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Dream memory  作者: まっき
6/9

現実か夢か

夢の中で人と出会ったとき、

それは本当に「誰か」なのだろうか。


記憶の断片か、想像か、

それとも——こちらを知っている何かなのか。


この場所では、

人がいることが安心にはならない。


むしろ、

人がいるという事実そのものが、異常なのだ。


屋敷は、近づくほどに大きく見えた。

いや、正確には——近づいている実感がないのに、存在感だけが増していく。


「……相変わらず、距離感おかしいな」


雪を踏みしめながら、夢乃港はぼやく。

吐く息は白く、風に引き裂かれてすぐ消えた。


正面の扉は重厚だった。

濃い色の木材に、金属の装飾。

長い時間、ここに在り続けていることだけは伝わってくる。


「……入るしか、ねぇよな」


取っ手に手をかけた、その瞬間。


「何してるの?」


声がした。


「……っ!」


心臓が一拍、遅れて跳ねる。

反射的に振り返った。


そこにいたのは——

中学生くらいの少女だった。


雪の中に立っているのに、寒そうな様子はない。

服装は村の雰囲気に溶け込んでいるはずなのに、どこか現実味が薄い。


「……人、いたのかよ」


声が、思ったよりも低く出た。


それと同時に、別の感情が胸に湧き上がる。

驚きとは違う。

安堵でもない。


——恐怖だ。


(……知らない顔だ)


夢乃港は、無意識に一歩下がっていた。

夢の中に出てくる人間は、基本的に知っている顔だ。

断片的に見たことのある他人。

記憶の引き出しに、必ず元がある。


(……見たこと、ない)


少女の顔には、引っかかりが一切なかった。

記憶を探っても、何も出てこない。


「……夢、だよな?」


自分に言い聞かせるように呟く。

だが、その言葉は、さっきよりずっと弱かった。


少女は、こちらをじっと見ている。

警戒も、好奇心も、感情の輪郭が曖昧だ。


港は一歩、距離を取った。

雪を踏む音が、やけに大きく聞こえる。


港「き……君は、何者なんだ……?」


声が少しだけ上ずった。

質問を投げた瞬間、自分でも分かるほど緊張している。


少女「……?」


少女はきょとんとした表情を浮かべ、首を傾げる。


少女「あなたこそ、何者?」


質問に質問を返され、言葉が詰まる。

想定していなかった返しだった。


(……まずいな)


頭の中で、警鐘が鳴る。

ここは夢だ。

現実じゃない。

だからこそ、何が正解なのか分からない。


(得体の知れない相手に、素性を話していいのか……?)


一瞬の逡巡のあと、港は言葉を選んだ。


港「オレは……港。

ただの、一般人だ」


自分で言っておいて、妙な違和感が残る。

嘘ではない。

だが、真実を全部言っているわけでもなかった。


少女は港をじっと見つめる。

視線が逸れない。

疑っているのか、観察しているのか、その区別がつかない。


そして、ゆっくりと口を開いた。


少女「……どうして、嘘をつくの?」


胸の奥が、ひくりと鳴った。


港「嘘なんか——」


反射的に否定しかけて、言葉を止める。

否定できる。

否定する自信もある。


(オレは嘘をついてない)


それは事実だった。


それでも、少女の目を見ていると、

“そう言い切っていいのか”という別の疑問が湧いてくる。


警戒心は消えない。

むしろ、じわじわと形を持ち始めていた。


港「嘘はついていない!

オレは、ただ……」


少女「だって」


少女は、遮るように言葉を挟む。

声は小さいのに、妙に通る。


少女「あなた、魂だけここに居るんだよ?」


一瞬、意味を理解できなかった。


港「……は?」


少女「一般人は、そんな状態にならないでしょう?」


言葉が、頭に落ちてこない。

理解を拒むように、思考が空回りする。


(魂……だけ?)


無意識に、自分の手を見る。

雪は、確かに踏めている。

息も、吐けている。


「ここにいる」感覚は、はっきりある。


それなのに。


港「……何、言ってんだよ」


笑おうとしたが、うまくいかなかった。

喉が乾いて、声が掠れる。


港「そんなわけ……」


少女は何も言わず、ただ港を見ていた。

否定もしない。

肯定もしない。


その沈黙が、何よりも怖かった。


港「……」


視線を逸らし、屋敷の扉を見る。

今は、それ以上この話を続けたくなかった。


港「……いい… 今はいい、状況に頭が追いつかん…

とりあえず外は寒い中に入ろう」


そう言って取っ手に手をかける。

だが、扉は動かなかった。


港「……鍵、かかってる」


嫌な予感が、現実になる。


ポケットから、あの鍵を取り出す。

差し込み、回す。


——回らない。


港「……使えねぇ」


小さく吐き捨てた、そのとき。


少女「正面は、だめだよ、怒られちゃう」


港「……?」


少女は屋敷の横、霧の濃い方を指差した。


少女「裏からなら、行けるよ」


そこに道があるようには見えない。

それでも、少女は迷いなく歩き出した。


港「……なぁ」


呼び止めようとして、言葉が止まる。


(信用していいのか分からない)


けれど。


(……他に、選択肢もないか)


港は一度だけ深く息を吸い、

少女の後を追って、霧の中へ足を踏み出した






出会いは、必ずしも救いではない。

時にはそれは、

現実だと思い込んでいたものを、静かに壊す引き金になる。


「魂だけがここにいる」


その言葉が意味するものは、まだ分からない。

否定もできるし、理解もできない。


それでも一度聞いてしまえば、

もう“ただの夢”には戻れない。


正面の扉は閉ざされ、

別の道が示された。


進んだ先にあるのが屋敷なのか、

それとも、さらに深い場所なのか——

それを知るのは、もう少し先の話になる。

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