気がした。


最後の一体が倒れたとき、レイアはその場に片膝をついた。

息が苦しい。

喉が焼けるようだ。


「……はぁ……」


夜の冷気が、汗を奪っていく。

しばらく動けず、ただ呼吸を整えることに専念した。


どれくらい経っただろう。

山の奥から聞こえていた気配が、次第に遠のいていく。


魔の山は、これ以上追ってこない。

そう判断した。


「……合格、ってこと?」


自嘲気味に呟き、立ち上がる。

山が試すのは、強さだけではない。

引き際も含めて、だ。


無論山の麓のみを歩いていてこうなっている。

登れば登るほどより悪魔的な…あの獄門龍に近い雰囲気を感じた…


東の空が、わずかに白み始めていた。

夜明けだ。


レイアは歩き出す。

足取りは重いが、止まらない。


やがて、山の向こう側が見えた。

濃かった空気が薄れ、風の匂いが変わる。


「……外だ」


魔の山を、越えた。


振り返ることはしない。

振り返れば、また試される気がした。


遠く、平原の向こうに、人の営みの気配がある。

道。

煙。

小さな建物の影。


(あっちが……バルバドス、か)


帝国は、まだ遠い。

だが、確かにこの先にある。


レイアは華焔を鞘に納め、もう一度だけ深く息を吸った。


「……行くか」


それは誰に言うでもない、次の一歩の合図だった。


――しばらく歩く。森が始まるまでに、足はさらに重くなった。

木立に入ると、湿り気が肌にまとわりつき、葉擦れが軋む。魔の山と違って、ここには人の匂いが混じる。


誰かがこの道を通った痕跡だ。足を進めるごとに、里の匂いが薄れ、別の世界の気配が増していく。


だが、身体はまだ山の余韻に縛られている。膝が笑い、呼吸が浅くなり、傷口が冷えていく。彼女は木陰に身を寄せ、刃を柄に添えたまま、目を閉じて短く休む。


心臓はゆっくり戻るが、耳は敏感だ。遠くで、金属が触れ合う鈍い音が聞こえると、反射的に体を低くする。


視界の隙間から覗くと、小さな開けで三人が膠着していた。弓を引く女、剣を振るう若者、何か言葉を唱え魔術を発動させる中年の男。装備は粗末で、動きには荒さがある。


獣が一体、彼らを圧しているが、動きに確かな異様さがあった。魔の山で見た動きとどこか似ている。だが、今は助けない。足は、まだ人の輪に踏み込む覚悟を持たない。


レイアは影に潜み、息を殺す。木の葉が顔を掠め、世界は彼女と三人の間で細く引き伸ばされる。


――ーーーーー


「こんな強さ、聞いてねえぞ!」

剣を振るう若者が叫ぶ。声は裏返り、苛立ちと恐れが混ざる。


「デニー、無理するなってば!」

弓手のノーラが矢を放つ。だが矢は軸を外し、獣の反応に追いつけない。


「術が跳ね返されたぞ! なんだこの強さは」

バートンが地面に手を当て、詠唱を続ける。詞は切迫して雑になる。


「おい、このままじゃ持たねえ!」

デニーが再び前に出るが、刃先はかすり傷を与えるのが精一杯だ。獣の皮膚は瞬時に引き締まり、血はすぐに止まる。三人の連携は崩れ、風が彼らの周りを吹き抜ける。


「ノーラ、距離を取れ! バートン、余計な詠唱はやめろ!」

デニーの声が焦る。ノーラは矢を構え直すが、目が泳ぐ。バートンは詠唱を切り、杖を握りしめて彼らを鼓舞する。


「こんなはずじゃなかったわよ……」


ノーラが荒い息を吐く。


「うるせえ、今は黙って動け!」


デニーが返すが、声が震えている。


森の奥、茂みの陰に隠れたまま、レイアは三人の会話を聞く。彼らの動揺、必死さ。見ているだけで胸が締め付けられるが、まだ動かない。助けることはできる。だが――彼女は自分の恐れと、誰かの死を見過ごしたくない気持ちの間で揺れている。


「術が通らないってことは、魔の山の残滓が流れてるのか?」


バートンが小声で言う。だが確証はない。ノーラは唇を噛み、デニーは短く拳を握る。


木の葉が静かに揺れ、鳥の声がどこかで途切れる。三人は息を整え、再び体勢を整え直す。だが、彼らの背後には森の深みがあり、そこから別の気配が這い出してくる可能性を、まだ誰も知らない。


レイアは刃を軽く握る。背中に、誰かの目線が刺さるようで、震えが走る。だが、まだ一歩は踏み出さない。彼女はただ、三人の声を耳に留め、森の影の中でそれを胸にしまった。

さてさて!楽しんで頂けましたでしょうか!おもろいやん!頑張ってくれぃ!等のお気持ちがあればぜひ評価の方お待ちしております!それではまた次回お会いいたしましょう!

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