4話 フォックストリームアタック!!!
あれからというもの、毎日練氣術の鍛錬をくり返した僕は、【魔鎧装】の魔力消費が軽減されたのをはっきり実感できるようになった。
——そして、今日はいよいよ実戦形式の鍛錬だ。
「今回はテイマーのロブスさんの協力のもと、魔物との実戦を想定した鍛錬を行うよ!!」
ダン教官と一緒に訓練施設のアリーナへと向かう。
「魔物との実戦って……一体なんの魔物なんですか?流石に飛竜種とかはまだ無理ですよ?」
僕は恐る恐るダン教官に尋ねた。
「今回の魔物は、アーマーフォックスだよ」
——アーマーフォックス。頭部から背中にかけて頑丈な甲殻を有し、俊敏な動作が特徴の狐に似た小型魔物。
主に山岳地帯や森に生息するが、自発的に人間を襲う例はあまりない。
だが下手に刺激すると、頑丈な甲殻を生かした空中回転体当たりを繰り出してくる。
この回転体当たりの威力は、ガード無しでまともに受けたら良くて骨折、最悪の場合は内臓破裂もあり得る。
実際、アーマーフォックスを怒らせた結果として執拗に追い回された挙句、逃げる途中で背後から回転体当たりを受けて背骨が真っ二つに折れた冒険者もいるらしい。
「骨折くらいなら俺のスキルで治せるけど、油断してると取り返しのつかない結果を招く。ましてや、相手はテイマーに訓練された魔物だ。くれぐれも気をつけて!!」
そんな相手と戦いながら、練氣術も切らさないなんて正直イカれてるとは思うが、このくらいで音を上げるつもりはない。
「ちなみに、ダン教官のスキルってなんですか?」
「俺かい?俺のスキルは【モンク】だよ」
【モンク】——、格闘家系のスキルで、気功による治癒と肉体強化の能力を併せ持つ。
ああ……(納得)
実際、ダン教官ってめちゃくちゃ筋肉モリモリマッチョマンな体格だし、そりゃあ格闘家系だよなぁ……
太ももなんてもう丸太のようだし、あの脚で股間蹴られたら、一撃で男として再起不能になりそう。
そんなどうでもいい事を考えながら、アリーナへと続くドアを開け、中に入る。
「よお、待ちくたびれたぞダン」
「ロブスさん。今日はよろしくお願いします」
「で?そっちの坊主が今回の挑戦者か……」
「アルマです。よろしくお願いします」
ロブスさんは僕を注視しながら、顎髭をさすりつつ何か考えている。
「よしアルマ、3分だ。3分耐えたら合格でいい」
3分……??3分耐えるだけ??流石にそれは簡単過ぎるんじゃあないだろうか?何はともあれ、一度やってみないとわからない。
僕は少し緊張しながらアリーナの中へと踏み込んだ。
▷▷▷
やがて、3頭のアーマーフォックスが檻から解放されて、アリーナへと送り込まれる。
大丈夫だ……練氣術を維持しながら、アーマーフォックスの動きを注視すれば対応できる筈……僕は愛用の戦棍を固く握り締める。
「廻!!!」
ロブスさんがそう叫ぶと、3頭のアーマーフォックスは一定の距離を保ったまま、僕の周囲をグルグルと周り始めた。そしてそのままだんだんと加速して、ジリジリと包囲を狭めてくる。
「畳み掛けろ!!!」
ロブスさんの指示の直後、3頭のアーマーフォックスがそれぞれ別方向から空中回転体当たりを繰り出してきた。
——、【魔鎧装】、発動!!
両手両脚と胴に外骨格を形成し、鎧の代わりとする。その後、身を屈めて3方向からの同時攻撃をやり過ごした。
回転体当たりを繰り出したアーマーフォックス達は肩透かしを食らったように、僕の頭上スレスレを通過していく。
よっし!!!まずは初撃に対処できた!!
「なかなかやるな……包囲を維持しつつ、波状攻撃!!」
——次の瞬間、アーマーフォックスの動きが明らかに変わった。変則的な方向転換を取り入れた複雑な連携に——。
だが、驚いているばかりでもいられない。
左後ろからの回転体当たりを、振り向きざまに外骨格のガントレットでパリングし、弾き返した後に戦棍を構え直し——、
——た直後に真後ろから、直撃をもらった。
「か…………ッは……!?」
——時間差攻撃……!?
外骨格で造った鎧のおかげでダメージはかなり軽減されてはいるが、身体の芯まで届く衝撃に思わず息が詰まる。
——その隙を、アーマーフォックス達が見逃してくれる訳もなく今度は胴に回転体当たりを受けてしまった。意識がブラックアウトする。
「結局、3分持たなかったか。まぁ、頑張った方だな」
意識を失う直前に、ロブスさんがそう呟いたのが聞こえた。




