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Dream memory  作者: まっき
4/9

夢の記録

夢から覚めたはずなのに、

目に映る現実が、どこか遠い。


体は確かにここにある。

天井も、光も、音も、全部知っているものだ。

それでも、意識の奥にだけ、まだ夢の感触が残っている。


戻ってきたのか。

それとも、まだ途中なのか。


その判断がつかないまま、

朝は何事もなかったように始まった。

目を覚ました瞬間、夢乃港は強く息を吸い込んだ。

肺いっぱいに空気を入れたはずなのに、どこか足りない感覚が残る。


「……っ、は……」


天井が視界に入る。

白く、少し黄ばんだ、見慣れた部屋の天井。

カーテンの隙間から朝の光が差し込んでいる。


「……あぁ……ここは…部屋、だよな

やっと起きたのか俺……」


そう口に出して、ようやく自分の居場所を確認する。

だが心臓の鼓動は早いままで、呼吸もなかなか整わない。


夢だった。

そう結論づけるには、体がまだ夢の中に引っかかっているような感覚があった。

背中に、何かが触れていた“名残”だけが、はっきりと残っている。


「……ない、なんもないって、」


誰に言うでもなく呟き、布団から起き上がろうとする。

その瞬間、視界がわずかに揺れた。


「……うわ」



反射的に額に手を当てる。

じんわりとした熱が、掌に伝わってくる。


「ほんと最悪……」


枕元のスマートフォンを見ると、仕事に出るにはそろそろ動き始めなければならない時間だった。

だが、この状態で外に出る想像ができない。


「……これで仕事に行くってのは、さすがに無理だろ」


短く息を吐き、休む連絡を入れる。

電話を切ると、部屋の中は驚くほど静かになった。


「……静かだな」


耳を澄ませると、聞こえるのは自分の呼吸音だけだ。

その静けさが、さっきまでいた病院の廊下を連想させる。


「……夢だよな、さすがに」


キッチンで水を飲む。

喉を通る感覚ははっきりしているのに、どこか現実味が薄い。


体温計を見ると、微熱だった。

数字だけ見れば、大したことはない。


「このくらいで休むのもな……」


そう呟きかけて、言葉を止める。


「……いや、今日は無理だ、どうもあの感じが頭から離れんうえ気分が悪い」


あの夢を見た直後だ。

頭も体も、普段の状態とは明らかに違う。


ベッドに腰掛け、しばらく考える。


「……結局あの夢、なんだったんだよ」


白い空間。

水位が上がる感覚。

赤い扉の向こうの、病院の廊下。


「……病院、か」


誘導灯の緑が、やけに鮮明に思い出される。

開かなかった扉。

手術室。

そして、鍵。


「……意味わかんねぇよなぁ、、」


考えれば考えるほど、頭の中が散らかっていく。

夢乃港は机に向かい、引き出しからノートを取り出した。


「本当は嫌だけどこういうときは書いて整理させよう」


日付を書き、ペンを走らせる。


――昨夜、妙に現実感のある夢を見た。

 病院の廊下。誘導灯の緑。

 人の気配はないのに、無人だと言い切れない感じ。


「……現実感、ってなんだよ」


自分で書いた言葉に、小さく息を吐く。

それでも、書くことで頭の中が少しずつ整理されていく。


――怖い、というより、

 理由の分からない嫌悪感があった。気色が悪かった


ペンが止まる。


「……嫌悪感もあった、だけど確実に言えるのはひとつ、絶対あそこには行きたくない」


そう独り言を呟きしばらく考えてから、書き足す。


――追われた感覚はない。

 ただ、近づいてはいけないものが、近づいてきた。


「ほんと、嫌な言い方だな」


ノートを閉じ、背もたれに身を預ける。


「夢だよな」


そう言い切ろうとして、声が弱くなる。


「……夢、だよな」


そのまままた夢の世界へと溶けていく

夢だと片付けるには、

引っかかるものが多すぎる。


正体の分からない気配。

理由のない嫌悪感。

そして、確かに「そこにあった」としか言えない感覚。


日記に書き留めることで、

理解できた気になろうとした。

だが、文字にした瞬間、

それは「なかったこと」にはならなかった。


夢は終わったはずなのに、

違和感だけが、静かに残っている。

そしてまた悪夢が始まろうとしている

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