7話 闇ギルドの蠢動
???side
——私は、一体何の為に生きているんだろうか?
親の顔も自身の生まれた意味すらわからず、流され続けるまま堕ちるところまで堕ちて、たまたま鑑定スキルを持っていたが故に闇ギルドの末端構成員——とは名ばかりの実質奴隷——として、言葉通りあらゆる意味で闇ギルドに奉仕しながらかろうじて生かされている。こんな惨めな自分が嫌になるけど、だからといって己の手で全て終わらせる——つまり、死ぬ勇気すら持てない臆病者、それが私だ。できる事なら誰か助けてほしい。
——なんて、そんな虫の良い話がある筈がないのは、私自身が一番知っている。
今日まで闇ギルドに所属している事で一体どれだけの悪事に加担したのか、それをいちいち数えるまでもなく私が悪人なのは事実。
だから、私が救われるような事などあってはならないのだ。
いつか、私の罪を命を以て清算してくれる正義の味方が現れて、汚れた私を断罪してくれますように。
???side 終
▷▷▷
ひとまず修行を終えた僕はアリオン達と合流する事になるのだが——、そのタイミングで全員、ダン教官に呼び出された。
「それで?ダン教官、話とはなんですか?ボクもあまり暇ではないんです。今月に納品予定の薬剤調合がまだ終わってませんし……」
フリューが不満を滲ませつつ、単刀直入に尋ねる。
実のところ、【無名の星屑】の懐事情はあまり良くはない。冒険者としての稼ぎはほとんど必要経費と、僕達が拠点にしている安宿の部屋代に消えている。
フリューはそんな僕達を支える為に、普段から回復薬などの需要が高い薬剤を作って納品する内職をしているのだ。
——フリューが作る回復薬等の各種薬剤はその品質故に、冒険者界隈で【エルフ印の高級薬剤】として重宝されているのはここだけの話——
流石にその予定を邪魔されたら、いくらフリューでも機嫌悪くなるのは無理もない。
「ご……ごめんよフリュー君、とはいえこれは君達にも伝えておこうと思ってね。昨日、狩り場で襲撃してきた奴らを覚えてるかい?」
「ッ!?あの盗賊どもの事ですか……」
「ああ、確かボクがテラワロス茸の抽出物を飲ませたあの輩達ですね?」
「……焼肉パーティーの時の話か…………」
僕以外の3人が思い思いの反応をするが、そもそも何の話をしているのだろうか?
聞く限りだと昨日、アリオン達は狩り場で焼肉パーティーしてて、なおかつ盗賊に襲撃されたらしくて——、
——って、フリューさん何言ってんの!?【テラワロス茸】ってあれでしょ?食べるとしばらく笑いが止まらなくなる変なキノコ!?
いや、フリューが個人的な研究用にそういう物を色々集めてるのは知ってたけど、それを盗賊に飲ませた???
ダメだ情報量が多すぎる……それはそれとして、僕も焼肉パーティー参加したかったなァァァァァァ!!!!(泣)
「そういえば、その日アルマ君は訓練所に居たんだったね。では最初から説明しよう。最近、王都周辺に冒険者を専門に狙う盗賊が出るようになったから、狩り場の見回りついでにアリオン君達にもその事を伝えようとして、ついでに新鮮なギルファンゴの肉が手に入ったから一緒に焼肉パーティーを……」
「だったら最初から僕も呼んでくださいよ!!!とりあえずアリオン達が無事で良かったけど…………僕も焼肉食べたかったなァァァァァァ!!!」
話を聞いたら聞いたで、もはや情緒がめちゃくちゃだ。なんとも羨まけしからん。
「いや、その件については本当にゴメン!!アルマ君を仲間外れにする意図はなかったんだ!!」
ダン教官が頭を下げているが、食べ物の恨みは恐ろしいんだコンチクショウメコノウラミハラサデオクベキカ……
「アルマ、あんまりわがまま言うようだと貴方にも一服盛りますよ。ダン教官も、そろそろ本題に戻ってください」
今日もフリューが怖いです。流石に仲間に毒を飲ませる事はないだろうけど、思いつく限りでも【テラワロス茸】とか下剤とか——フリューなら本当にやりかねないのがめちゃくちゃ怖い。
「さて、話を戻そう。あの盗賊達の事だけど、ただの盗賊がこうも冒険者ばかりを狙うとは考えにくい。なにせ冒険者という職業は総じて荒事に慣れているからね。確証はないが、"闇ギルド"の息がかかった奴らかもしれない。もちろん、模倣犯も何割か混ざってるだろうけどね」
闇ギルド、一般的な冒険者ギルドとは異なる、非合法依頼を取り仕切っている——、と言われている裏の冒険者機関。
規模も組織構造も不明の半分与太話のような存在だと思っていたが、ダン教官がそう言うからにはおそらく実在するのだろう。
「昨日のような事があった以上、君達もまた狙われるかもしれない。気をつけてくれ」
それだけ伝えるとダン教官はギルドの仕事に戻り、僕達もそのまま解散となる。
——やっぱり、これからは僕が皆を守らなきゃあいけない。今回の修行で、僕は今までよりも強くなったがここで満足しててはダメなんだ。
ならば僕は僕なりにもっと強く、仲間を守れるだけの力を求め続けよう。僕は心の中で、一人そう決意を固めた。




