迷宮編 5.龍は真を知りて道を歩む
こんちは!書きためてた小説を大放出いたします!
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11層までレイアは降り立った。
呼吸を整える。
魔力の流れを意識する必要はない。すでに身体の一部として定着している。十層で無理やりに叩き直された精神が、肉体が、今も残っていた。
足音が、これまでよりも鈍く返ってくる。石質が変わっている。壁面には苔のようなものが薄く広がり、ところどころに黒く乾いた血痕が残っていた。ここまで辿り着いた者が、少なからずいた証だ。
またいつものように、霊が現れる。
十一層に漂うそれは、八層や九層のように感情を剥き出しにはしない。ただ迷宮に縛られ、形を保っているだけの存在だ。
レイアは立ち止まらない。
踏み込み、炎を走らせ、切る。
それだけで霊は霧散した。
戦闘と呼ぶほどの手応えはない。
かといって、油断も一切なかった。肉体は自然と最短の動きを選び、無駄な力を使わずに進んでいる。
十二層、十三層。
層を降りていくたびに少しずつ罠が増えていく。床に刻まれた魔術陣、視界を歪める霧、踏み込んだ瞬間に重力が反転する空間。だが、いずれも致命的ではない。
以前なら、確認に時間をかけていただろう。
だが今は、違和感を感じた瞬間にぴたりと足が止まり、視線が走る。理由を言語化する前に、身体が正解を選んでいる。
十三層の終わり際、やや大きな魔物が姿を現した。
四肢が異様に長く、関節の向きが人とは真逆だ。動きは速いが、癖がある。
レイアは距離を取らない。
炎を撃たず、剣も作らない。ただ一歩踏み込み、首の可動域に炎を纏った手刀を通す。
終わりだ。
十五層に差し掛かった頃、ようやく足を止める理由が現れた。
広めの空間の中央に、ひときわ大きな影が立っている。
牛の頭を持つ鬼。
角は欠け、皮膚には無数の傷が走っている。ここまでに何度も戦ってきたのだろう。絶対の自信を持った顔とその手にはいく人もの命を屠ってきたであろうハルバートが握られていた。だが、それはレイアにとって、特別な存在であることを示してはいない。ただ生き残ってきただけだ。
武器を振り上げた瞬間、空気が唸る。
一撃が重い。直撃すれば、骨が砕けるのは必死だろう。
レイアは正面から受けない。
炎で視界を焼き、回り込み、膝関節を狙う。
もちろん猛り狂った牛頭に反撃を受け、二度ほど距離を詰め損ねたが、それ以上の被害はない。
最後は、踏み込みからの一閃。
牛頭は膝をつき、そのまま崩れ落ちた。
が流石は迷宮に潜む魔物。止まることなく武器を振り回し必死に近づけまいとする。
「そっちが武器使うなら私も使うよ」
手から湧き出した炎は剣の形をとる。炎の剣とぶつかった牛頭のハルバートはどろりと溶け出しその機能を失っていく。武器を失い最後まで拳で抗った牛頭はレイアによって燃え滓となり消えた。
息を整えながら、レイアは次の階段を見る。
もちろん戦闘後の疲労は少なからずある。だが、進めないほどではない。以前なら場間違いなくこの時点で立ち止まっていただろう。それだけは、はっきりと分かる。
十六層から十九層にかけては、淡々としていた。
敵は出る。罠もある。それでも、流れは止まらない。迷宮を「攻略している」という感覚より、「通過している」という感覚が強い。
そして、たどり着いた第二十層。
階段を降り切った瞬間、レイアは足を止めた。
理由は明確だった。
静かすぎる。
音がない。
霊の気配も、魔物の息遣いも、罠特有の緊張感も感じられない。広い空間が、何も起きないまま広がっている。
中央に、ポツリと1人の人影があった。
青年だった。
武器は持っていないし、かといって徒手空拳で戦うような構える様子もない。ただ、そこに立っている。迷宮の中にいるにしては、不自然なほど落ち着いている。
レイアは距離を保ったまま、声をかける。
「……あんた、何者?」
青年はすぐには答えない。
一拍置いてから、こちらを見た。その視線に敵意はない。だが、どこか懐かしむような色が混じっていた。
「ここまで来たのは、君が初めてじゃない」
それが、彼の最初の言葉だった。
青年はアルバスと名乗った。
かつてこの迷宮に挑んだ者だと言い、レイアの反応を確かめるように一拍置く。
「僕のここにきた目的は単純だったんだ。地獄に落ちた恋人を、連れ戻すことさ。あぁ、地獄に落ちたからって彼女が悪いわけじゃ無い。卑しい奴らに嵌められただけさ。」
レイアは眉を動かしただけで、口は挟まない。
「この迷宮は、偶然できたものじゃない。最初から通路として大昔に作られたものさ。この世と、あの世を繋ぐためにね」
一瞬、言葉を選ぶ間があった。
「正確には、地獄かな?」
レイアは視線を上げる。
「……じゃあ、艶桜は」
「国の名前であって国の名前じゃ無い」
アルバスは即座に否定する。
「この迷宮の名だ。地獄を閉じるための鍵であり、封印そのもの。艶桜という国は、その機能を維持するために存在していたにすぎない。僕が入ってから誰かが迷宮自体への立ち入りを封印してたけどそんなものじゃ無いよこれは」
言葉は淡々としていたが、そこには長い時間をかけて受け入れた事実の重さがあった。
「国が機能している限り、門は閉じられていた。獄門龍は、動けなかった」
レイアはゆっくりと問い返す。
「獄門龍?」
「獄門龍・艶桜。地獄の門を守る看守だ。」
レイアは、これまでの迷宮の異様さを思い返す。
ただの守護者ではない、構造そのものに干渉する力。ただの人間や龍人が挑めば五層すら突破できず死に絶えるだろう。
「あ、あとね!この迷宮は二十五層で終わりじゃない」
アルバスは続ける。
「地獄側にも、同じ構造がある。地上に二十五層、地獄に二十五層。合わせて五十層。それが、この迷宮の全貌だ」
レイアは静かに息を呑む。
「……そこまで、行ったの?」
「ああ」
短く答え、視線を伏せる。
「地獄の最奥で、やっと…やっと恋人を見つけた。連れ出すこともできた」
一拍。
「だが、代償があった。見てよこれ。」
青年がハラリと自分の服を捲る。その体にはびっちりと大量の文字が刻まれていた。
レイアは察したように口を開く。
「呪い……?」
「そうだ」
アルバスは肯定する。
「獄門龍の呪いによって、俺たちは迷宮から出られなくなった。迷宮の地上部に戻った時点で、もう生きても死んでもいなかった」
その言葉は、悔恨よりも諦観に近かった。
「それでも、艶桜の国が存在している間は、獄門龍は動けなかった。僕らの魂を探し続けながらも、門の内側に縛られていた」
アルバスは、ゆっくりとレイアを見る。
「だが、今は違う」
レイアの喉が、わずかに鳴る。
「国が滅びた……」
「封印が、失われつつある」
静かな断言だった。
「門が完全に開けば、地獄に閉じ込められていた無数の霊と怪物が、この世に溢れ出す」
「……止められないの?」
問いに、アルバスは首を振る。
「俺には、もう力がない。存在すらもこうして保っているだけだ」
一歩、レイアに近づく。
「だから…ずっと待っていたんだよ。ここまで辿り着ける者を」
そして、はっきりと告げる。
「二十五層に行ってほしい」
レイアは黙って聞いていたが、視線だけは逸らさない。
「門を閉じられるのは、生きていて、力を持つ君だけだ」
長い沈黙。
やがて、レイアは小さく息を吐いた。
「……わかった」
短い答えだったが、揺れはなかった。
アルバスは、ようやく微笑む。
「ありがとう。それだけで、救われる」
青年の輪郭が、少しずつ薄れていく。
レイアは一人、次の階段へと視線を向けた。
二十一層。
地獄の門への第一歩。
彼女は、歩き出す。
さてさて!楽しんで頂けましたでしょうか!おもろいやん!頑張ってくれぃ!等のお気持ちがあればぜひ評価の方お待ちしております!それではまた次回お会いいたしましょう!




