6.5話 許された者達は
アリオンside
——王都クロスキングスの北東部に点在する平原地帯。サイクロプス討伐の為に平原を訪れた俺達は、今まさにそいつとの戦闘の最中だった。
「進め進めよ力の限り 一気呵成に全速前進 その手に勝利を掴むまで!!!」
俺は行進曲のメロディに乗せて、短い詩を唱える。
パーティの士気を鼓舞し、短時間の能力強化を齎す俺の鉄板ネタだ。
「リアン、フリュー、連携攻撃で仕留めるぞ!!」
「タイミングはリアンに任せます。頼みましたよ」
「わかった……」
フリューが連携攻撃に備え、愛用のボウガンに矢を装填、リアンはサイクロプスの真正面に立ち塞がる。
目の前のちっぽけな獲物を叩き潰すべく振り下ろされる剛腕。リアンはその一撃を、両手のトマホークをクロスさせて正面から受け止める。
その後にリアンがサイクロプスの腕をトマホークを振るう勢いで押し返しながら大きく跳ね上げた。
サイクロプスが体勢を崩し、よろめいた隙にフリューがボウガンでの一射——、
——フリューの放った一矢は、サイクロプスの特徴である一つ目を正確に射抜き、敵の視力を奪う。
リアンはというと、既に奴の背後に周り込んでおり踵の腱めがけてトマホークを振り抜いていた。
そのまま倒れ込んだところをトマホークで頭部を叩き割りトドメ。
情け容赦のない残虐戦法だが、こっちも命懸けだ。まぁ、魔物との戦いなんてどこもだいたいこんなモンなんじゃね?知らんけど。
確実に仕留めた事を確認してから俺は、リアンとフリューに周囲を警戒してもらいつつサイクロプスの死骸から魔石などの剥ぎ取り作業に移る。
剥ぎ取り用のナイフで肉を剥がしつつ、骨の一部と魔石を採取した。
「終わったぞ。拠点に戻って少し休んだら、今日はもう終わりにしよう」
2人にそう声をかけて、帰り支度を始めたその時——、
「やあ!!!先程の戦い、途中から見ていたけど見事だったよ!!!アルマ君だけじゃなくて、君達も日々成長しているようだね。結構結構!!!」
やたら明るく、そしてどこか騒がしい馴染みのある声に振り向くと、そこにはダン教官が静かに佇んでいた。やっぱりか……おおかた、巡回ついでに俺達を見かけたから様子を見に来たとかそんなところだろうか?
「ダン教官、狩り場の見回りご苦労様です」
「それもあるけど、今日は君達を探してたんだ!!新鮮なギルファンゴの肉が手に入ったから、これから拠点で焼肉でも、一緒にどうだい?」
焼肉か……断る理由は特にないな。むしろこっちから頼んででもついていきたいくらいだ。
「是非お願いします!!!フリューとリアンも、それでいいな?」
「オレ……腹減った。焼肉、食う」
「アリオン、リアン、羽目を外しすぎないように頼みますよ……?まぁ、今日くらいは良しとしますか」
——即断即決、今晩は焼肉パーティーだ。
茜色に染まりつつある空の下、俺達は有頂天で拠点へと向かった。冒険者は身体が資本。つまりメシは全てに優先するぜ!!!
もしもここにアルマがいたら、誰よりも喜んだだろうと、ふと思った。
▷▷▷
「どんどん焼くから好きなだけ食べてくれ!!!」
ダン教官……貴方は神ですか!?
久しぶりの贅沢なメシに感動しつつもじっくり味わう。
どうやらこのつけダレ、ダン教官の自家製らしい。香辛料の香りと甘辛い味付けがマッチしてて、思わずここが野外である事を忘れそうになる。これ、もしも酒場とか飲食店のメニューだったらいくらするんだ?
そして〆に出てきた切り落とし肉と野菜の炒め物がこれまた美味い!!!
最終的にはフリューも含めて全員、夢中になって食べるあまりに会話すら忘れていた。
「ふぅ……食った食った。ところでダン教官、貴方がわざわざ狩り場の見回りなんて穏やかではありませんね」
「実はその話なんだけど、最近この辺りに冒険者を専門に狙う盗賊が出るらしくてね。厄介な事に資格を剥奪された『元冒険者』も多く所属しているらしく、ギルドも手を焼いているんだ。それで俺が見回りをしているって訳さ」
なるほど、どうりで。ダン教官がわざわざ出張ってくるなんてただ事ではないと思ったが、それなら充分に納得できる理由だ。
焼肉パーティーと焚き火の後始末をして、帰路に就く俺達だったが、その時思わぬ事態が発生する。
——唐突に、煙を発する瓶が投げ込まれたのだ。
「毒かもしれない!!!みんな口と鼻を押さえるんだ!!!」
ダン教官は冷静に状況を分析し、俺達に指示を出す。確かに対応としては間違ってなかったが——、
それこそが襲撃者に付け入る隙を与える結果となってしまった。
「全員動くなァ!!!動いたらこの娘を殺す!!!」
「しまった!?フリュー!!!」
煙幕に紛れて近付いてきた襲撃者は、フリューを人質に取りながらがなり立てる。周囲は既に、コイツの仲間らしき連中に囲まれていた。
「金目の物をありったけ置いてけ。そしたらこの娘の命だけは助けてやる」
クソ!!!アルマに追い抜かれないように『強くなる』と誓った途端にこれかよ!!!こんな時どうすれば……!!!
「フリュー君を離せ……」
ダン教官が、背筋が凍りつきそうな冷たい声で呟く。あまりのプレッシャーに、襲撃者達も気圧されている。
「もう一度言う、フリュー君を離せ……」
「ち、近寄るんじゃあねェーーーー!!!」
奴らの注意が、完全にダン教官へと向けられたタイミングで、どこからともなく鳥の羽ばたくような音が無数に聞こえてくる。
ホーーー……
ホーーー……
ホーーー……
ホーーー……
あれは、梟か?森の中でもないのになんで梟が……?そうか、フリューの【鳥使い】のスキル!!!
梟達は一斉に襲撃者どもへと襲いかかり、辺りは混沌とした様相を呈した。
「フッ……!!!」
「ウゴッ!?」
その隙にフリューは男の腹に強烈な肘打ちを叩き込み脱出——、しただけでなく、逆に背後に周り込みヘッドロックをかけながら、試験管に入った何らかの液体を飲ませた。
「オェ……!!ゴホッ……ゴホッ……」
「全く、ボクが自分の身も守れない、か弱い乙女にでも見えましたか?だとしたらその目は節穴ですね」
「テメェ……!!!俺に何を飲ませ……ッ!?ハハハハハハハハハ!!!なんだこれはハハハハハハハハハ!!!」
突然、男は笑い出した。それこそなんの脈絡もなく、俺達からすれば何が面白いのかすらもわからない。
「貴方に飲ませたのは、【テラワロス茸】の抽出物です。テラワロスとは、古代ネラー文明の言葉で【爆笑】を意味する——、ここまで言えば、もうおわかりですね?」
いつもの事ながら、フリューの笑顔が怖いです……それはさておき、今がチャンスだ!!
「やっちまえ!!!リアン!!!」
「ウォォォォォォォォ!!!」
そこから制圧完了まではあっという間だった。リアンが圧倒的フィジカルに任せて次々と破落戸達を殴り倒して状況終了。
——とりあえず、逆転のきっかけを作ってくれたダン教官には感謝してもしきれない。
▷▷▷
その後、捕らえた破落戸どもをギルドへと引き渡して、ついでにサイクロプス討伐依頼の達成報告も終えて、拠点であるいつもの安宿へと帰る。
——今日はマジで疲れたわ……一日の間に色々あり過ぎた。これ以上何かする気にもならんし、もう寝よう。
アリオンside 終




