客人?
選ばなかった道は、消えるわけじゃない。
背を向けた先で、確実に何かが進んでいる。
答えを探すための探索は、いつしか
「ここがどんな場所なのか」を突きつけてくる。
少女に指輪を渡されてから、港はしばらくその場に立ち尽くしていた。
扉の向こうへ消えていった背中が、脳裏から離れない。
やがて小さく息を吐き、港は現実に意識を戻した。
「……とりあえず、だな」
ここに留まっていても何も起きない。
脱出の糸口を探すため、まずは使えそうなものがないか周囲を調べることにした。
部屋を漁ると、目に入ったのは厚手のローブだった。
古びてはいるが、触るとまだ温もりを感じる。
もう一つ、小さな古いバッグも見つけた。中身は空だが、持ち運びには都合が良さそうだ。
ローブを羽織り、バッグを肩にかける。
それだけで、少しだけ“外に出られる気”がした。
港は屋敷の周囲を探索し始めた。
目的はひとつ――ここから出るための手がかりを見つけること。
探索を続けるうちに、いくつかの事実がはっきりしてきた。
ひとつ目。
屋敷の広さは、明らかに異常だった。
外から見た印象と、内部を歩いた距離がまるで噛み合わない。
歩いても歩いても、終わりが見えない。
ふたつ目。
村には、人がいない。
家屋はあり、生活の痕跡も残っている。
だが、気配がない。
あまりにも静かで、最初から誰もいなかったかのようだった。
みっつ目。
鍵と指輪は、今のところ使える場所が見つからない。
意味を持っていそうなのに、役割が分からない。
持っているだけでは、何も変わらなかった。
そして、よっつ目。
川の奥にある洞窟の中で、港はそれを見つけた。
どこかで見たことのある――赤い扉。
だが、そこへ続く橋は上がっており、近づくことができない。
扉は確かに存在しているのに、行けない。
まるで「今はまだ来るな」と言われているようだった。
港は一度、足を止めた。
「……つまり」
頭の中で、情報を整理する。
広すぎる屋敷。
人のいない村。
使えない鍵と指輪。
行けない赤い扉。
それ以外に、成果と呼べるものは何もなかった。
最後に調べられそうな場所――
それは、少女が入っていった、あの扉だけだった。
屋敷へ戻り、その扉の前に立つ。
港はゆっくりと、手を伸ばした。
その瞬間。
「あら、お客さん?」
背後から、柔らかい声がかけられた。
出口を探すほど、この場所の異常さが浮き彫りになる。
何もないことが、最大の手がかり。
そして、最も調べたくなかった場所に、
最も自然な形で“何か”は現れる。
――客とは、誰のことなのか。
次の扉は、開ける前からもう、開いている。




